Dream

「モーガン。ママが帰ってきたら聞いてみるからな」
「だぁ!」
歯が生え始めた口をいっぱいに開けたモーガンは、トニーの頬に手を添えると嬉しそうに笑った。母親と同じ赤毛の髪をクシャッと撫でると、モーガンは父親の髭を引っ張った。

アイアンマンは引退した。今のトニーの仕事は、世界を救うことではなく、息子であるモーガンを育てること。
プレイボーイだったトニー・スタークはどこへやら。すっかり落ち着き家庭に収まっているトニーは、世界のヒーローではなく、今や同じく子育て世代の父親母親たちのヒーローとなっていた。

最初は戸惑ってばかりだった。CEOとして多忙な妻であるペッパーに代わり、主夫となる道を選んだトニーだが、彼自身は父親から父親らしいことは何一つしてもらった記憶がない。しかも一人っ子だった彼は、小さな子供と暮らしたことなどなかった。それ故に、モーガンが生まれてからは、毎日が必死だった。分からないことだらけで、毎日大騒ぎだった。だが、息子と共に成長し、今までにない程充実した毎日だった。
いつしか夢見ていた平凡な日々。それが自分にも訪れたことは奇跡だった。それも、ペッパーのおかげ。そして生まれてきてくれたモーガンのおかげ…。

「だっだ!」
息子に頬をペシペシと叩かれ現実に戻ってきたトニーは、彼の琥珀色の大きな瞳を覗き込んだ。
「どうした?」
父親そっくりな瞳を輝かせたモーガンは、
「まー!」
と叫ぶと、トニーの腕の中で暴れだした。
「ただいま、トニー、モーガン」
聞こえてきた愛しい声に振り返ると、駆け寄ってきたペッパーはトニーにキスをした。そして興奮気味に何やら訴えている息子をトニーから受け取ると、彼の柔らかな頬にキスをした。
「今日はパパと何をしたの?」
「今日は動物園に行ったんだよな、モーガン」
小さな鼻をくすぐると、モーガンは同意するように笑い声を上げた。そして彼は母親を見上げると、何やら言いながらソファの上に転がっている大きな象のぬいぐるみを指差した。
「あら?パパに買ってもらったの?よかったわね」
「モーガンは象が気に入ったらしい。だから聞いたんだ。もし象が欲しかったら買ってやるぞ?と。パパに不可能はないからな。だが、象は大きすぎる。昔、ママにはウサちゃんのぬいぐるみもデカすぎると怒られた。だから象を飼うのは、ママに聞いてからにしようと…」
と、トニーはここで口を噤んだ。というのも、ペッパーが呆れたように目をくるりと回しているのに気づいたから。
「トニー、ダメよ」
案の定、いつもの決め台詞を口に出したペッパーは、可愛らしく夫を睨みつけたのだが、その様子を見ていたモーガンは、母親を真似するかのようにトニーを見つめた。そして
「だっだ!もー!」
と、笑いながら言葉を発した。
苦笑しながら妻と息子からの駄目出しを聞いていたトニーだが、モーガンの言葉に目を丸くすると飛び上がった。
「おい、モーガン。今、”No”と言ったのか?!」
「え!嘘!モーガン!ホント?」
両親を交互に見つめたモーガンだが、どうしてこんなに両親のテンションが上がっているのか分かるはずもない。だが、大好きな両親がとても喜んでいるのだから、嬉しいに決まっている。
「だっだ、まー!もー!」
手を叩きながら何度も言う息子の頬にキスをしたトニーは、幸せを嚙みしめるようにゆっくりと目を閉じた……。

***
目を開けると、そこはいつもの寝室だった。
リアルすぎる夢だった。
モーガンという息子が生まれ、家族3人で普通の暮らしをしている夢…。

目をこすりながら起き上がったトニーが伸びをしていると、シャワーを浴び身支度を整えたペッパーが戻って来た。
「おはよ、ダーリン」
トニーにキスをしたペッパーは、最近の2人の朝の日課であるジョギングの準備をすっかり整えているではないか。
彼女の左手に光る指輪を見つめたトニーは、先ほどの夢を思い出した。
あんなにリアルな夢を見たのだから、もしかして…と、ぼんやりペッパーを見つめていると、いつになく反応の悪いトニーにペッパーは眉を潜めた。
「どうしたの?」
我に返ったトニーは慌てて頭を振ると、何度も瞬きした。
「いや、後で話す」
いきなり夢の話が現実なのかと確認するよりも、別の話題を前置きした方がいいのだろうか…。そんなことを考えながら、トニーは急いでジャージに着替え始めた。

***
IWでトニーがペッパーに語っていた夢の話。

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。