Until the last moment⑧

それから1週間が経った。
2、3日だと言われたが、トニーはまだ生きており、容態も小康状態になったことから、ICUを出て個室に戻っていた。
医師からは奇跡だと言われたが、ペッパーはその奇跡を信じ祈るしかなかった。

きっとトニーは頑張って戻ってきてくれる。
もし彼が戻ってきてくれれば、それは私たちがもう一度やり直してもいいということ…。
そう祈りながら、ペッパーとルーカスは毎日トニーに付き添っていた。

ルーカスは毎日トニーに絵本を読み聞かせていた。というのも、自分が熱を出して寝込むと、母親は早く元気になるようにと、いつもアイアンマンの絵本を読んでくれていたのだ。だからトニーにも読み聞かせば、元気になって目を覚ましてくれるとルーカスは幼いなりに考えたのだ。

「…アイアンマンと…キャプテン・アメリカは…えっと…シベリアのどうくつで…たたかいました。アイアンマンは…キャプテン・アメリカを…ともだちだと…おもっていましたが…キャプテンは…しんゆうの…ウィンターソルジャーを…まもろうと…えっと…アイアンマンとしょうぶしました」

その日もルーカスはアイアンマンとキャプテン・アメリカの絵本を読んでいた。
その本はトニーにとってはあまり楽しい内容ではないのでは…と思ったペッパーだが、小さな息子は一生懸命読んでいるのだから、黙って見守っていた。
そこへ医師がやって来た。昨日挿管していたチューブを外したのだが、トニーの容態は安定したおり、手早く診察した医師は、何やらナースに告げるとペッパーに向かって頷いた。
「スタークさん、頑張っておられます。きっとあなたたちを残しては死ねないという思いが強いんでしょう。ポッツさん、医学的にはスタークさんは亡くなられてもおかしくない状態でした。ですが、ご家族の愛は時に医学の範疇を超えた奇跡を起こします。ですから、話しかけて上げてください。きっとスタークさんに、あなた達の声は届いていますから…」
「はい」
力強く返事をしたペッパーに頷いた医師は、本を読んでいるルーカスに目を向けた。
「心強い援軍ですね」
「はい。でも、今日の本はトニーにとってはいい思い出ではない話ですけど…」
肩を竦めたペッパーに、実はアイアンマンマニアの医師はその通りだと何度も頷いた。

「…キャプテンは…アイアンマンをたおしました。アイアンマンは…アーマーをこわされて…たちあがれません。キャプテンは…ウィンターソルジャーといっしょに…どうくつをでていきました。どうくつにのこされた…アイアンマンのそばには…キャプテンのたてが…のこっていました。おしまい」
絵本を閉じたルーカスは、ふぅと大きく息を吐いた。

この本は嫌いだった。アイアンマンがキャプテンに負けてしまうから。が、アイアンマンが活躍する本は読み尽くしてしまい、仕方なくこの本を今日は持ってきたのだ。
何度読んでもこの本は納得いかない。
キャプテン・アメリカはアイアンマンのことを助けなかった。怪我をして動けないアイアンマンを置き去りにして、悪いことを沢山したウィンターソルジャーを助けたのだ。アイアンマンとキャプテン・アメリカはアベンジャーズで一緒に戦った友達なのに…。
それに、アイアンマンはいつも悪いことをする人に勝っていた。それなのに、この時は負けてしまったのだ。
幼稚園で友達とこの話をすると、友達は口を揃えて言った。キャプテン・アメリカよりアイアンマンは弱いからだと。だからそうなんだと思うことにした。
だが、アイアンマンは自分の父親だ。それが分かった今、アイアンマンが負けた理由が他にあるかもしれないとルーカスは考えたのだ。

「ねぇ、ママ。アイアンマンはキャプテンにまけたの?アイアンマンのほうがつよいよね?アイアンマンはわるいことをするひとに、いつもかってたでしょ?キャプテンはわるいことをしたウィンターソルジャーをたすけたわるいひとなのに、どうしてアイアンマンはまけちゃったの?」
息子の質問にペッパーは困り果てた。あの事件の話はマスコミが報道していたことしか知らない。真相…特にシベリアの洞窟での出来事はトニー・スターク本人しか知らないし、別れていた4年の間に起こった出来事なので、トニーからその話を聞いたことはなかったのだ。
思わずアイアンマンマニアの医師を見たが、さすがの彼も報道されていること以外は知らないので、慌てて首を振った。
が、明確な答えが聞けると信じきっているルーカスはキラキラした瞳で2人を見つめているではないか。
「それはね…」
『パパが目を覚ましたら聞いてみましょうね』とペッパーが言葉を続けようとしたその時だった。
小さな呻き声と息が漏れる音が聞こえたのだ。
「え……」
慌ててトニーを覗き込むと、彼は薄らと目を開けているではないか。
「トニー…分かる?」
手を握りしめたペッパーが何度か呼びかけると、小さく頷いたトニーはペッパーに微睡んだ瞳を向けた。
「よかった…トニー…」
手を握りしめたペッパーは、ポロポロと泣き始めた。
「スタークさん!頑張られましたね!」
アイアンマンマニアの医師も、トニー・スタークが戻ってきたと大興奮だ。
「パパ!」
ようやく父親が目を覚ましたと大喜びのルーカスは、その場で飛び跳ね始めた。
そんな息子を見つめながら、トニーは先ほど夢見心地で聞こえた息子の質問に答えなくてはと、か細い声を出した。
「パパの…ほうが……つよいに…きまってる…」
「トニーったら、聞こえてたの?」
目覚めて第一声が、まさか自分が強いということだなんて…と、呆れたように目をくるりと回したペッパーだが、トニーらしい答えに嬉しくなっペッパーはクスクス笑い始めた。
泣きながら笑う母親と、それを嬉しそうに見つめる父親を見たルーカスは、『アイアンマンの方が強い』という思った通りの答えが聞けたことと、父親が目覚めたという二重の喜びから、病室内を走り回り始めた。
「パパのほうがつよいんだ!よかった!ぼく、おともだちにいっとくよ!ぼくのパパのアイアンマンがいちばんつよいって!」
歓声を上げながら走り回る息子を見つめたトニーは、泣きながら抱きついてきたペッパーをそっと抱き寄せると、奇跡が起こったことを神に感謝した。

⑨へ…

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