I will dream about you.…⑦

翌日。
ベッドに起き上がったトニーは、F.R.I.D.A.Y.から地球の様子の報告を受けていた。

今朝は普段と変わらない朝だった。
目覚めるとペッパーがそばにいてくれた。
寝顔を眺めていると、目を覚ましたペッパーはキスを沢山してくれた。そして、まだ動けない自分の顔と身体を拭き、髭を剃り整えてくれた。そして、パジャマを着替えさせてくれ、朝食も食べさせてくれたのだから、至れり尽くせりの朝だった。
「会社に行ってくるわね。昼過ぎには戻ってくるから」
スターク・インダストリーズの社員も半分以上が消えてしまったと、昨日ペッパーから聞いた。そのため、ペッパーもいつも以上に多忙を極めているらしいが、そんな中でもペッパーはトニーと過ごす時間を優先してくれた。
ペッパーを迎えに来たハッピーは、トニーと顔を合わせるなり、大きな身体を縮こませ、号泣し始めた。
「おい、泣くな。気持ち悪い」
泣くほど喜んでくれる友の存在を嬉しく思ったトニーだが、そんなことをハッピーに面と向かって伝えたくはないので、わざと軽口を叩いてみせた。すると涙を拭ったハッピーは、ペッパーを送りに来た時にゆっくり話そうと、トニーを抱きしめた。

F.R.I.D.A.Y.の報告を聞いていたトニーだったが、あの惨劇が起こった当時の映像…すなわち、大勢の人々が塵と化するのを目の当たりにすると、タイタンでの出来事を思い出した。
『ごめんなさい、スタークさん…』
腕の中で消えてしまって少年を思い起こしたトニーは、息ができなくなり胸元を押さえた。
『ボス、深呼吸を』
トニーの異常に気づいたF.R.I.D.A.Y.に促され、鼻のチューブから何度も大きく息を吸い込んだ。暫くそうしていると、少し気分が楽になったが、代わりにズキズキと頭痛がし始めた。
ベッドに倒れ込んだトニーはペッパーの枕に頭を埋めた。彼女の残り香をすぅと吸い込み目を閉じ、彼女の姿を思い浮かべた。
(トニー…大丈夫よ…)
どこからともなく聞こえてきたペッパーの声に、ようやく気分が落ち着いたトニーは、そのまま眠りについた。

『ボス、お客様です』
F.R.I.D.A.Y.の声に目を覚ましたトニーは時計を見た。数時間眠っていたようで、喉がカラカラに乾いている。枕元にペッパーが用意してくれていた水を飲み干したトニーは、客を通すよう告げた。

「トニー……」
涙を流しながら部屋に入ってきたのは、ローディとブルースだった。
「ローディ、ブルース。よかった、無事だったか」
友人の元気な姿にホッと息を吐いたトニーだが、すっかり頬がこけ、痩せ細ったトニーの姿に、ローディとブルースは胸が張り裂けそうになった。
「トニーこそ、無事でよかった」
「何の連絡もないから…」
涙を拭った2人はベッドのそばの椅子に腰かけると、トニーの手を軽く握った。

「で、誰が残ってるんだ?」
地球上のヒーローたちの状況を、トニーはまだ聞いていなかった。
「ソーとナターシャ、それからスティーブとロケットだ」
お馴染みの…いや、最初にアベンジャーズを結成したメンバーが奇しくも残ったようだが、聞き慣れない名前にトニーは眉をつりあげた。
「ロケット?」
「あぁ。アライグマの」
当然のように言うブルースに、アライグマが仲間とは一体どういうことなんだ?と、訳が分からないトニーはポカンと口を開けたままだ。そんなトニーに気づいていないのか、はたまたアライグマが仲間であることが当然の状況になっているのか…、ブルースはロケットについて特に言及することなく、先を急ぐように話を続けた。
「バートンは日本にいるらしい。ナターシャが探しに行った」
自宅に軟禁中だったバートンが日本にいるということは、何かあったに違いない。数年前に会った可愛らしい子供たちと優しそうな彼の妻を思い出したトニーは、軽く頭を振った。
「あとは、スコット・ラング」
どこかで聞いた名前だが、顔が思い浮かばない。
「誰だ?」
眉を顰めたトニーに、ブルースは苦笑した。
「ほら、アントマン」
黙ったままのトニーに、ローディが付け加えた。
「数年前のドイツの空港で、でっかくなった奴」
そこまで言うと何となく思い出したのか、トニーは小さく唸ると、深呼吸した。
「こっちは…私とネビュラ以外は…全滅だ…」
タイタンでの状況は、ネビュラから聞いていたのだろう。ブルースとローディは無言で頷いた。

ブルースはちらりとローディを見た。
トニーには話さねばならないことが山のようにある。現状もだが、今後のことについても…。トニーが目を覚ましたとペッパーから連絡を受けたローディが、ブルースを誘い、それを伝えに今日はやって来たのだが、トニー・スタークは想像以上に弱っていた。今も息苦しいのか何度も深呼吸をしているし、顔色も死人のように青白い。何より、彼には覇気がなかった。想像を絶する経験をしたのだろうから当然なのだが、肉体的だけではなく精神的にも大きなダメージを受けたことには間違いない。
弱りきっている今のトニーに必要なのは休養だ。無理をさせることはできない。何故なら今後の作戦には、アイアンマン…いや、トニー・スタークの存在が不可欠なのだから…。

「トニー…大変だったな…」
立ち上がったローディはベッドサイドに腰掛けた。
「でも、お前が戻ってきてくれて、マジで嬉しい」
痩せてしまったトニーを抱きしめたローディは、ぽんっと軽く背中を叩いた。
「しっかり休めよ。無理するな。早く元気になってくれないと、困るからな」
もう一度ギュッと親友を抱きしめたローディは身体を離した。
「あぁ、分かってる」
親友の言葉と温もりに、トニーも嬉しそうに笑みを浮かべた。
「元気になったら、まずは飲みに行こう。お前の帰還祝いをするぞ」
そう言うと、ローディとブルースは帰って行った。

再び静寂が訪れた。
大きく息を吸い込んだトニーだが、一気に倦怠感が襲いかかり、ベッドに潜り込んだ。
ペッパーが帰宅するまでまだ時間はある。それまで一眠りしようと、トニーは目を閉じた。

⑧へ…

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