Day 6 (Friday, July 14): au

中世辺りのトニペパAU。

***
とある国の国境の村に、トニーという若者が住んでいた。鍛冶屋を営む彼は決して裕福な暮らしではないが、美しく聡明なヴァージニアという許嫁がおり、毎日幸せに暮らしていた。
そんなある日のこと。隣国との戦が勃発し、トニーも徴兵されることになった。戦いは日に日に激しさを増しており、この国は滅亡するのでは…と噂される中での出兵ということもあり、戦いに赴く前日、2人は断腸の思いで抱き合っていた。
「ジニー…必ず戻ってくる。だから待っていてくれ…」
身体中にキスを刻みながらトニーは何度もヴァージニアに誓った。
「必ず戻って来て下さい…。私はあなたのことをずっと待っていますから…」
泣きながらも笑顔を見せたヴァージニアに、トニーは絶対に生き延びてみせると誓った。

が、事態は最悪の方向に動いた。
『この国は隣国に滅ぼされた』
そんな噂が村に伝わってきたのは、トニーが出兵して1ヶ月後のことだった。国と共に兵は全滅し、生き延びた者も首を斬られたというのだ。そして隣国はこの国の村を焼き払いながら、領内を侵攻している、村の男は殺され、女は犯され、子供は売り飛ばされる…。隣村から命からがら逃げてきた若者からそう聞かされ、村人たちは一刻も早く逃げようと、村の動きは慌ただしくなり始めた。
が、ヴァージニアは動けなかった。トニーが死んだかもしれないと言われたが、信じることが出来なかった。彼は何があっても帰ってくると誓ってくれたのだ。だから、もしかしたら、すぐに戻ってくるかもしれない。それならば、今この村から逃げれば、彼は帰る場所がなくなってしまうのだ。
ヴァージニアは覚悟を決めた。トニーが戻ってくるまで、この村を離れないと…。何人もの村人が一緒に逃げるように声をかけてくれたが、ヴァージニアは首を縦に振らなかった。そして彼女は、トニーがもしもの時のために用意してくれていた地下室に身を潜めることにした。
地下室には、沢山の食糧や必要な物が蓄えられていた。トニーとの思い出の品を幾つか持ちこんだヴァージニアは、トニーの愛犬のダミーとユーと共に地下室に座り込んだ。

暫くして頭上でガタガタ音がし始めた。
「くーん…」
侵入者に耳を立てたダミーとユーは小さく声を出したが、吠えれば見つかると理解しているのだろう、2匹はヴァージニアを守るように隣に座り込んだ。
家具の壊れる音、食器の割れる音…荒らされる室内に、何も出来ない自分が悔しくてヴァージニアは涙を流したが、敵がこの村から早く立ち去ることを祈るしかなかった。

ダミーとユーとパンや水を分け合い、身を潜めていたヴァージニアだが、数日経つとようやく物音が聞こえなくなったため、恐る恐る地下室から顔を出した。
敵は別の村へ移動したのか、誰もいなかった。
家はこれ以上ない程荒らされており、トニーが丹精込めて作った物も全て奪われていた。幸いにもトニーとヴァージニアの家は無事だったが、外に出れば、村はあちこち焼き払われ、見るも無残な姿だった。自分以外何もない状況に、途方に暮れたヴァージニアは、その場に座り込んでしまった。
トニーのためにこの場に残ると決めたが、これでは自分が生きていくことすら不可能かもしれない。
シクシク泣き始めたヴァージニアに、ダミーとユーが駆け寄ってきた。涙を舌で舐めた2匹は、ヴァージニアを元気付けるように吠え始めた。
「そうよね。トニーは戻ってくると約束してくれたもの…」
涙を拭ったヴァージニアは、トニーが戻ってきた時にいつものように温かく迎えようと、家を片付け始めた。

その日から、ヴァージニアの孤独な日々が始まった。食糧は地下室に蓄えがあったし、村の他の家の残骸から、使えそうな物を集め、生活できるように整えた。家の周りを耕し、野菜の苗を植えた。そして少しでも気分が明るくなるようにと、沢山の花も植えた。それでも夜は襲われないかと不安になり、2匹の犬と共に地下室で眠った。

トニーはもちろんだが、村人が誰か戻ってくるかもしれないと期待したが、誰も戻ってくる気配はなかった。実はヴァージニアは知らなかったが、村人は逃げ込んだ森の中で敵に全員殺されていたのだ。つまり、あの時共に行動しなかったおかげで、ヴァージニアは一人生き延びていたのだ。

