「パパ!まって!」
パタパタと走ってきたモーガンは、車に乗り込もうとしていたトニーを押しのけると、我先に後部座席へと座った。
一人で行こうと思っていたのに…と目をくるりと回したトニーだが、結局のところ娘には甘いトニーなので、肩をすくめると娘の隣に座った。
「モーガン。パパは用事があって出掛けるんだ。面白くないぞ?」
そう言ってみたが、頬を膨らませたモーガンはプイッと顔を背けると、窓の外を眺め始めた。
アイアンマンのリュックサックを背負ったモーガンを見つめながら、トニーは考えた。
モーガンは父親である自分のことが大好きだ。それは母親であるペッパーがCEOとして多忙な毎日を送っているため、父親の自分が常に家にいるからかもしれない。大好きだと言ってくれるのは嬉しいが、モーガンは常にそばから離れようとしないのだ。それは彼女の物心がついた頃からずっとなのだが…。
もし、自分に何かあったらどうするのだろう…。数年前のあの出来事は未だ解決していない。恐らくいつかは…今は避けているが…決着をつけねばならないだろう。そうなると、自分は戦いの場に出向かねばならない。もしかしたら、二度と戻ってくることのできない…そんな戦いになるかもしれないのだ。
ペッパーとそしてモーガンと別れなければならないという覚悟。そんなものが出来るはずはない。娘が成長するにつれ、覚悟なんてますます出来なくなってきた。それでもアイアンマンである以上、必ずや覚悟を決めねばならない時がくるだろう。
娘にその覚悟をしろというのは酷かもしれない。幼い娘にそんな重圧を掛けたくなかった。だが…。
「なぁ、モーガン。パパがいなくなったらどうすんだ?」
そっと言葉に出してみた。娘には聞こえない程の小声で言ったつもりだったのに、モーガンの耳にはちゃんと届いていた。振り返ったモーガンは、顔面蒼白だった。
しまった…と小さく舌打ちしたトニーだが、顔を歪めたモーガンの目には大粒の涙が溢れ始めた。
「パパ…いなくなっちゃうの?」
悲痛に満ちたその声に、トニーはキリキリと胸が痛んだ。
「モーガン、違うんだ。その…」
どう繕おうかと迷っていると、モーガンは声を上げて泣き始めた。慌てて娘に手を伸ばすと、モーガンは号泣しながらトニーに抱きついた。
「モーガン、今すぐじゃない。だが、モーガンが大きくなったらパパも歳をとって…」
言い訳がましく一般論を口に出してみたが、モーガンは口を一文字に噤むと叫んだ。
「いや!いやだ!パパはずーっとあたしといっしょにいるの!!」
「モーガン…」
顔を真っ赤にして叫んだモーガンは、縋るようにトニーのジャケットを握りしめた。
「あたしがいいこにしてたら、パパ、ずーっといっしょにいてくれる?」
モーガンは必死だった。きっといい子にしていれば、父親はそばにいてくれると考えた彼女は、必死に父親に訴えた。
「モーガンはいい子だ。ママのように優しくて、素直で…パパとママの自慢の娘だぞ?」
父親の言葉にようやく安心したモーガンは、涙を拭うとギュッと父親に抱きついた。
父親の言葉は嬉しかった。だが、自分の質問に父親は答えてくれないのだ。いつもなら何でもすぐに答えてくれるのに…。もしかしたら聞いてはいけないことなのかもしれない。だが、ずっと一緒にいたいということが、どうしていけないことなのだろうか…。そう考えたモーガンは、もう一度尋ねてみることにした。
「パパ……」
「ん?」
父親の優しい声に、モーガンは意を決して顔を上げた。
「パパとママとあたし…ずっといっしょだよね?」
娘の真剣な眼差しを受け止めることが出来ず、トニーは目を逸らした。
「そうだな…。パパはずーっとモーガンのそばにいるよ…。どんなに遠くにいても…ずっとそばにいる…」
と、モーガンが安心したように息を吐いた。
「よかった…。やくそくよ…」
が、トニーは黙ったままだった。黙ったまま、娘の頭を撫で続けた。
それは、『約束』の意味の大きさを知っているから…。
約束は守れそうにないから…。約束を守れないのに頷けば、娘が傷つくと分かっていたから…。
トニーは、娘の言葉に頷くことができなかった。
エンドゲームみてからトニペパの尊さがさらにさらに私の中で大きくなって、、、素敵な小説に励まされてます。ありがとうございます!!
ありがとうございます。( ;∀;)
そう言って頂けると、本望です。