Until the last moment 番外編⑬

「パパ、ありがと」
夕方、帰宅したトニーを出迎えたルーカスは、開口一番父親に告げた。息子の表情から、あの後の展開は分かりそうなものだが、小さく笑みを浮かべたトニーは彼の髪をくしゃっと撫でた。
「で、どうだった?」
「あのね、ビクターくんとね、おともだちになれたよ」
頬を高揚させたルーカスは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そうか、よかったな」
にっこり微笑んだ父親に大きく頷いたルーカスだが、何度か瞬きすると真面目な表情になった。
「パパ」
「どうした?」
急に真面目くさった息子にトニーは首を傾げたが、ルーカスは大きな目を見開くと鼻息荒くトニーに告げた。
「パパはね、やっぱりヒーローなんだね」
尊敬の眼差しで見つめてくる息子に、トニーは照れ臭そうに髭を撫でた。

数日後の週末。
今日は父親と出掛けることになっており、母親に手伝ってもらい着替えたルーカスは、リビングで本を読みながら父親を待っていた。
と、そこへやって来たのはスパイダーマン。
「ピーターおにいちゃん!」
本を投げ出し駆け寄ったルーカスを、スパイダーマンことピーター・パーカーは軽々と抱き上げた。
ルーカスにとっては、よく顔を出し遊んでくれるピーターは兄のような存在。今ではすっかりピーターに懐いており、そんなルーカスをピーターも可愛がっていた。
「このまえは、ありがと!」
先日の幼稚園への訪問のお礼を言うと、ピーターはクスクス笑った。
「お役に立てたようだね」
ルーカスの頬を擽ったピーターは、ルーカスを床に下ろした。
「ところで、スタークさんは?」
「パパは…」
ルーカスが言いかけた時だった。
「おい、スパイダー坊や。早く着替えろ」
突然聞こえた父親の声に、ルーカスは飛び上がった。
スーツを着たトニーはカッコよく、ルーカスは思わず見惚れてしまった。トニーはそんな息子を抱き上げると、ピーターに一言二言告げ、ガレージに向かった。

ハッピーの運転する車に乗り込んだ3人だが、ルーカスは気付いた。
ピーター・パーカーはスパイダーマンになっているのに、父親はアイアンマンになっていないのだ。
「パパはアイアンマンにならなくていいの?」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーはルーカスに向かってくるりと目を回した。
「パパはアイアンマンだとみんな知ってるからいいんだ。だが、パーカーくんは…」
「そう。スパイダーマンの正体は秘密だからね」
そう続けたピーターは、悪戯めいた笑みをルーカスに向けた。

3人が向かったのはスターク・インダストリーズが支援している小児病院だった。
トニーは以前より何度もこの病院を訪問していたが、今回初めてルーカスを同伴させたのだ。
子供達はトニー・スタークとスパイダーマンの訪問に目を輝かせた。
車椅子に乗った子供もいれば、病室のベッドの上から動けない子供もいた。
だが、どの子供も、トニーとスパイダーマンに会うと大喜びし、生き生きとした表情になるのだ。
そんな父親の姿はカッコよく、そして誇らしくもあり、ルーカスはとあることを決意した。

「パパ、ぼくね、きめたよ」
ピーターとは現地で別れたため、後部座席にはトニーとルーカスが座っていたのだが、ルーカスはそう言うと父親を見つめた。
いつになく真剣な眼差しに、トニーは思わず姿勢を正した。
「ぼくは、パパみたいなひとになる。パパみたいにやさしくて、それからこまってるひとをたすけるひとになる。だからね、パパのかいしゃでいっしょうけんめいはたらくんだ。あとね、アイアンマンになるよ」
息子の目は並々ならぬ決意に溢れており、トニーは胸が熱くなった。

息子は自分を目標にしてくれている…。
自分にはなかった、父親に対する憧れという気持ちを、息子は自分に抱いてくれているのだ。

トニーは嬉しくて仕方がなかった。
が、同時に感じた。
亡き父も、もしかしたら言って欲しかったのかもしれない…と。

僅かに目を潤ませている父親に気付いたルーカスは、慌てて話題を変えた。
「ぼくもパパみたいなヒーローになれる?」
無邪気に聞く息子に、目元を擦ったトニーは、笑みを浮かべた。
「ルーカスはもうヒーローになったじゃないか」
「え!ぼくがヒーロー?」
驚いたように目を丸くする息子は可愛らしく、トニーはくしゃっと頭を撫でた。
「そうだ。リリーちゃんを守っただろ?喧嘩してもやりかえさなかった。それから…」
と、トニーが一際優しい笑みを浮かべた。
「パパとママがもう一度恋に落ちたのも、ル ーカスのおかげだ」
何度か瞬きをしたルーカスは満面の笑みになるとトニーに手を伸ばした。
息子を膝の上に乗せたトニーは、ぎゅっと抱き付いてきた息子を腕の中に閉じ込めた。
「いいか、ルーカス。ヒーローはな、誰もがなれるんだ。困っている人に手を差し伸べたり、誰かの助けになったり…。どんな小さなことでもいい。勿論、ルーカスが助けてもらった時は、助けてくれた人に感謝の気持ちを忘れちゃだめだぞ?それだけは、ルーカスが大人になっても覚えておいてくれよ…」
「うん!」
元気よく返事をしたルーカスは、トニーの胸元に顔を押し付けた。
(パパがぼくのパパでよかった…)
もう何度思ったか分からない。父親と出会い、毎日のように思っているから…。
「ルーカスが息子で、パパは本当に幸せだ」
どうして父親は自分が考えていることが分かるのだろうと思ったルーカスだが、背中を撫でる父親の手の温もりは心地よく、小さく欠伸をしたルーカスは目を閉じた。

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