2023年トニーが来たことで、未来が変わってしまったであろう、2012年のトニペパ。
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「しくじった…」
突然リアクターの調子が悪くなり、ぶっ倒れてしまった。サーファーくんの機転で最悪なことにはならなかったが、その間にトナカイくんは逃走してしまった。それも4次元キューブを持って…。お偉いさん方の目の前での失態に、こっぴどく怒られるかと思ったが、流石に体調不良どころか、不整脈のせいだったので、怒られずには済んだ。
ちなみにあの後、神様は弟を追いかけてどこかへ行ってしまった。
病院へ行くよう言われだが、先にリアクターの調子を確認しようと、タワーへと帰ってきたトニーだが…。
「おいおい…めちゃくちゃだな…」
ハルクが大暴れしたせいで、部屋中大惨事になっている。あちこちにガラスは散々し、壁は壊れ、ワイングラスも粉々になっている。
確かペッパーがお気に入りだと大切にしていたはずのグラスも…。
溜息を吐いたトニーは頭を抱えた。
まずは割れた窓を…ロキが自分を投げ飛ばした窓をどうにかしなければ…と、業者に連絡したトニーだが、NYの街中に被害が及んでるのだから、すぐにはどうにもならないと言われた。
何度目かの溜息を吐いたトニーが、ガラスだけでもどうにかしようと、掃除機を探しにいこうとした時だった。
エレベーターが開き、ペッパーが飛び出してきた。目に涙を浮かべたペッパーは、トニーの無事な姿を見ると、安心したように息を吐いた。そしてガラスを避けながら小走りに近づいてくると、トニーに勢いよく抱きついた。
「よかった…トニー…。無事で良かった……」
泣き始めたペッパーをトニーはぎゅっと抱きしめた。トニーの胸元に顔を押し付けたペッパーは、くぐもった声を出した。
「ごめんなさい…電話に出なくて…。テレビであなたが戦っている姿を見ていて…」
「いいんだ…いいんだ、ペッパー…」
今こうやって抱き合っているのだから…と、ペッパーを安心させるようにトニーは彼女の頭に唇を押し付けた。
トニーに抱きしめられたままグズグズと泣くペッパー。彼女は強くキツイ女性だと世間ではよく言われているが、今の心優しく可愛らしい彼女は自分だけが見れる彼女の一面…。そんな優越感に浸っていると、ペッパーが涙を拭きながら顔を上げた。
「大丈夫?怪我はない?」
彼女の頬の涙をぺろりと舐めたトニーは、頬を優しく撫でた。
「怪我はない…多少の切り傷はあるが…。それより、しくじってしまった。さっき不整脈を起こしたが、その間にロキが………」
と、ペッパーが眉をつり上げた。
「不整脈ですって?!!!!」
叫び声を上げたペッパーは、トニーから身体を離した。
「どうして呑気にこんな所にいるのよ!病院へ行かなきゃダメでしょ!!」
鬼のように目を吊り上げたペッパーは、金切り声を上げると、トニーの手を引っ張り、有無を言わせずエレベーターへと押し込んだ。
ということで、トニーは病院へ強制連行され、即入院となった。
検査結果に異常はなかったが、念のため経過をみることになり、数日間入院することになった。
「大丈夫だから、家に帰ろう」
病院のベッドの上で、山程モニターを付けられたトニーは、付添うペッパーに提案したが、彼女はジロリとトニーを睨みつけた。
「大丈夫な訳ないでしょ?!不整脈で倒れたんでしょ?!そのまま死んでたらどうするつもりなのよ!!!!」
そう叫んだペッパーは、顔を歪めると、大粒の涙を流し始めた。
「は、ハニー?!」
トニーは慌てた。こんなに取り乱すペッパーを見たのは久しぶりだったから…。
何とかペッパーを落ち着かせようとするトニーだが、ペッパーは止まらなかった。
「さっきの戦いでもそうよ!あなたの電話に出られなかった…。もしかしたら…あのままあなたは死んでいたかもしれないのよ?!あなたなしで…私…どうすればいいのよ!」
