「目が覚めた?」
ベッドに腰掛けて寝顔を見つめていたペッパーは、トニーが目を覚ますと頬を撫でた。
「どれくらい寝てた?」
欠伸をしたトニーは、大きく伸びをした。久しぶりにぐっすり眠った気がする。
「5日よ」
夢の中でも笑っていたペッパーだが、目の前にいるペッパーは、それよりもキラキラ輝いて見えた。
(あぁ…帰ってきたんだ)
ペッパーの頬を掴んだトニーは、自分の方へ引き寄せた。バランスを崩したペッパーは、クスクス笑いながらトニーに身体を預けた。そんなペッパーを腕の中に閉じ込めたトニーは、暫く彼女の唇を堪能していたが、もっと彼女に触れたいという欲がむくむくと沸き起こってき、ペッパーの服の下に手を滑り込ませた。
「ん…」
トニーの手を押し止めたペッパーは、唇を離した。
「あなたが眠っている間、お医者様に診て頂いたの。身体の機能がかなり低下しているそうよ。暫く安静にしてなきゃ駄目」
後で聞いたところによると、地球に戻って来るや否や気を失ったトニーは、そのまま病院へ直行。様々な検査を受け、暫く入院するように告げられたが、トニー生還の知らせを聞きつけたマスコミが病院に殺到。大騒ぎになったため、自宅に戻ってきたらしい。
「もう大丈夫だ」
そう言ってみたものの、ペッパーの言う通りだった。手は震え、腕を上げるのも正直億劫な程。救出されてからクラグリンが点滴で栄養剤を投与してくれていたらしいが、おそらく2週間以上食べ物を口にしていないはず。
「トニー、駄目。元気になってからよ」
ペチンと軽く手を叩いたペッパーは、トニーを可愛らしく睨みつけると、立ち上がり身なりを整えた。
「食事を持ってくるわ。待ってて」
キスをしたペッパーは、足取り軽く部屋を出て行った。
ペッパーがドアを閉めると、静寂が訪れた。と、波の音が聞こえた。一瞬、マリブにいるのかと思ったが、首を伸ばすと窓からはいつもと変わらぬ街並みが見えるのだから、ペッパーがBGMに掛けてくれているようだ。
彼女のお気に入りのラベンダーとオレンジスイートのアロマの香りがする。ふかふかのベッドのシーツから香る柔軟剤、ペッパーのシャンプーの香りがする枕…。自宅の寝室に戻ってきたと実感したトニーは、目を閉じると大きく深呼吸した。
暫くすると、ペッパーが戻ってきた。
「まずは栄養を付けなきゃ。沢山食べて」
ペッパー特製のスープは、絶食状態だったトニーでも食べられるように、柔らかく煮込んであった。
トニーの身体を起こしたペッパーは、背中に枕を入れてくれた。そして自分はベッドに腰掛けると、スープをすくった。
「はい、あーんして」
つまりは食べさせてくれるというのだろうか…。気恥しくなったトニーだが、何となく甘えたくなった彼は、素直に口を開けた。
トニーが食べ終わると、ペッパーは点滴のパックを交換し、彼の隣に横になった。
ペッパーを抱き寄せたトニーは黙ったまま彼女の髪を弄んでいたが、暫くして重い口を開いた。
「話、聞いてくれるか?」
「えぇ…」
トニーの身体に腕を回したペッパーは、彼の胸に顔を擦り寄せた。
トニーはタイタンでの出来事、そして漂流している間のこと、クラグリンに救出され、無事に帰路に着いたことを語った。
涙ながらに聞いていたペッパーは、トニーが話し終わると、彼の伸びた髭を撫でた。
先程よりもトニーは疲れ切った表情をしていた。肉体的にも精神的にも極限まで追い詰められたトニーの姿に、ペッパーは胸が締め付けられた。
(大丈夫よ…あなたは必要な存在。それに、生きて帰ってきてくれただけで十分よ)
そう言うべきなのかもしれないが、まずは自分がそばにいると伝え、彼の心を落ち着かせる方が先だ。
「そばにいるから…眠って…」
そう囁いたペッパーは、頷き目を閉じたトニーに抱きつくと、毛布を引っ張りあげ、灯りを消した。
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