2日後。
手術に備え、ワカンダから医師団がやって来た。
皆を代表して、シュリがトニーの元へやって来たのだが、初めて顔を合わせるシュリは彼女の兄に似ているが、快活で明るい女性だった。
「初めまして、スタークさん。シュリです」
差し出された手をトニーは軽く握り返した。
「トニー・スタークだ」
トニーに向かって笑みを浮かべたシュリは、今度はペッパーに向かって手を差し出した。
「妻のペッパーです。この度はよろしくお願いします」
ぺこぺこ頭を下げるペッパーの手を取ったシュリは、任してくださいと頼もしい言葉をかけた。
丸一日にも及ぶ手術が終わる頃、ローディやピーターも病院に駆けつけた。
無菌室に作られた装置にトニーは寝かせられた。透明な箱のような物に入れられたトニーは感染症を防ぐために、暫く麻酔で眠らせることになっていた。そして動かないように身体も固定されていたが、やはりかなりの痛みがあるようで、強い鎮痛剤を投与されていても、狭い箱の中でうなされていた。
見ているだけでも胸が痛む光景に、重苦しい空気が漂った。再び全身を包帯で覆われたトニーに目をやったローディは、その場を和ませようと
「まるでミイラだな」
と言ってみた。だが、逆に雰囲気は余計に重くなり、こういう時に気の利いたジョークを言えるトニーをローディは恋しく思った。
数日経っても、トニーの容態は落ち着かなかった。高熱にうなされるトニーだが、関係者以外触れることもできず、ペッパーはただ部屋の外から祈ることしか出来なかった。
それから数日後、どうしてもパパに会いたいと泣くモーガンを連れてやって来たのだが、部屋に近づくにつれ、バタバタと騒々しくなってきたのだから、ペッパーは顔色を変えた。
何かあったのかと確認しようとしたペッパーに気づいた看護師が駆け寄ってきた。
「あ!スタークさん!丁度ご連絡しようと思ってたんです!」
「トニーに……何かあったんですか…」
トニーが急変したのかと、震え出したペッパーに、看護師は首を振った。
「目を覚まされたんですよ!」
トニーが意識を取り戻した…。不安でたまらなかったペッパーは、安心すると同時にその場に泣き崩れた。
「ママ…」
急に泣き出した母親に、モーガンは不安げに抱きついたが、娘を逆に抱きかかえたペッパーは震える娘に告げた。
「モーガン…パパは…もう大丈夫よ…」
病室に移すため暫く待つように言われたペッパーとモーガンだが、30分もすると看護師が呼びに来たため、そっと部屋に入った。
トニーは目を閉じていた。青白い顔をし、何本もの点滴に繋がれているが、顔の包帯は外れていた。右腕は相変わらず固定されているが、身体中の包帯も全て外されていた。
「トニー…」
トニーは綺麗な顔をしていた。髪や眉毛や髭はまだ生えてなかったが、傷跡は跡形もなく消えており、崩れていた耳も元通りになっていた。つまり、手術は無事に成功したということ…。右頬にそっと触れると、微かに温もりが伝わってきた。
もう大丈夫…。トニーは一つ試練を乗り越えてくれたのだから…。
命が助かっただけでもありがたいことなのに、皆の力で彼は元の生活に戻ることができそうなのだ。
と、トニーがうっすらと目を開けた。
「やあ……」
ようやく見えるようになった右目で妻の顔を捉えたトニーは、彼女が泣きながら笑っていることに気づいた。
「いい男に…なったか?」
「あなたはいつだっていい男よ」
少しだけ微笑んだトニーは、視線をズラした。モーガンを抱き上げたペッパーは、ベッドの端に彼女を座らせた。
「やぁ…パパのお姫様…」
モーガンを見つめたトニーの目から涙がこぼれた。
かけがえのない愛しい存在を、両目でしっかりと見ることができる…。こんなに嬉しいことはあるだろうか…。
何日も激痛に耐えて良かった…。全身を切り刻まれるような痛み。鎮痛剤も全く効かない痛み。動くことも声を上げることもできなかった。ペッパーに手を握ってもらうことすら出来なかった。何度もくじけそうになった。だが、その度にペッパーとモーガンの顔が浮かんだ。2人に絶対に会うんだ…その一心で耐えてきた。こうやって再会することが出来、本当に良かった…。
涙は止まらなかった。
すると、モーガンが小さな指でトニーの涙を拭った。父親は包帯が取れて嬉しくて泣いていると考えたモーガンは、トニーの頬にキスをした。そして
「パパ…3000かい、あいしてる…」
と囁いた。
右頬に感じた娘の唇の感触…。
手術は成功した…。ワカンダには感謝してもしきれない…。
「あぁ…パパも…3000回愛してる」
左手を伸ばしたトニーは、モーガンの髪の毛を掻き分けると、頬を撫でた。と、モーガンが笑った。くすぐったそうに笑った娘は、天使のような笑顔をトニーに向けた。
もう二度と離さない…。この愛しい存在のそばにいるためなら、この先の試練も絶対に切り抜けてやる。
何故なら…私は…アイアンマンなんだから…。
→⑧へ…