10日ほど経ったある日のこと。
庭で遊んでいたダミーとユーが突然大声で吠え始めた。昼食を作っていたヴァージニアは、誰か来たのかと飛び上がった。戸口にあった鍬を握りしめたヴァージニアが恐る恐る外へ出ると、道の真ん中に誰かが倒れ、ダミーとユーが警戒しながら周りを回っていた。
その男が、この国の紋章入りの盾を背中に背負っているのに気づいたヴァージニアは、もしやトニーかと鍬を放り投げ走った。が、男はトニーではなかった。トニーと同年代の男だが、彼は全くの別人だった。怪我をし意識を失っている男を放っておくこともできず、家に運び入れたヴァージニアは、その男を手厚く介抱した。そのおかげで、数日後に男は意識を取り戻した。
「ありがとうございます。私はスティーブ・ロジャースです」
礼儀正しく名乗った男は優しい目をしており、心を許したヴァージニアも名乗った。
「ヴァージニア・ポッツです」
すると、スティーブは目を丸くした。
「ヴァージニアって……もしかして、トニー・スタークの…」
トニーの名を口に出した男に、ヴァージニアはその場で飛び上がった。
「トニーを…トニーを知っているのですか?」
まさか偶然助けた男がトニーを知っているとはまさに奇跡。これで彼の手掛かりが掴めるかもしれないと、ヴァージニアは目を輝かせた。
「はい、トニーとは短い間でしたが、同じ部隊で戦いましたから…」
何故か口を濁したスティーブは、視線を伏せてしまった。
「トニーのこと、何かご存知ではないですか?どんな些細なことでもいいんです。教えて下さい」
縋るようなヴァージニアに、何事か考えていたスティーブだが、彼は重い口を開いた。
「ヴァージニアさん、私はあの戦いの最中、崖から転落してしまったので、全てを知っている訳ではありません。ですから、私の知っていることをお話しします」
ふぅと大きく深呼吸をしたスティーブはゆっくりと話し始めた。
「トニーは本当にいい奴でした。彼は明るく、楽しい男でした。それに頭が良く、新しい武器を作るのも得意でした。彼が軍に来てから、武器の性能は向上しました。が、その噂はすぐに敵にも知れ渡ったようです。戦いの終盤になると、敵はトニーを捕虜にしようと躍起になっていましたから…」
一息ついたスティーブは膝の上に置いた手を握りなおした。
「私が最後にトニーの姿を見たのは、私のいた部隊の兵が全滅した日です。その頃になると、トニーは自分でも悟っていました。敵に捕まれば、二度と国に帰ることは出来ないと…。トニーは私に言いました。『俺は絶対に国に帰らなくてはいけない。俺のことを待っている恋人がいるんだ。ヴァージニアはきっと、何があっても俺のことを待ってくれているだろうから…』と。 その夜も、夕食を食べながら、皆で身の上話をしていました。戦いが終わったら何をするかという話になり、トニーは言いました。『俺は帰ったらヴァージニアにプロポーズする。彼女と結婚して、おとぎ話のように、幸せに暮らすんだ』と。その時、敵の奇襲が…。殆どの者は眠っていました。ですから、そのまま殺された者も大勢いました。起きていた者も、身軽な格好をしていましたし、反撃する間もなく、我々は制圧されてしまいました。私は仲間を一人でも多く助けようと走り回りました。その時です。トニーの叫び声が聞こえました。見ると敵がトニーを捕まえ、立ち去ろうとしているではありませんか。私は後を追いかけました。が、敵の数は多く…。横手から奇襲され、私は崖から転落してしまいました。何処をどう歩いたのか定かではありませんが、運よくあなたに助けて頂いたんです」
黙ったまま唇を震わせているヴァージニアは今にも泣き出しそうで、スティーブは深々と頭を下げた。
「すみません、ヴァージニアさん…。トニーは敵に捕虜にされ…私は助けることが出来なかった… 」
頭を下げ続けるスティーブに、ヴァージニアは慌てて首を振った。
「スティーブさん、謝らないで下さい。彼が捕虜になったのは、あなた方のせいではないんですから…」
必死で涙を堪えているヴァージニアは痛々しく、それでも恋人の帰りを一人待ち続ける彼女は健気で、スティーブはトニーの代わりに彼女を守らなければ…という使命感に駆られた。
「ヴァージニアさん、トニーは生きています。きっと生きています…。ですからトニーが戻ってくるまで、私があなたのことを守ります」
女一人で暮らしていくには物騒すぎるので、スティーブのこの申し出をヴァージニアはありがたく受けることにした。

元気になったスティーブは、隣の家を修復すると、村で暮らし始めた。
数日もすると、ダミーとユーともすっかり仲良くなったスティーブをヴァージニアも兄のように慕い、2人と2匹はあの戦いが起きる以前のように平穏に暮らし始めた。