トニーは気づいた。ペッパーが恐れているものの正体に…。それは、何も言わずに突然自分がいなくなること…。ペッパーのいない場所で、死を迎え、永遠の別れを告げること…。
まだ泣き続けているペッパーを見つめたトニーは決断した。彼女を安心させる方法はただ一つ…。それは彼女と恋人になってから、ずっと考えていたことなのだが…。
手を伸ばしペッパーを抱き寄せたトニーは、ベッドの中でしか出したことのないような甘ったるい声で囁いた。
「ハニー、結婚しよう」
ペッパーが泣き止んだ。顔を上げたペッパーは、唇をギュッと噛み締めた。
「どうしてこんな時にそんなこと言う…………け、結婚?!!!!」
ポカンと口を開けたペッパーは、ようやくプロポーズされたことに気づいたようで、悲鳴を上げた。そして、顔を真っ赤にしたペッパーは、その場で飛び上がると立ち上がった。
「あぁ、そうだ。結婚しよう。いや、結婚してくれ。君なしで生きていけないのは私も同じだ。君も私なしでは生きていけない。お互いの利害が一致してる。それに、結婚すればずっと一緒だ。永遠に一緒にいられる。だからいいだろ?」
トニーは冗談を言っているのかと思ったペッパーは、目をパチクリさせていたが、突然笑い始めた。
「トニーったら!冗談はよして!」
ケラケラ笑い続けるペッパーに、トニーは目をくるりと回した。
「私が冗談を言っているように見えるか?冗談ではない証拠に…」
そう言うと、トニーは病室の外に控えているハッピーを呼んだ。
「ボス、呼びましたか?」
のんびりと部屋に入ってきたハッピーに、トニーは頷いた。
「あぁ、ハッピー。例のもの、持ってるか?」
何度か瞬きしたハッピーは、目を輝かせた。
「勿論持ってますよ!何年もずっと持ってました!」
ポケットを探ったハッピーは、何かを取り出した。小さな光り輝くもの…それは、指輪だった。
「え……」
ハッピーから指輪を受け取ったトニーは、指輪とトニーの顔を見比べているペッパーの頬を撫でた。
「これで私が本気だと信じてくれるか?」
真剣なトニーの瞳が全てを物語っていた。トニーは真剣に2人の将来を考えてくれていた…。彼にこんなにも愛されている…何て幸せなんだろう…。
何度か瞬きをしたペッパーだが、ようやくトニーの気持ちを受け止めると、彼に向かって左手を差し出した。
「トニー…愛してるわ…」
ニッコリ笑ったペッパーの目から、再び涙がこぼれ落ちた。
ほっと息を吐いたトニーは、指輪をペッパーの指に滑り込ませた。
「いつ用意したの?」
先程ハッピーはずっと持っていたと言っていたが、彼は一体いつ指輪を買ったのだろう。
「アフガニスタンから帰ってきた後だ。前も話したが、あの時、君のことを愛していると気づいた。だからいつプロポーズしてもいいように、用意していた」
照れ臭そうに鼻の頭を掻いたトニーに、彼の気持ちが嬉しくてたまらなくなったペッパーは抱きついた。
「絶対に…絶対に…あなたのそば…離れないわ…」
そう囁いたペッパーに、トニーはニヤリと笑みを浮かべた。
「当たり前だ。何があっても君から離れないからな…」
ペッパーの頬を撫でたトニーは、唇を奪った。ペッパーもトニーの頭を抱え、唇を押し付けた。次第に深くなるキス。トニーの膝の上に座ったペッパーは、はだけたガウンから見える彼のリアクターに指を滑らせた。
気を利かせたハッピーは、キスをし続ける2人に「おめでとう」と囁くと、そっと部屋を出て行った。
「で、いつ結婚する?」
キスの合間にトニーが尋ねると、甘い吐息を吐きながら
「今はあなたが元気になる方が先よ」
と、ペッパーは答えた。
「十分元気だぞ?」
眉を吊り上げたトニーは、下半身に視線を送ったが、ポッと頬を染めたペッパーは、
「家に帰ってからね…」
と、トニーの耳朶を甘噛みした。