Kiss the Teacher~夏編4

夏休みになり、ペッパーは『図書館に勉強をしに行く』という名目で、ほぼ毎日トニーの家に来ていた。
が、夏季休暇の終わりには、大学進学のための試験がある。そのため、ペッパーは家に来ても午前中はずっとリビングで勉強をしており、トニーも邪魔をしないように横で仕事をしたり、ラボでゴソゴソとしたりしているのだった。
ペッパーが何か作るか、トニーが買ってきたもので昼食を済ませると、そこからが二人のデートの時間。映画を見たり、ソファーで抱き合い話をしたり…。ベッドで抱き合った後、名残惜しそうにペッパーは「また明日」と甘いキスを残し、家へと帰って行くのだった。

その日は天気も良く、海でも行けば最高だな…とトニーがぼんやり考えていると、目の前に座っているペッパーがじっと自分の方を見ているのに気付いた。
「何だ?」
「ねぇ、トニー…教えてくれる?」
「しょうがないなぁ…言っておくが…」
「分かってるわ。『自分の科目は教えない』でしょ?数学なの…。苦手で…」
「学校で聞けばいいだろ?そのために俺たちが交代で…」
「うん…。でもね、トニーに教えてもらう方が分かりやすくて…」
それは、愛情の問題もあるのでは…と思ったトニーだが、そう言われると悪い気はしない。頭のいい彼女は教えれば教えるだけどんどん自分のものにしていくため、実はトニーも教えるのを楽しみにしていたのだった。

***

「やっぱりトニーって先生に向いているわね。教えるのがすごく上手だもの」
教科書を片付けたペッパーは、キッチンに掛けてあるエプロンを付けながら笑った。
「お昼、何がいい?リクエストあったら、教えてもらったお礼に作るわ」
「ペッパー、俺の所に来てくれるのはありがたいが…。いいのか?ほら、友達と会ったりしなくても…」
「うん…」
トニーの言葉に口を尖らせるペッパー。
トニーが忙しい時は、友達とご飯を食べたりしていたが、やはり年頃。いくら校則で恋愛禁止と言っていても、みな隠れて付き合っており、教師たちも余程のことがない限り黙認しているのが現状だった。そして、夏休みともなるとやはりみんな考えることは同じで、話のネタは彼氏と遊びに行ったことや、惚気話ばかり。世界一素敵な男性と付き合っていると言いたくても言えないペッパーは、いつもニコニコとみんなの話を聞くばかり。居心地の悪さを感じ、最近は足が遠のいていたのだった。

「いいの。みんなも忙しいみたいで…」
何とか言い訳をしようとしたペッパーだが、運悪く電話がかかって来た。
「あ、ごめんなさい…。もしもし…。…うん。え?プール?…うん…今ね、勉強してたの…。うん…どうしよう…」
友達からの電話。天気もいいからプールに行かない?という誘いだった。先ほどの話の流れだと、トニーは行ってこいって言うわよね…。そう思っていると、紙の端に何か書いたトニーがペッパーの腕をつついた。
『たまには行って来いよ』
やっぱりね…。今日は素直に行って来よう…。気付かれないようにため息を付いたペッパーは、わざと明るい声を出した。
「やっぱり行くわ!…。分かった、三十分後ね!」

「家の近くまで送って行くよ?俺も学校へ行かないといけないから」
そう言われたペッパーは、トニーに自宅近くまで送ってもらった。だが、なかなか車から降りようとしないペッパー。
プールに行くなら…トニーと行きたい…。
でも、それは今の私たちには叶わない夢…。

「ほら、着いたぞ?」
トニーに頭を軽く叩かれ我に返ったペッパーは、心配そうに自分を覗き込んでいるトニーの腰に抱きついた。
「どうしたんだ?」
うなじにトニーの唇の感触を感じたペッパーは甘えた声を出した。
「ねぇ…。明日は泊まっていい?」
「あぁ、待ってるよ…」
今の二人にできること…それは限られた空間で過ごすことだけだった。