***
それから一年が経った。
トニーはまだ戻って来ない。そればかりか、何の手掛かりすらも見つからなかった。
一向に変わらない状況に、ヴァージニアの心は折れそうだった。
「スティーブさん…トニーはもう…」
顔を合わせる度に意気消沈するヴァージニアをスティーブは励ますしかなかった。
「ヴァージニアさん、信じよう。トニーは必ず戻ってくるから…」
だが、次第に伏せこむことの多くなったヴァージニアは、食事も喉を通らなくなり、とうとう起き上がることも出来なくなってしまった。すっかり痩せ細ってしまったヴァージニアのそばから、ダミーとユーは離れそうとしない。
スティーブが必死に看病するが、ヴァージニアにはもはや生きる意欲がなかった。
「トニーに…ごめんなさいって…。愛してるって……伝えて…」
譫言のように恋人の名を呼び続けるヴァージニアに、どうすることもできないスティーブは唇を噛み締めた。

その頃、一人の男が村を通りかかった。
立派な身なりをした男は、昔のこの村の様子を知っているのだろう。彼は変わり果てた村の姿を呆然と馬上から見渡した。が、1軒の家の煙突から煙が登っているのに気づくと、馬を走らせた。
家に近づくと、庭で寝そべっていた2匹の犬が勢いよく起き上がった。警戒して吠える2匹に、男は笑みを浮かべると馬から降りた。「おい!ダミー!ユー!俺だよ!」
男の正体に気づいたダミーとユーは、尻尾を振り始めた。男は、2匹が待ち焦がれた主人…つまりトニーだったのだ。ダミーとユーはトニーに飛びかかった。ペロペロと顔を舐め始めた2匹に押し倒されたトニーは、地面に倒れ込むと嬉しそうに笑い声を上げた。
毛並みは綺麗に整えられ、洗いたてなのか石鹸の香りのする2匹をトニーはギュッと抱きしめた。庭には花が植えられているし、洗濯物もはためいている。きっとヴァージニアは1年以上、待ち続けてくれたに違いない。だが、いつまで経っても彼女は姿を現さないではないか。
「ヴァージニアは?」
トニーの言葉に戯れるのをやめた2匹は悲しそうにクーンと鳴いた。
「おい…まさか…」
愛犬の悲痛な声に顔色を変えたトニーは立ち上がると家に飛び込んだ。
「ヴァージニア!」
と、トニーの声にスティーブが寝室から飛び出して来た。
先程からダミーとユーが吠えていたし、誰かがヴァージニアの名を叫びながら家に飛び込んできたのだから、これは侵入者かと構えて出てみれば、待ち焦がれたトニー・スタークが目の前にいるのだから、スティーブは腰を抜かしそうになった。
「トニー?!」
目を白黒させるスティーブだが、トニーもトニーでまさかスティーブが自分の家にいるとは思ってもいなかったので、目を真ん丸に見開いたまま立ちすくんでしまった。
「スティーブ?おい、スティーブか?!」
久しぶりの再会に、我に返った2人は抱き合い喜び始めた。
「どうしてお前が俺の家に?」
スティーブの背中をポンッと叩いたトニーだが、顔色を変えたスティーブは、トニーの肩を掴んだ。
「そんなことは後でいいから!」
状況が全く掴めないトニーは目をぱちくりさせているが、そんなトニーの手を引っ張るように、スティーブは寝室へと向かった。
寝室のベッドにはヴァージニアが眠っていた。すっかり痩せ細ってしまった恋人の姿に、トニーは言葉を失ってしまった。
「ヴァージニア?」
そっと呼びかけてみたが、ヴァージニアは目を閉じたままだ。
「ヴァージニアさん、ずっとトニーを待っていた…。だけど、1年以上音沙汰がなかったから…彼女…もう君に会えないと諦めかけてて…。生きる気力を失ってしまったんだ…」
スティーブの言葉にトニーは唇を噛み締めた。もっと早く帰ってくることができれば、彼女を苦しめずに済んだかもしれない。
ヴァージニアに縋り付いたトニーは、彼女の額にキスをすると頬をそっと撫でた。と、ヴァージニアが目をうっすらと開けた。
「トニー…?」
会いたくて堪らなかったトニーがようやく夢に現れてくれた…。微睡んだ瞳でトニーを見つめたヴァージニアは、嬉しそうに笑みを浮かべたが、1年前とは違い、髭を生やし立派な身なりをした彼の様子に、これは夢なのか現実なのか分からなくなり戸惑い始めた。
「俺だよ、トニーだ。ジニー、帰って来たぞ…。遅くなってすまなかった…」
彼女の戸惑いに気づいたトニーは、恋人を安心させるように手をぎゅっと握りしめた。その力強い感触に、ようやく目の前のトニーが現実だと理解したヴァージニアは、ベッドから飛び起きた。
「本当に…トニーなの?」
「あぁ、俺だよ」
抱き締め何度もキスをするとようやく納得したのか、ヴァージニアはトニーにしがみつくと声を上げて泣き始めた。
「トニー……よかった…」
トニーの存在を確かめるように、胸元に顔を押し付けて泣き続けるヴァージニアの頭をトニーは愛おしそうに撫で続けた。

