I will dream about you.…⑩

バスタブに2人は向かい合って座っていた。
「気持ちいいな…。生き返ったよ」
髪を洗い、身体中の垢を落としたトニーは、大きく息を吐くと、気持ちよさそうに身体を伸ばした。
「髪の毛、切った方がいいわね。明日、スタイリストに来てもらうわね」
手を伸ばしたペッパーは、伸び放題になっているトニーの髪に触れた。そして彼に近づくと、彼の膝の上に向かい合わせで座った。
何が始まるのかと、目をぱちくりさせているトニーの胸元に手を滑らせたペッパーは、リアクターにそっと触れた。

身体中に残る傷。
それは、トニーの心にも深々と残る傷…。
左の胸部に刻まれた真新しい傷をそっとなぞったペッパーは涙が零れ落ちそうになったが、ずっと考えていたことを彼に伝えようと、背筋を伸ばした。
「ねぇ、トニー。お願いがあるの。私にもアーマーを作って」
「え……」
トニーは戸惑った表情を浮かべた。無理もないだろう、ペッパーはずっとトニーがアーマーを着て戦うことをあまり快く思っていなかったのだから…。それは、トニーをいつの日か失うのではないかという恐怖感から来ていたもの。それが分かっていたからこそ、トニーはペッパーを巻き込むまいと、彼女のアーマーを作っていなかったのだから。
戸惑うトニーを説得しようと、ペッパーは言葉を続けた。
「私も戦う。足でまといになるかもしれないけど…。でも、もう嫌なの。あなたのそばにいたい。あなたを1人にしたくない…。あなたにだけ辛い思いをさせたくないの…」
ペッパーはこれから先、共に戦おうとしている。ペッパーの気持ちは嬉しかった。だが、これは遊びではない…。命を掛けた戦いなのだ。トニーは彼女にそこまでの負担を負わせたくなかった。
「君の気持ちは嬉しい。だか、ペッパー。危険なんだ。ここからの戦いは特に…。それが分かっているのに、君を危険な目に合わせる訳にはいかない」
トニーはきっぱりと言い切った。きっと彼はそう言うはずだと分かっていたペッパーは、もう一つ考えていたことを話そうと、彼の目をじっと見つめた。

「いかなる時も共にあることを…幸せな時も、困難な時も、病める時も、健やかな時も…あなたを愛し、慈しむことを誓います」
「ペッパー……」
それは結婚式でよく聞く、誓いの言葉だった。
トニーの目から小さな涙が零れ落ちた。それを拭ったペッパーは、トニーの額に自分の額を付けると囁いた。
「あなたと永遠に共にいることを…今、ここで誓うわ」
ペッパーの鼻の上にキスを落としたトニーは照れくさくなり、囁くように尋ねた。
「式はまだだぞ?」
「でも、私はもう、ミセス・スタークのつもりよ」
悪戯めいた笑みを浮かべたペッパーだが、何か思い出したのか、顔を歪めると目に涙を浮かべた。
「それにね、毎晩あなたの夢を見るのは私も同じ…。最期を迎える時まで、私もあなたの夢を見ていたい…。いいえ、最期の瞬間まで、あなたのそばで、あなたと同じものを見ていたいの」
聞き覚えのある言葉に、トニーは目を軽く見開いた。
死を覚悟して、無けなしの素材を使い、彼女へ遺した最期の言葉。届くことがないかもしれないと、心のどこかでは感じていたあのメッセージは、彼女の元へちゃんと届いていたようだ。
「聞いたのか?」
こくんと頷いたペッパーは、トニーの首元に腕を回すと、ぎゅっと抱きついた。
「あなただけじゃないの…。私もあなたと同じ気持ちよ…。それに、あのままあなたが…宇宙の果ての…二度と会うことが出来ない場所で死んでいたら、私には後悔しか残らなかった…。あの時、一緒に行けばよかったって…何がなんでも止めればよかったって…絶対に一生後悔してた…。トニー…もう二度とあなたを失いたくない…。だからお願い…。最期の瞬間まで、そばにいさせて…」

ペッパーの涙がトニーの身体に降り注いだ。温かく、心にまで染み渡る涙だった。トニーの心にあった苦しみを溶かしてくれる、そんな涙だった。
トニーの目からも涙が零れ落ちた。涙は止まらなかった。
互いの涙は混じり合い、2人を温かく包み込むお湯の中に流れ落ちた。

⑪へ…

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