試験も終わり、後は願書を提出するだけになったペッパー。そしてもうすぐ新学期。
最終学年となったペッパーも、後一年で卒業。
9月26日。2日後はペッパーの17回目の誕生日。
「明日、泊まれるか?」
今日は一日仕事だったトニーから電話がかかってきたのは、日付も変わろうとしている頃だった。
「え?多分大丈夫だけど…。どうしたの?」
笑うばかりで理由を離さないトニーは、ありったけの愛の言葉を囁くと、明日の夕方、家に来るように言い電話を切った。
そして9月27日の夕方。
家に着くなり車に乗せられたペッパー。「少し遠出するぞ?」と言うトニーの言葉に行先を尋ねても、トニーはやはり笑うばかりで何も教えてくれなかった。
一時間ほど車を走らせたトニーが辿り着いたのは、街から離れた森の中に建つ一軒の小さなホテルだった。
「すごい…お城みたい…」
目を輝かせて辺りを見回しているペッパーの手を取ると、トニーは中に入って行った。
「お待ちしておりました、スターク様」
「久しぶりだな。今日は頼むぞ」
ホテルの支配人と何やら話しているトニー。まるでヨーロッパの古城のような造りのホテル。ペッパーは嬉しそうにロビーのあちこちを見ていた。
「今日はかわいらしい方がご一緒なのですね」
ペッパーを見つめるトニーの目は優しく、この方もこのような表情をされるのか…と、昔からトニーを知っている支配人は目を細めたのだった。
少し広めの部屋の真ん中には、大きなダブルベッドが置いてあり、それを見たペッパーは、今夜起こるであろうことを想像し、思わず顔を赤らめた。
「ペッパー…」
背後からトニーに抱きしめられたペッパーは、うなじにキスを受けながら目を閉じた。
トニーのキスはいつだって甘くて優しい。
「トニー…お願い…。シャワー浴びさせて…」
力が抜け始めたペッパーの腰を支えたトニーは、ペッパーを椅子に座らせると部屋の電話を取った。
「その前に、腹が減っただろ?まずは食事にしよう」
部屋に運ばれてきたのは、フランス料理のフルコース。
食べたこともないような美味しい料理に夢中なペッパーを、トニーは嬉しそうに見つめた。
「ねぇ?急にどうしたの?」
空腹が満たされ、「俺の分も食べるか?」ともらったデザートを食べながら聞くペッパーに、トニーは苦笑した。
「まだ分からないか?」
顔に大きな疑問符を描いたペッパーが何か言おうとしたその時、ドアを叩く音がし、部屋の照明が落とされた。
「え?な、何⁈」
急に薄暗くなった室内に驚いたペッパーは、椅子の上で飛び上がった。すると、
「ポッツ様、スターク様からのプレゼントでございます」
支配人の声と共に、ロウソクの光が揺れる大きなケーキがペッパーの目の前に運ばれてきた。
「誕生日…」
ケーキを見たペッパーはようやく気付いた。明日は自分の誕生日であることに。
「あぁ、一日早いが…誕生日おめでとう、ヴァージニア…。本当はレストランで…みんなの前で祝ってやりたいんだが…」
テーブルの上に置いたペッパーの手を取り優しく撫で始めたトニー。その優しい手の温もりに、ペッパーの目からはポタポタと大粒の涙がこぼれ始めた。
「ほら、泣くなよ…」
差し出されたハンカチで涙を拭ったペッパーだが、
「トニー…ありがとう…」
と言うと、声をあげて再び泣き始めた。
感動のあまり泣き続けながらも、ケーキはしっかり食べたペッパーは、シャワーを浴び、バスローブを羽織った姿でベッドに腰かけトニーを待っていた。
(初めてじゃないのに…何だか恥ずかしい…)
真っ赤になった顔を隠すように、ペッパーは膝を抱えた。すると、大きく温かい腕がペッパーを優しく包み込んだ。
「まだプレゼントがあるんだ…。受け取ってくれるか?」
「…うん」
これ以上ないほど真っ赤になったペッパーをトニーは力強く抱きしめた。
***
身も心も蕩けたペッパーは、トニーの腕の中に閉じ込められていた。腕時計をチラチラ見ていたトニーが、
「28日になったな…」
とつぶやくと、ベッドサイドに手を伸ばし何やら小さな箱を手に取った。
「ペッパー、今年は俺が一番に言えたな…。誕生日おめでとう」
箱を開けたトニーは、ペッパーの前に差し出した。
箱の中には、小さな花が咲いたようなかわいらしい指輪。
「え…、トニー…これって―」
照れ臭そうに笑ったトニーだが、ペッパーを見つめる瞳は真剣だった。
「愛してる、ペッパー…。君は俺に愛することを教えてくれた。俺にはこれから先、君なしの人生なんて考えられない。今すぐでなくてもいい…。君が大学を卒業して、まだ俺のことを想ってくれていたらでいい…。結婚してくれ…」
口をポカンと開けてトニーの言葉を聞いていたペッパーだが、弾けんばかりの笑顔を浮かべ、トニーに手を差し出した。その指にそっと指輪を嵌めると、トニーはペッパーを抱き寄せた。
「トニー…私ね、あなたから一生離れるつもりはないわよ。愛してる…私は永遠にあなただけのものよ…」
トニーの瞳を見つめたペッパーは、初めて自分から彼の唇を奪った。
そして…その日いつになく激しく乱れる彼女の中に、トニーは初めて自分の思いを吐き出した。