Until the last moment番外編⑦

イーストハンプトンでの休暇は申し分ない素晴らしいものだった。
トニーとハッピーの入念な計画も功を奏し、誰にも気づかれないままタワーを脱出できたおかげで、ハンプトンではマスコミの姿を見ることは一切なかった。
広大な敷地は木々で囲まれ外から見えないようになっていたし、広々とした庭やプールや海で親子3人遊んでいると、あっという間にチャリティパーティーの日になってしまった。

パーティー当日、NYに戻って来たのだが、マスコミは会場へ向かったのか、タワー周辺には誰もいなかった。
ゆっくりと準備を整えた3人は、車に乗り会場へと向かったが、案の定会場には大勢のマスコミが詰めかけていた。
表から入れば大変なことになると、裏の通用口から会場入りした3人だが、それでも会場にトニーたちが姿を現すと、その場は静まり返った。

『トニー・スターク、結婚!相手はペッパー・ポッツ!』という見出しで、2人の結婚式の写真が一面を飾ったのは、10日前。
その後、マスコミはしつこくトニーに直撃取材しようとしたが、彼はおろかペッパー・ポッツの姿もそれ以降見ることはなかったのだ。
だが、今日この場に揃って姿を現したということは、本人の口から何か話があるということだろう。
トニーに向けて一斉にフラッシュがたかれたが、彼は知らぬ顔で招待されている某ハリウッド俳優の元へと挨拶に行ってしまった。
トニー・スタークから何も聞き出せなかったとなると、残すはペッパー・ポッツ…いや、ペッパー・スタークに聞くしかないと、続けて入って来たペッパーにカメラを向けた。
マスコミの前に現れたペッパーは、4年ぶりにも関わらず美しかった。いや、幸せの絶頂にいるためか、4年前よりもさらに美しさに磨きをかけていた。左手には婚約指輪と結婚指輪だろうか、幸せの証が光っており、煌めくダイヤモンドの眩しさに女性陣からは思わずため息が漏れた。が、その彼女に手を引かれる小さな男の子の存在に気づくと、どよめきは一層大きくなった。
ペッパーと手を繋いでこの場にいる…つまりあの小さな男の子は、トニー・スタークの息子ということだろうか…。
異常な雰囲気に気づいたルーカスは不安げに母親を見上げた。
「ママ……」
泣き出しそうな息子の手を握りしめたペッパーは、彼に向かって力強く頷いた。
「大丈夫よ、ルーカス。パパに任せておけば大丈夫」
「うん…」
父親はいつだって自分たちを助けてくれるヒーローなのだ。だからきっと大丈夫…と自分に言い聞かせたルーカスは、母親の手を握り直すと、堂々と歩き始めた。

最前列のテーブルに案内された3人だが、見たこともない華やかな世界にルーカスは目を輝かせた。
「ママ!すごいね!」
子供が喜びそうな特別メニューの食事が次々に運ばれてきて、ルーカスは早速料理に手を伸ばそうとした。が、ペッパーはその手を押しとどめた。
「ルーカス、先にパパのご挨拶があるのよ。だから食べるのはもう少し待って頂戴」
「はーい」
母親に言われ椅子に座り直したルーカスは、司会者に呼ばれステージに上がった父親を見つめた。
一通り挨拶をし終わったトニーは、ゴホンと咳払いをした。
「ところで、この場を借りて報告したいことがある。知っていると思うが、実は結婚した。それから、この私がついに父親になった」
ついに本人の口から語られると、マスコミは一斉にカメラを向けた。
「妻と息子を紹介しよう」
一際優しい視線を送ったトニーは、ペッパーとルーカスに向かって手招きした。
ルーカスの手を繋ぎステージへ上がったペッパーの頬に軽くキスをしたトニーは、ルーカスを抱き上げた。
「妻のヴァージニアと、息子のルーカス・アンソニー・スタークだ」
おぉっ!と沸き起こった歓声と拍手に驚き目をぱちくりさせたルーカスは、恥ずかしそうにトニーの肩に顔を埋めた。
「ヴァージニア…いや、ペッパーとは、とある出来事がきっかけで4年ぶりに再会した。その時だ。私にも息子がいると知った。4年前、私たちは別々の道を歩むことになったが、再会し、やはりお互いに必要な存在だと気づいた。もう二度と離れ離れにならないよう、永遠の愛を誓い合った。ペッパーはスターク・インダストリーズに復帰する。よろしく頼む」
そう告げたトニーはペッパーにキスをすると、手を繋ぎステージを降りた。テーブルに向かって歩く3人に、フラッシュが浴びせられた。顔を上げたルーカスは、あまりの眩しさに目をきゅっと閉じたが、恐る恐る目を開けると小さく手を振った。その可愛らしい仕草は会場中の心をすっかり奪ってしまい、この日以降、ルーカスはメディア界隈で一躍人気者になったとか…。

挨拶が終わるとマスコミは会場から締め出されたため、その後はカメラを気にすることなく過ごすことができた。
美味しい料理を堪能し、デザートのケーキに手を伸ばしたルーカスだが、先程からトイレに行きたくてたまらない。が、トニーとペッパーの元に挨拶に来る人は後を絶たず、とうとう我慢出来なくなったルーカスは、母親のドレスを引っ張った。
「ママ…おしっこ…」
「あらあら、急いで行きましょ」
ルーカスの握りしめたペッパーだが、トニーがさっとルーカスを抱き上げた。
「ルーカス、パパと一緒に行こう」
この場から逃げ出したかったのはトニーも同じだったので、これ幸いにと彼は息子を連れてトイレへ向かった。

「間に合ったか?」
「うん!」
手を洗ったルーカスは、ポケットからアイアンマンのハンカチを取り出した。
「ねぇ、パパ、どうしてみんな、パパとママのおしゃしんとるの?」
ルーカスは今までとは全く違う世界に飛び込んできたばかり。トニーにとっては物心付いた時からマスコミに追いかけ回されていたのだから、それが当たり前なのだが、ルーカスにとっては何事も目新しく初めてのことばかりなのだ。
「それはだな…」
まさか息子に『パパは昔はプレイボーイで遊んでたから、そういうネタを探しているんだ』とか『マスコミはパパとママのスキャンダルを狙ってるんだ』と言う訳にはいかない。そこで
「パパがアイアンマンだからだ」
と答えると、ルーカスは納得したように大きく頷いた。
「だがな、ルーカス」
息子を抱き上げたトニーはトイレを出ると、廊下に置かれた椅子に腰掛けた。
「お前はお前だ。だから、ルーカスは自分の人生を生きろ。いいな?」
何度か目を瞬かせたルーカスは頷くと欠伸をした。
「眠くなったか?」
背中をポンポンと撫でると、ルーカスはトニーの肩に顔を埋めた。ゆっくりと背中を撫でていると、程なくして寝息が聞こえてきた。
ルーカスを起こさないようにポケットから携帯を取り出したトニーは、ハッピーに車を回すよう告げると立ち上がり、ペッパーの元へと向かった。

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