You’re The First, The Last, My Everything.~NY編③

翌朝、ペッパーがキッチンへ向かうと、ブルースが朝食の準備をしていた。
「あら?ブルース、早いわね?」
「おはよう、ペッパー。トニーは大丈夫かい?」
心なしか元気のないペッパーの様子が気になったブルース。焼き立てのワッフルを差し出しながら尋ねると、ペッパーは下を向き口を尖らせた。
「…多分…」
「多分って…?」
ペッパーの言葉に首を捻ったブルースだが、見ると目の前の女性は涙ぐんでいるではないか。何と言えばいいのか分からなくなったブルースが焦っているのに気付いたのだろう。目元をタオルで押さえたペッパーは、顔を上げた。
「昨日は一緒に寝なかったから…」
寂しそうに微笑んだペッパーは熱いコーヒーの入ったマグカップを手に取った。
「どうして?」
ブルースの優しい声に、ペッパーの目からは涙が零れ落ちた。
「…私がそばにいると、彼の事傷つけてしまうの…。彼は優しいから、私のせいじゃないって言うけど…。私のせいで彼が傷つくのはもう見たくないの…」

ポロポロと涙を零すペッパー。その姿は彼の心に住み続けるあの愛しき女性の姿を思い起こさせた。
お互いが傷付いても離れたくなかった。だが、運命の女神は自分たちには微笑んでくれなかった…。いや、あの時、彼女の手を振り切ったのは自分。彼女を傷付けたくなかったから…。

(やれやれ…この二人もお互いを思いやる気持ちが強すぎるんだよな…。お互いに感情をストレートにぶつけていると思えば、こうやって相手のことを思いやりすぎて本心を隠してしまう…)

メガネを外したブルースは「ペッパー?」と呼びかけると、顔を上げた彼女にニッコリ微笑んだ。
「それでもトニーは君にそばにいて欲しいんだよ。何よりも大切な君にね。でも、君の言いたいことも分かる。大切な人が自分の手で傷つくのは見たくない。僕も身に覚えがあるからね。でも、君たちは誰にも邪魔されず、一緒にいられるんだ。だから、しっかりお互いの気持ちをぶつけて、話し合った方がいい」

ブルースの言葉に後押しされるように、寝室へと向かったペッパーはそっとドアを開けた。
トニーはまだ眠っているのか、室内は薄暗い。
「トニー?起きてる?」
そっと呼びかけるが、返事がない。
「トニー?」
心配になったペッパーがベッドに近づき覗き込むと、真っ赤な顔をしたトニーはベッドの中で丸まり震えているではないか。
慌てて額に手を当てると、燃えるように熱い。
「大変!熱があるじゃないの!」
荒い息をしているトニーは、トロンとした目でペッパーを見上げた。何か言いたげなトニーを制したペッパーは、
「ジャーヴィス、ブルースを呼んで」
と言うと、毛布を引っ張り出しトニーの上に何枚も掛け始めた。

「今日一日点滴をすれば、明日には元気になるよ」
手早くトニーを診察したブルースは、点滴を付けるとトニーの手を軽く触った。苦しそうなトニーは、ぼんやりした顔でブルースを見つめていたが、小さく頷くと目を閉じた。

リビングへ向かうと、待ち構えていたペッパーが駆け寄ってきた。
「ブルース、トニーは…」
青い顔をして目に涙を溜めたペッパーを安心させるように、ブルースは頷いた。
「大丈夫。いろいろあったから疲れてるんだよ。明日にはまた元気なトニーに戻るよ」
よかった…と呟いたペッパーは、安心したように息を吐き出した。そんなペッパーをいたわるように肩を軽く叩くと、ブルースは笑みを浮かべ目を細めた。
「ペッパー、そばにいてあげなよ。あれだけの目にあったんだ。彼の心の傷はまだ癒えてはないと思うよ。口には出さないけど、君がそばにいないと、まだ不安なんじゃないかな?彼にとって君は全てなんだから…」

しばらくして寝室に向かったペッパーがベッドを覗き込むと、ちょうどトニーは目を覚ましたところだった。
「トニー、大丈夫?」
「あぁ…」
もそもそと起き上がったトニーは汗をかいており、肌寒かったのだろう、小さなくしゃみを一つした。
「濡れてるわ。着替えましょ?」
パジャマ代わりのTシャツとスウェットを出したペッパーは、濡らしたタオルでトニーの身体を手早く拭くと着替えさせた。

「何か欲しいものはある?」
ヘッドレストにもたれかかるようにベッドに入ったトニーは、ギブスで固定された左腕をさすると顔をしかめた。
「…腕が痛い…」
肩から毛布を掛けたペッパーは、ペットボトルを渡した。
「薬を飲みましょ?でもその前に何か食べて?リンゴを持ってきたんだけど、食べれそう?」
水を飲み干したトニーが小さく頷いたのを確認すると、ペッパーはベッドサイドのテーブルに置いていた皿を手に取った。
皿の上にはウサギの形になったリンゴが並べてあり、その一つをフォークで突き刺したペッパーは、そのままトニーの口元に運んだ。
「はい、あーんして」
まるで子供のような扱いに、何度か瞬きしたトニーは、恥ずかしそうに口を尖らせた。
「…自分で食べれる…」
だが、ペッパーはフォークを引っ込めようとしない。
「あら、いいじゃないの?熱がある時くらいサービスするわよ?」
クスクスと笑ったペッパーは本当に嬉しそうで、トニーは眩しそうに目を細めた。
「やっといつもの笑顔が見れた…」
つられて笑ったトニーは、鼻の下をこすると口を開けた。

リンゴを食べ薬を飲んだトニーは、ベッドに横になった。
「他に欲しい物はある?」
髪を梳くように頭を撫でるペッパーをじっと見つめていたトニーだったが、しばらくして小さな声で呟いた。
「…君にそばにいて欲しい」
その言葉に、困ったように目を伏せたペッパー。
「でも…私がそばにいると…」
泣き出しそうな彼女の手をそっと握ったトニーは首を振った。
「いいんだ。例え傷ついても、君がそばにいてくれるだけで、私は幸せなんだ。君がいない方が辛い。だから、ずっとそばにいてくれ…ペッパー」
手の甲にキスを落とすと、トニーはにっこりと微笑んだ。途端にペッパーの目からは大粒の涙が零れ落ち、そんなペッパーが愛おしくなったトニーは、手を引っ張り腕の中に閉じ込めた。
Tシャツ越しに光る青白い光に顔を押し付けたペッパーは、少し汗ばんだトニーの匂いを吸い込んだ。あの事件、すなわち尋常ではない力を手に入れて以来、 ずっと心にあった恐怖……いつか彼のことを壊してしまうという恐怖が消え去るのを感じたペッパーは、彼の胸元に何度も唇を押し付けた。
「私もね…本当はあなたの傍にずっといたいの…」
ペッパーの長く美しい髪を梳いていたトニーだったが、彼女の顎を持ち上げた。
涙に濡れたオーシャンブルーの瞳を捉えると、
「それは良かった。意見が一致したな?」
と、艶やかな唇を貪るように奪ったのだった。

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