A boy who came from the future.⑩

翌朝。
「モーガン、ちょっと来い」
庭に出たトニーは、後をついて出てきたモーガンに、グローブを渡した。
目をパチクリさせながら、父親とグローブを見比べているモーガンに、トニーはボールを見せた。
「キャッチボール、しよう」
トニーの意図せんことを理解したモーガンは、満面の笑みを浮かべた。
「うん!」

暫くキャッチボールをしていた2人だが、モーガンがおもむろに口を開いた。
「ねぇ、父さん。どうしてキャッチボールしたいって分かったの?」
受け取ったボールを投げながら、トニーは話し始めた。
「未来の私は、幼いお前に話したことなかったかもしれないが…。私は父…つまりお前のじいさんと疎遠だった。子供の頃から、一緒に遊んだことなどなかった。父親らしいことは何一つしてもらった記憶はない。結局父とは何もせぬまま永遠に別れてしまった。だからいつか自分の子供が生まれたら…自分が父にしてもらえなかったことを全部やろうと決めていた。キャッチボールもそうだ。息子とキャッチボールをするのが夢だったんだ」
父親の父親、つまり自分の祖父であるハワード・スタークについては、本やネットなどで調べたことがあるので知っている。そしてハワードとトニーの確執についても、母親から聞いたことがある。
突然親を奪われたという点では、父親と自分は似ている。父親はその苦しみや悲しみをどうやって克服したのだろうかと聞いてみようかと思ったモーガンだが、自分が過去の父親と会ったことで克服できたように、きっと父親も母親と出会ったことで克服したのだろうと思い直した。
「おい、モーガン。ボーッとするな」
ハッと我に返ると、父親の投げたボールが足元を通り抜けて転がっていた。
「ごめん、ごめん」
ボールを拾ったモーガンの元に歩み寄ったトニーは
「お前が来てくれたから、一足先に叶えることができたな」
と言うと、息子の頭をくしゃっと撫でた。
「で、次は何をしたい?」
うーんと首を捻ったモーガンは、目を瞬かせた。
「父さんとドライブに行きたい」

免許は持っているが、父親が運転する車に乗りたいと言うので、トニーはモーガンを連れて郊外へ向かった。
トニーのお気に入りのプレイリストをBGMに、車は海沿いを走っていた。
「本当は洒落たレストランでも連れて行ってやりたいが…」
そう言いながら、トニーはハンバーガーショップへと向かった。そしてドライブスルーでハンバーガーを買った2人は、あまり人のいない静かな海辺までやって来た。

ベンチに座りハンバーガーにかぶりついた2人は、暫く黙々と食べていたが、モーガンがポツリと呟いた。
「俺、来てよかった」
「ん?」
しんみりとした息子の声に、トニーは顔を上げ息子を見つめた。その瞳をモーガンはよく似た瞳でじっと見つめた。
「父さんとは、3年しか一緒にいられなかったけど、父さんはいつも俺の味方だった。俺にありったけの愛情を注いでくれた。だから父さんがいなくなった後も、怖い夢を見て目が覚めても、父さんはいつも夢の中で助けてくれた。父さんはいつもちゃんとそばにいてくれてた。だから父さんは、きっと俺に自分の人生を楽しく精一杯生きろって言いたかったんだと思う。過去に来て…父さんに会って、俺、それがようやく分かったんだ」
視線を海へ移したモーガンは、立ち上がった。
「父さんは最高にカッコいい父親だった。ヒーローだった。父さんは俺の憧れで目標。それに今も…」
くるりとトニーに向かい合ったモーガンは笑顔を浮かべた。
「15年間、できなかったことを…夢を、父さんは叶えてくれた。ありがとう。父さんは世界で一番カッコいい父親だよ」
心底嬉しそうな息子の笑顔に、トニーも自然と頬を緩めた。
ペッパーと家庭を築こうとプロポーズしたものの、トニーは不安だった。自分はちゃんと父親になれるのか…、ハワードから父親らしいことをしてもらった記憶がない自分もまた、同じような父親になるのではないかと…。だが、目の前にいる未来から来た息子は、たった3年という短い期間ではあるが、ちゃんと自分のことを父親として愛し尊敬し受け入れてくれているのだ。
「当たり前だ。私はトニー・スタークだ。カッコいいに決まってるだろ」
何となく照れ臭くなったトニーは、わざとそう言ってしまったが、そんなトニーの心中を察したのか、モーガンは声を上げて笑い出した。

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