I will dream about you.…⑨

部屋の外から賑やかな音楽が聞こえ、トニーはゆっくりと目を開けた。
熱が下がったのか、倦怠感は無くなり、ぼんやりとしていた頭はかなりはっきりとしていた。
窓からは昇りきった太陽が見える。どうやら丸一日眠っていたようだ。
喉の乾きを覚えたトニーは水を飲もうとしたが、枕元のボトルは残念ながら空だった。
「ハニー?」
だが、外の音楽に掻き消され、ペッパーにその声は届かなかった。そこで、起き上がったトニーは、ゆっくり立ち上がった。足に力が入らず、一度はベッドに座りこんでしまったが、もう一度立ち上がってみると、今度は大丈夫だった。腕からは既に点滴は抜かれているが、近くに置いてあった点滴のスタンドを杖代わりに、トニーは1歩前へ踏み出した。
足元は覚束無いが、歩けそうだ。
ゆっくりと1歩ずつ歩き始めたトニーは、普段の倍以上の時間を掛けてドアまで辿り着いた。そして何度か深呼吸をすると、ドアを開けた。

リビングでは、ペッパーが音楽に合わせエクササイズの真っ最中だった。
「ごめんなさい、起こしちゃった?」
トニーがやって来たのに気づいたペッパーは、音楽を止めた。
「いや…いい加減動かないと、本当に寝たきりになりそうだ」
ソファに座ったトニーは、ふぅと大きく息を吐くと、身体を沈めた。
「お水、飲む?」
こくんと頷いたトニーに、ペッパーは自分が飲んでいたボトルを手渡した。
ごくごくと水を飲み干したトニーは、ゆっくりと息を吐くと隣に腰を下ろしたペッパーを見つめた。
「今日は何曜日だ?」
「水曜日よ」
ということは平日だ。平日の昼間なのに、ペッパーはどうしてのんびりと家でエクササイズをしているのだろう。
「会社は?」
「暫く休むことにしたの。私にも休暇は必要でしょ?」
『私にはやるべき事が沢山あるの』と、ペッパーは休暇など滅多に取ったことがなかった。それに今は非常事態だ。ただでさえ多忙を極めているポッツ社長なのに、優雅に休暇など取っていてもいいのだろうか。
「大丈夫なのか?」
目を丸くしているトニーを安心させるように、ペッパーは彼の手を軽く握った。
「えぇ。ここでも仕事はできるわ。それにね、あなたのそばにいたいの」
ペッパーの言葉にトニーは頬を緩めた。彼女の気持ちは嬉しかった。正直なところ、彼女がそばにいないと不安で仕方なかったから。ペッパーがそばにいると、心の奥深くに巣食う不安や怒り、そして絶望を封じ込めてくれた。彼女が手を握ってくれると、悪夢を見ることなく安心して眠ることができた。
言葉には出さないが、嬉しそうに見つめてくるトニーの頬に手を当てたペッパーは、そっと唇を重ねた。触れる程度だったが甘い甘いキスに、ペッパーはトニーの背中に腕を回した。が、彼のパジャマはびっしょりと濡れており、また風邪を拗らせては大変だと、ペッパーは慌てて唇を離した。
「汗びっしょりじゃない。着替えないと…」
「それより、シャワーが浴びたい」
ペッパーが毎日身体を拭いてくれていたとはいえ、宇宙から帰還してからは風呂どころかシャワーすら浴びていない。起き上がれるようになったし、いい加減サッパリしたいと考えていたトニーに、ペッパーは頷くと立ち上がった。
「そうね。熱も下がったし…。お風呂を入れてくるわ」

暫くしてペッパーが戻ってきた。
まだふらついているトニーを支えるようにバスルームへ向かったペッパーは、トニーの服を脱がせると、当然のように自分も服を脱いだ。

⑩へ…

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