暫くして落ち着いたヴァージニアが泣き止むと、気を利かせたスティーブが温かいスープを持ってきた。
「まずはしっかり食べて元気になってくれ」
スティーブから皿を受け取ったトニーは、そう言いながらスープを掬ったスプーンをヴァージニアの口元に運んだ。

トニーが付きっ切りで看病したおかけで、数日後にはヴァージニアは元気を取り戻した。
ヴァージニアが元気になったところで、トニーは彼女とスティーブに、この1年のことを語り始めた。
「あの夜、敵に捕まって、城に連れて行かれた。酷く拷問されるのかと思ったが、何もされなかった。何もない部屋に閉じ込められたけど、食事も出してくれ、手厚く饗されたんだ。何日か経って、王がやって来た。そして、国は滅亡したと聞かされた。呆然とする俺に王は言った。『お前には武器を作る才能がある。お前の国は滅びた。だからこのまま我が国に仕えてくれぬか?』と。国を滅ぼした相手だぞ?最初は吐き気がするほど嫌だった。だが、王は毎日のようにやって来ては、俺を説得するんだ。帰っても仕事も何もない。それならば、この国で仕事を見つけ、ヴァージニアを迎えに行こうと決めた。俺も生きるために必死だった。俺はがむしゃらに働いた。早くヴァージニアに会いたい一心だった。1年経ち、俺の働きを認めてくれた王は、俺を重臣に登用してくれた。そして何か褒美を与えよう、欲しい物はあるかと聞かれた。だから俺は答えた。『国に大切なものを残してきたから取りに帰りたい』と。王はそれなら早く行ってこいと快く送り出してくれた」
捕虜になったとはいえ、トニーは相当優遇されていたようで、ヴァージニアは彼が辛い目にあっていたのではないと知り、安心したように息を吐いた。それでも彼にとってもこの1年は苦労の連続だっただろう。そんな中でも自分のことを忘れず、こうやって迎えに来てくれたことが、ヴァージニアは嬉しくて堪らなかった。
目を潤ませているヴァージニアにキスをしたトニーは、指を絡ませた。
「ジニー、お前を妻とするために迎えに来た。だから共に参ろう」
うんうんと何度も頷いたヴァージニアは、くしゃっと顔を歪めると、泣きながらトニーに抱きついた。恋人の背中をゆっくりと摩っていたトニーだが、スティーブに顔を向けると目を煌めかせた。
「なぁ、スティーブ。お前も一緒に来ないか?実は、あの部隊の生き残った仲間がいる」
「何だって?!」
あの部隊の仲間は全滅したと思っていたスティーブは、生き残りがいると聞き、飛び上がった。
「生き残りがいるという噂を聞いて、探したんだ。ローディにバートン、バナーにソーだ。王に仕えるのは抵抗があるだろ?だから全員、俺の護衛ってことで、家にいるんだ」
確かにトニーの言う通り、これから生きていくためには働かなければならない。敵国の王に仕えるのは気が進まないが、トニーに仕えるのなら、大歓迎だ。
「それならば、喜んで行くよ」
大きく頷いたスティーブに、トニーも笑みを見せた。
「それはよかった。そうと決まれば、出発だ」

それから3人は慌ただしく荷造りをし始めた。ヴァージニアもスティーブも、これといって沢山荷物がある訳ではなかったが、それでもトニーが連れてきていた荷馬車はいっぱいになってしまった。
「さあ、ジニー…」
荷物を積み終えると、トニーはヴァージニアを抱きかかえたまま馬車に乗り込んだ。
「スティーブはどうする?」
馬車に乗り込もうとしていたスティーブは、トニーのその言葉に足を止めた。まるで『2人きりになりたいから、乗ってこないでくれ』というように、トニーはじっと見つめてくるのだから、スティーブは後ずさりした。
「私は馬で追いかけるよ」
すると、さも当然だというように眉を吊り上げたトニーだが、作り笑いを浮かべ後退するスティーブに、からかうように声を掛けた。
「崖から落ちるなよ」
ダミーとユーが馬車に乗り込んだのを確認したトニーは、バタンと扉を閉めた。

その後、トニーとヴァージニアは、仲間たちと共にいつまでも幸せに暮らしましたとさ…。
めでたしめでたし…。

おまけ Day 7 (Saturday, July 15): free day

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