トニー・スタークが彼女を知ったのは、些細なことからだった。
学園中の生徒が色目を使う中で、いつも少し離れた所から彼を見ている生徒がいるのに気付いたのは最近のこと。彼女もまたこの学園では有名だった。
ヴァージニア・ポッツ。
学園一真面目で優秀な彼女は、お硬いことでも有名だったのだ。
ある日の授業中。生徒に科学の実験をさせていたトニーは、机の間を歩き回っていた。
「先生?これでいいですか?」
「ああ。素晴らしいな。上出来だ。君は優秀な科学者になれるぞ!」
大げさに褒めるトニーに生徒は大喜び。そう、トニーの授業は分かりやすく面白いと、毎年大好評。それに加えて、彼の容姿と人柄もあるのだろう。トニーはこ の学園一人気の教師だった。
しばらく歩き回っていたトニーだが、ふと横を見ると一人黙々と実験をする生徒がいることに気付いた。
ヴァージニア・ポッツ。
真面目な彼女は、休み時間もいつも一人静かに本を読んでいた。人望からか、それなりに友人はいるようだが、他の生徒が騒いでいても遠巻きにニコニコとして いるイメージしかトニーにはなかった。
だが、他の生徒とは違うからだろうか…以前より彼女に興味のあったトニーは、ふと顔を盗み見した。彼の視線に気付いたのか顔を上げた彼女だが、視線が合うと真っ赤な顔をして俯いてしまった。
「ポッツ君?大丈夫か?」
トニーが思わず声をかけると、慌てた彼女は手に持っていたフラスコを落としてしまった。
ガシャーン!
理科室に響き渡る音に、他の生徒が振り返った。
「す、すみません!」
慌てたポッツは片付けようと立ち上がったが、椅子に足を取られ身体が揺らいだ。
危ない!
ポッツが割れたガラスの上に転倒しそうになったのを見たトニーは、咄嗟に彼女を庇うように抱きかかえた。
「キャー!」
教室に生徒の悲鳴が響き渡った。
***
保健医のブルース・バナーは、頭の回転も早く話も合うためか、この学園では唯一トニーが心を許した相手だった。
ベッドサイドで血に塗れた白衣を握りしめ泣くポッツに、バナーは優しく声をかけた。
「トニーは大丈夫だよ」
ベッドに座ったトニーの腕に包帯を巻き終わったバナーは、トニーの肩を軽く叩くと気を利かせて部屋を出て行った。
「す、スターク先生…。わ、私。ご、ごめんなさい!」
涙をポロポロと流しながら、ポッツはトニーに頭を下げた。
「気にするな。擦り傷だ」
「で、でも…でも――」
「君が怪我しなくてよかったよ。だから、謝らないでくれ」
泣き腫らした顔をあげたポッツにトニーはにっこりと微笑んだ。トニーの笑顔に自然とポッツの顔も緩んだ。その表情にドキっとしたトニーは、心の動揺を悟られないように、わざと違う話題をし始めた。
「ところで、ポッツ君。君の髪は美しいな。瞳も…。授業中は眼鏡を掛けているから気がつかなかったが、眼鏡をとっても美人だ。そうだ。いつも髪を上げているが…ポニーテールにしてみれば?」
ベラベラと話すトニーの言葉を、目を丸くして聞いていたポッツだが、
「先生は、みんなにそんなこと言っているんですか?」
と、吹き出した。
「いや、いつもは言わない。君だから言ったのかもしれない」
自然とそう答えたトニーに、ポッツは顔を赤らめた。
「スターク先生って面白いですね」
クスクス笑う彼女はかわいらしく、トニーは照れたように頭を掻いた。
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