翌朝、ペッパーを起こさぬようにベッドから抜け出したトニーは、シャワーを浴びるとラボに向かった。
一刻も早く彼女を元に戻してやりたい…トニーはその一心だった。
数時間後、ブルースがラボに姿を現した時も、トニーは彼に気づくこととなく目の前の作業に没頭していた。
「トニー、大丈夫か?」
目の前で声をかけられ、やっと彼の存在に気付いたトニー。慌てて顔を上げると、いつもの彼らしくニヤリと笑った。
「あぁ。大丈夫だ。心配かけたな」
一言二言言葉を交わした後、自分の作業に集中し始めたトニー。その眼差しはブルースが見たことないほど真剣で、トニーにつられるようにブルースも自分の仕事に取組み始めた。
数日後。
解毒剤の試作品を完成させた二人は、採取したペッパーの血液を使用し、早速効果を確認した。
だが、何の変化もなく、試作品は失敗に終わった。
「ダメか……」
ガックリと肩を落としたトニーの背中をブルースは軽く叩いた。
「トニー、またやり直そう。大丈夫だ。少しずつ近づいているから…」
一方のペッパーは、直接二人の手伝いをできるわけではないため、二人のために食事を作り、陰ながら支えていた。そして徐々に力をコントロールできるようになった彼女は、トニーに抱かれる時も彼に怪我をさせることなく、二人はお互いの存在を確認し合っていた。
それから一週間ほどたった頃。
顕微鏡を覗いていたブルースが、彼にしては珍しく大きな声を出した。
「トニー!見てくれ!」
何かあったのかと、飛び上がったトニーは、慌ててブルースの元に走った。
顔を輝かせたブルースは、トニーに顕微鏡を覗くよう促した。
「これは、ペッパーのDNAだ。で、改良した解毒剤を加えて取り出したDNAがこっちだ」
見ると、解毒剤を加えた方に明らかに変化がある。
「元に戻ってるぞ?!」
顔を上げたトニーは、手が小さく震えていることに気付き拳を握りしめた。
「あぁ、成功だ。もう少し実験を重ねなければならないが…」
一人ではこんなに短期間でできなかっただろう。彼の協力なしには完成しなかったかもしれない。
文句も言わず、献身的に協力してくれたブルース・バナーは、まるで自分のことのように嬉しそうに笑っている。
「ありがとう、ブルース。君のおかげだ。ありがとう…」
頭を下げ、何度も感謝の言葉を口にするトニーの姿に目元から零れ落ちそうになった涙をそっと押さえたブルースは、目の前の男の手を握った。
「お礼なんてよしてくれ。君たち二人には世話になっているんだ。それに、君もだが、ペッパーは僕の友達だ。友達の力になるのは当然のことだろ?」
潤んだ目を隠すように天井を見上げたトニーは、ブルースを抱き締めると心底嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。
その夜、シャワーを浴び寝室へ戻って来たトニーは、服を脱ぎ捨てるとペッパーの隣に潜り込んだ。
相変わらず右足と左腕にギブスを付けているが、そんな生活にも慣れた二人は、トニーの負担にならないように抱き合った。
早速胸元にキスをし始めたペッパーの頭を撫でたトニーは、額にキスをすると顎を持ち上げ彼女の目をじっと見つめた。
「ハニー、もうすぐだ。もうすぐ元に戻れるぞ」
トニーの言葉に顔を輝かせたペッパー。
「ホント?ホントに元に戻れるの?」
待ち望んだ瞬間がもうすぐ訪れると分かり、ペッパーは目を潤ませた。
「あぁ。この2、3日のうちには必ず完成させる。だから、もう少し待ってくれ」
ペッパーの頬に流れ落ちた涙を唇で拭ったトニーは、柔らかな唇をそっと奪った。
「ありがとう、トニー」
トニーの鼻の頭に口づけしたペッパーは、嬉しそうに彼の身体に顔を摺り寄せ、リアクターの周りに次々と紅い印を刻み始めた。その様子を流れるように美しい髪を梳きながら眺めていたトニーだったが、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「正直なところ、ホットな君も最高だったんだが…」
残念そうに顔を顰めたトニーに、ペッパーはクスっと笑った。
「あら?そうなの?」
「あぁ。絶頂を迎える前の君の燃えるような身体は、正直病み付きだったんだが…。そんな君を味わえるのももうすぐ終わりか…」
わざとらしくため息を付いたトニーに、楽しそうな笑みを浮かべたペッパーは、彼の腹の上に跨った。
「じゃあ、ボス、思いっきり楽しんで?」
「君の頼みじゃ断れないな?ミス・ポッツ」
笑い合った二人は、甘く蕩けるような二人だけの世界に浸っていった。
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