Until the last moment③

その夜。
母親に大好きなアベンジャーズの本を読んでもらったルーカスは、ベッドの中に潜り込むと、今日のトニーとのひと時を思い出した。
憧れのアイアンマン。アイアンマンはルーカスにとって、たった1人のヒーローだった。友達の中には、アイアンマンの悪口を言う子もいた。何故か分からないが、ルーカスは幼い頃からアイアンマンのことだけが大好きだった。だが母親は、アイアンマンのことを好きだと言って欲しくないようだった。その話をすると、母親はとても悲しそうな顔をするのだ。どうしてなのか分からなかった。が、今日、そのアイアンマンが目の前に現れた。自分のことを助けてくれた。そしてたくさん話をした。
母親はアイアンマンのことはよく知らないと言っていたのに、知り合いのように話していた。アイアンマン…いや、トニーの方も、母親のことを知っているようだった。
が、2人の間にはギクシャクした雰囲気が漂っていたのだから、聞いていいものか迷ったルーカスは暫く自問していたが、勇気を出して聞いて見ることにした。
「ねぇ、ママ。トニーのこと、しってるの?」
「え…」
確かにあのやりとりでは、小さな息子でもそう思うのは無理もないかもしれない。言葉に詰まったペッパーの顔色を見ながら、ルーカスは感じたことを素直に口に出した。
「ママ、トニーにあってね、とってもかなしそうだったけどね、ちょっとだけうれしそうだったから…」
ルーカスには、自分の心の奥底に封印したはずの本当の気持ちを見抜かれていたのだ。
泣き出しそうになった母親に気付いたルーカスは、慌てて話題を変えようとした。
「ねぇ、ママ。トニーのおうちにあそびにいってもいい?トニーのおうちね、ロボットがあるんだって!ぼく、ロボット……」
「ダメ!」
思わず声を荒げたペッパーに、ビクッと身体を震わせたルーカスは、申し訳なさそうに毛布に潜り込んだ。
「ごめんなさい…」
顔色を伺うように見上げてくるルーカスのその仕草はトニーそっくりで、声を上げて泣きたい気持ちを押さえ込んだペッパーは、息子の頭をゆっくりと撫でた。
「トニーのお家は、ここから遠い所にあるの。だからすぐには行かれないよ」

暫くして、ルーカスは眠ってしまった。
立ち上がったペッパーは、息子の部屋を見渡した。
ルーカスはアイアンマンが大好きだった。他にもヒーローはたくさんいるのに、生まれた時からアイアンマン以外のヒーローには見向きもしないのだ。それに、何も教えていないのにロボットを組み立て始めたのは、ルーカスが3歳になる前のことだった。
日に日に父親に似てくる息子の何気ない仕草にも、ペッパーはトニーを思い出し胸を痛めていたのだ。
今日、偶然にも再会したのだから、親子の対面をさせてあげればよかったのかもしれない。だが、もう遅いのだ。この4年間は何をしても取り返しがつかないのだから…。

ふぅと溜息をついたペッパーは、息子を起こさないようにそっと部屋を後にした。
寝室に向かったペッパーは、クローゼットの中から小さな箱を取り出した。
中にはモナコで撮影した1枚の写真と、そしてトニーから贈られたあの破片が飾られたネックレスが入っていた。
これ以外のトニーとの思い出の品は全て処分した。が、この2品だけはどうしても捨てられなかった。いつか真実を息子に話した時に、父親の形見だとこれだけは渡さなければと残しておいたのだ。

4年ぶりに会ったトニーは、疲れきった顔をしていた。4年という歳月以上に歳をとって見えた。
自分と別れた後の彼は、一体どのような暮らしをしていたのだろう…。きっとろくな物を食べず、ラボに篭り、一人孤独に…。

ハッと我に返ったペッパーは頭を振った。
トニーと再会してから、気がつけば彼のことばかり考えている。
せっかく彼のことを忘れて…いや、忘れようと必死に生きてきたのに…。
仕事も友達も何もかも失った。彼に捨てられたのだからと、彼のことを憎んで生きようとしてきたのに…。
それが今日、彼と再会して…つかの間の再会だったにも関わらず、彼への愛は変わらず自分の中に残っていると気づいてしまった。

ネックレスを身につけたペッパーに、あの時のトニーの言葉が蘇った。
『私の心だ。世界一大切な君に捧げる…』
マンダリン…いや、キリアンの事件の時、2人で苦難を乗り越えた。これから何があっても2人でなら必ず乗り越えられると信じていたのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう…。

「どうしよう…。私は…トニーのことを…愛してる…」

本心を口に出したペッパーは、写真を抱きしめると、一晩中静かに涙を流した。

④へ…

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