5月の終わりのある日。
「ヴァージニア様、こちらのお花はどちらへ…」
「そちらの台の上にお願いします」
美しく飾られている城内を見渡したヴァージニアは、満足そうに頷いた。
今日はトニーの誕生日。
夜には大勢の人を招待する舞踏会が開かれることになっており、その準備をヴァージニアは率先して行っていた。
「こんなに待ち遠しい舞踏会は初めてですわ」
クスクス笑みを浮かべたアナは、飾り付けを直すよう指示しているヴァージニアに声を掛けた。
「そうなんですか?」
実は今日が城に来て初めての舞踏会。舞踏会と言えば、いつだって煌びやかで楽しいイメージのあるヴァージニアにとって、アナの言葉は予想外のものだった。
「えぇ。毎年陛下のお誕生日には舞踏会が開かれておりましたが、本当に形式ばったもので…。陛下も仕方なくお出になられているような感じでしたし…。でも、今年は何を着るかご自分で選ばれていらっしゃますよ」
確かにここ数日のトニーはとても嬉しそうだった。やたらとニコニコしていたし、ベットの中でもいつになく甘い言葉を連発していた。それも全て誕生日が待ち遠しくてたまらないからだったとは…。途端にトニーのことが愛おしくなったヴァージニアは、クスクスと笑い声を上げた。
「ヴァージニア様、陛下がお呼びです」
トニーの侍女に呼ばれたヴァージニアは、その場をアナに任せると、部屋へと急いだ。
マヤのあの一件以来、2人は寝室を共にしていた。が、寝室にトニーの姿はなかった。そこで彼の部屋を覗いてみると、そこにトニーはいた。
トニーはヴァージニアが刺繍を施したマントを羽織っていた。あの時、マヤに破られてしまったマントだが、ヴァージニアが丹精込めて作り直したため、当初の物よりも素晴らしい出来になっていた。
「お呼びですか、陛下?」
後ろ姿に惚れ惚れしたヴァージニアが声を掛けると、トニーが振り返った。
「あぁ。ジニー」
笑みを浮かべたトニーは机の上に置いてあった箱を持つとヴァージニアに近寄った。
「今宵のドレスはもう準備しているだろうが…良ければこれを着てくれないか?」
箱の中にはドレスと靴、そして宝石が入っていた。トニーの上着と同じ生地で作られたドレスは、シンプルなのだが贅沢にレースがあしらわれていた。
「今日は陛下のお誕生日です。私が陛下に贈り物を差し上げなければなりませんのに…」
申し訳なさそうに目を瞬かせたヴァージニアだが、トニーは首を振った。
「それともう一つ…」
トニーが別の箱の中から取り出したのは、ティアラだった。沢山の宝石で丁寧な細工のしてあるそのティアラに、ヴァージニアは目を奪われた。
「これはスターク国に代々伝わるものだ。我が国では、結婚式の前に妻となる女性を披露する舞踏会を行う習わしがある。その時身に着ける物だ。本来ならば、式の数週間前に行うのだが、私はお前を早く見せびらかせたくて我慢できない。だから今日はお前のお披露目も兼ねている」
「えぇ!そうなんですか?!」
トニーの誕生日の祝いだけだと思っていたのに、まさか自分も主役だなんて…。
急にアタフタし始めたヴァージニアは、赤くなったり青くなったりしているが、そんな可愛らしいヴァージニアに笑い声を上げたトニーは、頬にキスをすると部屋を出ていった。
***
夕方になると、城には続々と招待客が集まってきた。
城下町や近隣の者にはヴァージニアのことは伝わっているのだが、遠い国からはるばる来た者の中には、彼女の存在を知らぬ者もいた。そのため、トニーと何とか接点を持とうと着飾った大勢の女性たちは、今か今かと待ち構えているのだが、トニーはずっとヴァージニアの手を握りしめたまま離そうとしない。ダンスも延々とヴァージニアと踊っているし、隙さえあればキスをしているのだ。最初は話をしようと機会を伺っていた者もいたが、邪魔をすれば機嫌を損ねてしまうかもしれないと、とうとう誰も近づいてこなくなってしまった。
それでもトニーはずっと笑顔なのだから、皆嬉しくないはずがない。こんなに楽しそうなトニーを見るのは初めてだったから…。
結局、舞踏会はトニーが終始機嫌が良かったこともあり、大盛況のうちに終わった。
『次は4か月後の結婚式で会おう』と客を送り出したトニーは、ヴァージニアの手を引くと寝室へと戻った。
「陛下、お誕生日おめでとうございます」
寝間に着替えたトニーがベッドに腰かけ枕を整えていると、ヴァージニアが小さな箱を差し出した。
「開けていいか?」
受け取ったトニーが箱を開けると、トニーとジニーという文字を象った印章指輪が入っていた。
「私がデザインしてみたんです」
気に入ってもらえるか不安だという表情丸出しのヴァージニアは、トニーが目を輝かせ指輪を早速嵌めたのを見ると、安心したように息を吐いた。
「ジニーよ、一目で気に入った。ありがとう」
世界でたった一つの指輪は気に入ってもらえた。それならば、もう一つ大事な贈り物渡さなければならない。そしてそれは絶対に気に入ってもらえるだろうから…。
「あと、もう一つ…あります…」
もじもじと恥ずかしそうに俯いたヴァージニアは、顔を赤らめると深呼吸した。
「…私が贈り物です……」
そう言いながらヴァージニアは羽織っていたローブを肩から滑らせた。床にローブが落ちると同時に、何一つ身に纏っていない美しい裸体が現れ、トニーは目をぎらつかせた。
「お前が贈り物というと…」
分かっているのに意地悪なトニーは、手を伸ばすとヴァージニアの腹部を撫で始めた。
「…陛下…今日は陛下のお誕生日です…。ですから、陛下の好きなように…私を……してください…。何でもなさって下さい…」
ヴァージニアの言葉にトニーは眉を吊り上げた。
「好きなようにということは、お前を縛り上げ、外から見えるように窓のそばに吊るし、尻を叩き、限界まで焦らし、お前の気が狂うまで犯してもよいということか?」
過去に女性達に行ってきたことは二度としないと約束してくれたのに、トニーはやはり甚振ることが好きなのかと、ヴァージニアは唇を噛み締めた。
「は…はい…。陛下がお望みであれば…」
そんなことをされれば、闇から抜け出せなくなることは分かっている。というのも、ヴァージニアは気づいていた。自分がトニーに攻め立てられるのが好きだと…。きっと一度味わえば、忘れられなくなるだろう。そして彼の過去の女性達のように、深みに嵌ってしまうに違いない。そして彼を受け止められなくなれば、いつか捨てられてしまうだろう…。だから怖くて堪らなかった。
小さく震え始めたヴァージニアに、冗談を言ったつもりが逆に彼女を怖がらせてしまったと、トニーは鼻の頭を叩いた。そして立ち上がると、ヴァージニアを腕の中に閉じ込めた。
「ヴァージニアよ。約束したではないか。お前が嫌がる事はせぬと…。それに、今の私が好きなのは、お前の泣く姿ではなく、喜んでくれる姿だ。だから、いつも以上にお前のことを愛したいと思う。いいか?」
おでこにチュッと音を立ててとキスを刻んだトニーはヴァージニアの瞳を覗き込んだ。優しさと愛情に溢れたその瞳はどこまでも澄んでおり、トニーのことが愛おしくて堪らなくなったヴァージニアは、彼に飛びつくとベッドに押し倒した。
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