Until the last moment⑨【END】

それから4ヵ月が経った。
NYのスタークタワーのペントハウスには、この日、ローディの姿があった。
「…で、お前の退院後は?」」
コーヒーを啜ったローディに、トニーは肩を竦めた。
「2ヵ月前に無事に退院した私は、3週間ほどペッパーの家にいた。病み上がりの私を1人にさせる訳にはいかないと、ペッパーがえらい剣幕で…。そこで私達はようやく本当の家族になれたんだ。が、いつまでも仕事を放っておくわけにはいかない。私は一応CEOだ。だから泣く泣くNYへ戻ってきたのが1か月前だ。それからは2人には会っていない」
大げさに首を振ったトニーが目の前に手をかざすと、モニターにペッパーとルーカスの写真が現れた。
「この1ヵ月、私はこの写真を見ながら、一人寂しい夜を過ごしてた訳だ…」
芝居がかって言うトニーに、ローディは呆れたように溜息をついた。
「相変わらず大げさだな。毎晩電話してたんだろ?」
親友の冷たい反応にトニーは眉を顰めた。
「だが、電話だけだ。1ヶ月もペッパー抱いていないだんだ。4年分溜まっているんだぞ?こっちの身にもなってくれ」
ということは、退院後…いや、退院前から2人は毎日…と考えたローディは、ペッパーはまた大変だな…と、ここにいない友人に同情した。
だが、そんな寂しい暮らしも今日までだ。というのも、ペッパーとルーカスは今日、ここに引っ越してくるのだから…。
「今日から一緒に暮らすんだろ?ペッパーはまた会社で働くのか?」
ペッパーを思い出したのか顔を緩めたトニーは、鼻の下を擦った。
「ペッパーはスターク・インダストリーズに復帰だ。暫くは私の秘書をして、仕事の勘が戻れば、CEOに復帰だ。私はまた会長になり、自由にさせてもらうさ。それからルーカスは…」
と、トニーは先ほどまでよりも顔を崩した。
「ルーカスはマンハッタンにある幼稚園に通う。だからその前にきちんと決着を付けようと、私がNYに帰る前にペッパーとはベガスで結婚した。来月、スターク・インダストリーズ主催のチャリティーパーティーがある。その場でペッパーと結婚したことを報告し、ルーカスを息子だと紹介しようと思っている。マスコミにいらぬ詮索はされたくないからな」
そう言って腕時計をチラっと見たトニーの左手には、真新しい指輪が嵌っていた。

2人が結婚したのは1か月前。
『ペッパーと結婚した』と素っ気ない文面のメールと、キスをしている2人の写真が送られてきて、ローディはそこで初めて2人が正式によりを戻したことを知ったのだ。
だが、それから2人が式を挙げたという噂も聞かないし、トニーがペッパーのウエディングドレス姿を送り付けてくる気配もなかった。
「結婚式はしないのか?」
派手好きなトニーのことだから、さぞかし盛大な式を挙げると思っていたのに、式の話は一向に出ないのだから、一体どうしたものかとずっと気を揉んでいたのだ。
と、トニーが身を屈めた。まるで内緒話でもするように、彼は小声で話し始めた。
「ペッパーが2人だけでいいと言ったんだ。だが、私としてはペッパーにウエディングドレスを着させてやりたい。だからサプライズを用意した。2日後、結婚式を挙げる。リバーサイド教会だ。参列者はお前とハッピーだけだ。それからもう一つ…」
と、その時だった。
『ボス、いらっしゃいました』
F.R.I.D.A.Y.の声が響くと同時に、エレベーターがフロアに到着した。
そしてドアが開くや否や、ルーカスが弾丸のように飛び出してきた。
「パパ!!」
腕を広げて待ち構えたトニーに抱き付いたルーカスは、嬉しそうに歓声を上げた。息子を抱き上げたトニーは、彼の髪をくしゃっと撫でると、頬にキスをした。
「ルーカス!また大きくなったか?」
「うん!パパ、あのね…」
キョロキョロと辺りを見渡したルーカスは、ソファーに座るローディに気付くと顔を輝かせた。
「あ!ウォーマシーンだ!」
大好きなヒーローにまた一人会えたと歓声を上げたルーカスはトニーの腕の中から降りると、手をひらひらと振るローディの傍に駆け寄った。
「ぼくね、アイアンマンのつぎにウォーマシーンがすきだよ!だって、ウォーマシーンは、アイアンマンのみかただから!」
何とも可愛らしい理由に胸がいっぱいになったローディは、ルーカスを抱き上げると膝の上に乗せた。
「おい…トニー…。何ていい子なんだ…。お前に似なくてよかったな…」
「失礼だな」
頬を膨らませたトニーだが、エレベーターからペッパーとハッピーが降りて来たのを見ると、ペッパーの方へ歩き始めた。
「おかえり、ハニー」
「ただいま。ここに戻ってくるのは、4年ぶりね」
トニーにキスをしたペッパーは、彼の腰に腕を回すと、懐かしそうに辺りを見渡した。
「ローディ、また戻って来たわ。よろしくね」
ルーカスと遊んでいるトニーの親友に声を掛けると、ローディは「もちろんだ」と、にこにこ笑みを浮かべた。

自家用ジェットと言っても、マイアミからNYまでは3時間以上かかる。
おそらくルーカスは大騒ぎだっただろうし、ハッピーがいたといってもそれなりに大変だったのだろう。疲れた表情のペッパーをトニーは心配そうに見つめた。
「大丈夫か?」
そう言いながら、トニーは無意識のうちにペッパーのお腹に手を当てた。
「えぇ、大丈夫よ」
その手に自分の手を重ねたペッパーは、はにかんだ笑みを浮かべたのだが…。

「おい、もしかして…」
2人のやり取りを見守っていたローディは、目を輝かせた。
身を乗り出して朗報を待っているローディに、トニーはご丁寧にウインクをした。
「それを言おうとさっきしたんだ。2人目を妊娠中なんだ」
孤独と戦い続けた親友に家族ができ、そして家族がまた1人増えようとしている…。こんな最良の日はあるだろうか…。
思わず涙ぐみそうになったローディはその涙を隠すように頭を振ると、目の前までやって来たトニーとペッパーの手を握りしめた。
「で、何ヶ月だ?」
まだお腹は目立っていないし、そもそもこの2人が再会したのは4か月ほど前だし…と考えていたローディの思考は、トニーとそれを遮るようなペッパーの叫び声で強制中断させられた。
「3ヵ月だ。入院中に仕込……」
「トニー!!」
真っ赤な顔をしたペッパーはその場で飛び上がったのだが、そんなことで怯むトニー・スタークではない。
「いいじゃないか。本当のことだ。入院中は暇だったから、君とセ…」
「だから、ルーカスの前でそんなこと言わないで!!」
キーっと叫んだペッパーは、トニーの背中を叩き始めた。

4年前まではいつも見ていた2人の光景に、ローディとそしてハッピーは今度こそ永遠にこの幸せな時が続きますようにと祈った。

【END】

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