数日後。
「リリーちゃん、ぼくね、リリーちゃんのこと、あいしてるの」
まずはもっと仲良くなろうと決めたルーカスは、昨日作ったビーズのブレスレットを差し出し、リリーちゃんに告白した。
目をぱちくりさせていたリリーちゃんだが、ブレスレットを受け取ると恥ずかしそうに目を瞬かせた。
「あたしも…ルーカスくん、あいちてるわ」
「リリーちゃん…」
手を握りしめたルーカスは、いつも父親が母親にするように、彼女の頬をそっと撫でた。
「リリーちゃん、ぼくのこいびとになってください」
『こいびと』の意味がイマイチ理解できないリリーちゃんだが、ルーカスが言うのだからきっと素敵なことに違いないと、満面の笑みで頷いた。
ということで、めでたく恋人になったルーカスとリリーちゃんは、ずっと手を繋ぎ仲良く行動するようになった。
ルーカスはリリーちゃんのことを片時も離そうとしないし、リリーちゃんの方もルーカスにベッタリとくっついたままだった。
が、これに他の園児達は反発した。
というのも、ルーカスもだが、リリーちゃんも園内では人気者だったからだ。2人が終始一緒にいるため、仲良くしたいのにできないと、他の園児達は文句を言い始めたのだ。
それでもルーカスは、他の園児達とも遊んだりと、何とか皆で仲良く出来るように…と奮闘していた。が、リリーちゃんはルーカスと手を繋いだり抱き合ったりしているのに、どうして私たちはできないのかと、女の子たちはリリーちゃんを目の敵にし始めたのだ。
2人が恋人になった数日後。
ウィルくんたちと遊んでいるルーカスの元に、リリーちゃんの親友のエラちゃんがやって来た。
「ルーカスくん、リリーちゃんがね、たいへんよ!たちゅけて!」
何事かとウィルくんと顔を見合わせたルーカスは、立ち上がるとエラちゃんの後をついて行った。
園舎の片隅に、リリーちゃんはいた。その周りを、ルーカスより1つ年上のビアンカちゃんたち数人の女の子が取り囲んでいた。
「スタークくんをひとりじめしないでよ!」
ビアンカちゃんたちは、リリーちゃんを脅しており、リリーちゃんはシクシク泣いていた。
リリーちゃんの涙を見たルーカスは、彼女を守らなければという使命感に駆られた。
「なにしてるの?」
背後から声を掛けると、まさかルーカスが来ると思わなかったのだろう。ビアンカちゃんは顔色を変えた。
「スタークくん…」
リリーちゃんの傍に歩いて行ったルーカスは、彼女を守るように立ちはだかった。
「リリーちゃん、ぼくのだいじなおともだちなんだよ。だからいじめたらダメ!」
そこには、いつもの優しいルーカスではなく、大切な友達を守ろうとする怒りに燃えたルーカスがいた。
「リリーちゃんだけじゃないよ。みんな、ぼくのだいじなおともだちだよ?だからなかよくしようよ!」
たじろいだビアンカちゃんだが、彼女にも援軍がやって来た。やって来たのは、あのビクターくんだった。
「おい、スターク。リリーちゃんはおまえだけのものじゃないんだぞ!」
「アイアンマンのこどもだからって、えらそうにするなよ!」
一度だって、ルーカスは父親がアイアンマンであると自慢どころか、自分から公言したことはなかった。それなのに、そう思われていたことが、ルーカスはショックだった。
「そんなことないよ。パパはアイアンマンだけど、ぼくはぼくだもん。ぼくはみんなとなかよくしたいんだよ」
冷静に告げるルーカスは、どこまでも紳士な態度で、腹が立ったビクターくんはルーカスを殴った。が、ルーカスは反撃しなかった。それは父親から『授かった力は正しいことに使うんだ 』と教えてもらっていたから。
「けんかはだめなんだよ!みんなでなかよくしないと!」
声を張り上げたルーカスだが、ビクターくんがルーカスを突き飛ばした。
が、運悪く後ろは段差になっており、ルーカスは階段を転げ落ち、地面に叩きつけられた。
「ルーカスくん!」
ルーカスの元に駆け寄ったリリーちゃんは、唖然とするビクターくんを睨みつけた。
「ルーカスくんは、なんにもちてないのに!」
「リリーちゃん…その…」
怪我をさせるつもりはなかったのに、まさかこんな事態になるなんて…と、おどおどと近づいて来たビクターくんを、リリーちゃんは平手打ちした。
「ルーカスくんにごめんなちゃいってしなさいよ!」
大人しいリリーちゃんの思いがけない行動に、その場は静まり返った。
「あたし、いじわるなひと、きらいよ!」
一部始終を目撃していた女の子たちが、走って先生を呼びに行った。
慌ててやって来た先生は、頭から血を流して気を失っているルーカスを抱き抱えると、病院へと連れて行った。
***
幼稚園から連絡を受けたトニーとペッパーが病院へ駆けつけると、ルーカスは眠っていた。
転落した時に左腕を骨折し、頭を切って何針か縫ったが、命に別状はないと知った2人は安心したように息を吐いた。
「一体何があったんですか?」
大事な息子が怪我をしたのだ。サングラス越しだが怒りに燃える瞳をしたトニーは、頭を下げ続ける園長と先生に詰め寄ろうとしたが、ペッパーは押しとどめた。
「申し訳ございません。実は…」
先生は園児たちから聞いた話を、トニーとペッパーにし始めた。
ルーカスがいじめられていた女の子を守ったこと、1つ年上の男の子に殴られても反撃せずに仲良くしようと説得したが、相手の男の子に突き飛ばされ怪我をしてしまったこと…。
「ルーカスくん、何を言われても、僕は皆と仲良くしたいんだと訴え続けたそうです」
だが、怪我をしたことは事実だ。監督不行届きだ、申し訳ないと頭を下げ続ける園長と先生に、怒りを押さえ込んだトニーとペッパーは、頭を上げるよう告げると、ルーカスの眠る病室へと入っていった。
「この子…正義感燃やして…。あなたそっくりね」
眠り続ける息子の手を握りしめたペッパーは、隣に腰を下ろしたトニーの肩にもたれ掛かった。
「だが、仲良くするよう説得したんだろ?私なら殴られたら殴り返してたかもしれない。だから君にそっくりなんだよ」
と、ルーカスが小さく欠伸をしながら目を開いた。
「パパ…ママ……」
両親が揃って枕元にいることに気づいたルーカスは、嬉しそうに笑った。
「ルーカス…」
息子の手にキスをしたペッパーは、彼の汗ばんだ額を拭った。くすぐったそうに笑ったルーカスは、父親と母親を交互に見ると、まだ微睡んだ声で囁いた。
「ぼくね…ただしいこと、したよね?それから…まけなかったよ…。ぼく…アイアンマンだから…」
そう告げる息子は、正しいことをしたんだと誇らしげで、トニーとペッパーは彼の頭をそっと撫でた。
「そうね…」
「ルーカス、えらかったな」
顔を緩めたルーカスだが、安心した彼の腹の虫が盛大に音を立てた。
「ママ、おなかすいた」
「何が食べたい?」
「えっとねぇ…ハンバーガー!」
自分と同じように答える息子にトニーは苦笑しながら立ち上がった。
「よし、パパがとびっきり美味いハンバーガーを買ってきてやろう」
「うん!」
満面の笑みを浮かべたルーカスとペッパーにキスをしたトニーは、病室を後にした。
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