***

夏休みということもあり、プールは人で溢れかえっていた。
更衣室でもお喋りは尽きることなく、着替えた後もお互いの水着の品評会と化していた。
ビキニタイプの水着も持っているペッパーだが、トニー以外の男性に肌を見せるのもどうかと思い、友達がみなこぞってビキニを着ている中で、一人タンキニタイプの水着を着ていた。
鏡を見ながら髪をまとめていたペッパーだが、首筋に紅い印があるのに気づき、慌ててコンシーラーで隠し始めた。

「ペッパーって、キレイになったわよね」
突然自分の名前が出てきたペッパーは驚き、コンシーラーを落としてしまった。
「そ、そう?」
「そうよ!この半年くらいで急に!胸も大きくなったし、スタイルもいいわよねぇ」
「そういえば、いつの間にかポニーテールにし始めたわよね。あ、眼鏡もかけなくなったし…」
「色っぽくなったし…。お肌ツルツルだし…。大人の女性って感じ!」
「あ!もしかして…彼氏ができたの?」
そこは隠すと逆におかしいかしら…と思いつつ、ペッパーは恥ずかしそうに頷いた。
「…う、うん…」
ペッパーに彼氏ができた! 真面目で恋愛には程遠いと思っていた友人たちは、大盛り上がり。
「もう!教えてよ!何で教えてくれなかったの?」
「誰?どんな人?年齢は?」
目を輝かせて自分を見つめる友人たち。
『彼はトニー・スターク』とは言えず、ペッパーは言葉に詰まった。
「え、えっと…。と、年上よ。今、二十七才の社会人。すごく素敵な人なの」
無難な答えだが、友人たちは歓声をあげた。
「年上なの?」
「すごい!ペッパーの彼って、大人なのね」
あまり喋るとボロが出そう…。そう思ったペッパーは、作り笑いを浮かべ、その場を凌ごうとした。

すると…
「そうそう、恋人と言えば…スターク先生!やっぱり彼女がいるみたいよ!」
トニーの話題になり、ペッパーは顔色を変えた。もしかして、バレた?
首筋を嫌な汗が流れ落ち、ペッパーはそっとタオルで顔を覆いながら、友人たちの会話に耳をそばだてた。
「えー!やっぱり…。先生、カッコいいもんね…」
「相手の人、見たの?」
「私じゃないんだけど、友達がね。この間、LAのディ○ニーランドに行ったらしいんだけど…。そこで、先生が綺麗な女の人とデートしてたんだって!相手の 女の人は、帽子被ってて、顔は見えなかったみたいだけど…。でもね、すごく素敵だったんだって。相手の女の人も大人っぽくって、お似合いだったって言って たわ」
「そういえば、先生って、時々手作りのお弁当食べてるらしいわよ。あと、朝は女物の香水の香りがしてたこともあるって!首にキスマークつけてたこともあるし…」

(え?そ、そうなの?今度から気を付けなきゃ…。)
青くなったり赤くなったりしているペッパーに、話に夢中な友人たちは幸いにも気付いていなかった。

ひとしきりトニーの話題で盛り上がった友人たちだが、誰かがポツリとつぶやいた。
「スターク先生の恋人か…。美人なんだろうね…」
「いいなー。先生みたいな彼氏が欲しいな…」
「先生、かっこいいけど…先生だもんね…。私たちは恋人にはなれないもんね…」

そう…彼は…先生…。
恋人だけど…世間では許されない関係…。
だから…こそこそと隠れていなければならない…。
その事実が…急に心にのしかかってきたペッパー。

みんな、いいな…。堂々と手を繋いだりキスしたり…。みんなの前で、彼氏の話ができて…。
どうして私たちは…こんなに苦しまなきゃいけないの?
私たちは…ただ好きになっただけなのに…。それが、偶然にも先生と生徒という間柄なだけなのに…。

「ペッパー?早く!」
その声に、ポロリと零れ落ちた涙を拭ったペッパーは笑顔を張り付けると、みんなの元へ走って行った。

秋編へ続く…

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