You’ll be mine.④

それから数週間後。一行は世界一裕福な国と言われるスターク国の領内へとやって来た。
領内の外れといえども賑わっている街に、娘達は歓声を上げている。
城のある街へは随分と距離があるため、2、3日はこの街で商売をしようと考えた主人は、まずはこの一帯を任されている領主に挨拶に行くことにした。そして領主の機嫌を取るために、綺麗どころを連れて行こうと、主人はヴァージニアとナターシャ、他に3人ほど娘を連れて屋敷へと向かった。

屋敷に到着すると、一行は豪華絢爛な部屋へと通された。暫く待つよう言われたが、主人と娘達は誰が領主の今宵の相手をするかで揉め始めた。その様子をヴァージニアとナターシャは遠巻きに眺めていたが、結論は出なかったようで、結局領主自身に選んでもらうことになった。
そうこうしていると、ドアが開き、男が数人入ってきた。慌てて頭を下げた一行だが、スキンヘッドの男が主人を手招きした。立ち上がった主人はド派手な服を着ている男の元へそそくさと向かった。
「あちらがこの辺りを治める領主、アルドリッチ・キリアンです」
ナターシャに囁かれヴァージニアが顔を上げると、キリアンはやたらぎらついた目で自分を見つめているではないか。
(や…やだ…)
パッと顔を伏せたヴァージニアは、自分が選ばれませんように…と心の中で祈った。だがその願いも虚しく、キリアンはヴァージニアに近づいてくると、腕を掴んだ。
「この赤毛の娘を貰う。金はいくらでも出すから置いていけ」
つまり、自分はキリアンに買われたということ…。自分の置かれている状況をようやく理解したヴァージニアは、主人に向かって叫んだ。
「嫌でございます!あの方との約束が…」
が、ヴァージニアの抵抗虚しく、主人は無情にも言い放った。
「キリアン様は10倍の金を支払って下さった。だからお前はここに置いていく。これからは一生キリアン様にお仕えするんだ」
ヴァージニアは抵抗した。が、男達には敵うはずもなく、泣き叫ぶ彼女を抱えた男達に寝室へと押し込まれた。

「お願いします!帰らせて下さい!」
キリアンと2人きりで部屋に取り残されたヴァージニアは彼に懇願した。が、ニヤつく顔を抑えきれないキリアンはヴァージニアを背後から抱きしめた。
「美しい…君は天使のように美しい。これからは一生、私が面倒をみてあげよう。だから安心しなさい」
キリアンの戒めから何とか逃げようと、ヴァージニアは必死だった。
「さ、先にお話でも…」
『彼』はいつも自分の話を楽しそうに聞いてくれていたことを思い出したヴァージニアはそう提案したのだが、キリアンは眉を顰めた。
「話?そんなものは後だ。何がしたいか分かってるのに焦らす作戦か?初心なふりして可愛いじゃないか」
初心どころか、まだ軽い口づけしかしたことがないのだから、ヴァージニアは再び必死に逃げようとした。が、キリアンはジタバタもがくヴァージニアを抱きかかえたままベッドへと向かった。
悲鳴を上げるヴァージニアをベッドの上に放り投げたキリアンは、不敵な笑みを浮かべながらジリジリとヴァージニアに迫って行った。
(あぁ…もうダメ…)
このままこのキリアンという男に全てを奪われてしまう…。再会を約束した彼の笑顔が浮かび、ヴァージニアは目をキュッと閉じた。

と、その時だった。
ドタドタと足音が聞こえたかと思うと、ドアを蹴散らさん勢いで、スキンヘッドの男が乱入してきた。
「き、キリアン様!こ、こ、こ、こ、国王陛下が、い、い、いらっしゃいました!」
いいところを邪魔しやがって…何事だと男を睨んだキリアンだが、『国王陛下』と聞き、顔色を変えた。
「陛下が?!何事だ?」
立ち上がったキリアンは、先程のにやけ顔はどこへやら、真剣な面持ちになると男に尋ねた。
「分かりません。ですが馬にてお一人で来られましたので、火急の件かと…」
隣国との国境を任されているだけあって、キリアンも部下も腕には覚えがある。もしや戦の兆しありかと鼻息荒く腕まくりしたキリアンは、もはやヴァージニアの存在を忘れてしまっているかのようだ。
「分かった。すぐに向か…」
キリアンが足早に部屋を出ようとした時だった。
「それには及ばんぞ、キリアン」
また別の男の声が聞こえ、キリアンは立ち止まった。そして彼とスキンヘッドの男は慌ててその場に跪いた。おそらく噂の国王陛下がいらっしゃったのだろうと気付いたヴァージニアも、ベッドから降りると床の上に跪き、頭を下げた。
「陛下!このような見苦しい場所ではなく、あちらで…」
火急の件で来られたのにまさか寝室で話をする訳にはいかないと、勢いよく立ち上がったキリアンは国王を引っ張って連れ出そうとした。
が、制した国王は部屋をぐるりと見渡した。
「お前の元に私の大切なものがあると聞き、駆け付けたのだ」
部屋を見渡した国王は、ベッドのそばで跪いているヴァージニアに目を留め、ゆっくりと近づいて行った。
(どこかで聞いたことのあるお声なんだけど…)
顔を伏せたままのため顔を見ることはできないが、その声にはどこか聞き覚えがあった。だが、国王に謁見したこともないし、そもそもスターク国へやって来たのは今日が初めてなのだ。
うんうんと頭を悩ませていると、ヴァージニアのそばで立ち止まった国王は、その場に腰を下ろした。
「ジニー…間に合ったようだな」
『ジニー』と呼ばれ顔を上げたヴァージニアは驚きのあまり声を失った。
身なりこそ立派だが、目の前にいたのは数週間前に1年後の再会を約束したあの男だったのだから…。
「あなたは…」
ポカンと口を開いたままのヴァージニアに、国王は悪戯めいた笑みを浮かべるとウインクした。
たっぷり30秒は止まっていたヴァージニアだが、我に返ると彼女は目を見開いて思いっきり叫んだ。

「えぇぇぇぇ!!!!!!!!嘘でしょ!!!!!!!!」

屋敷どころか街中に響き渡るような声に、庭を飛んでいた小鳥は気絶し、犬や猫は興奮し辺り一面大騒動となっていたが、そんなことは露知らず、ヴァージニアは腰を抜かしてしまった。
腰を抜かし口をパクパクしているヴァージニアに、国王はハハっと笑い声を上げたが、ヴァージニアの少し乱れた髪と服に目をやると、眉間に皺を寄せた。
「他の男のものになっておらぬだろうな?」
不機嫌そうに唸った国王に、背後にいた女性が声を掛けた。
「はい、陛下。ですが、危ういところでした。今日にでもヴァージニア様は、そこの男に…」
国王の後ろにいたのは、何とあのナターシャ・ロマノフだった。
驚きすぎて目元をごしごし擦っているヴァージニアにニヤッと笑った国王は、
「ロマノフは私の部下だ。お前に変な虫が付かぬよう、スパイさせていた」
と言うと、ヴァージニアを抱き上げた。
「さあ、ヴァージニア、我が城へ帰ろう…」

***
屋敷の玄関には立派な馬車が横付けされていた。
ヴァージニアを抱きかかえたまま馬車へと乗り込んだ国王は、ドアを閉めた男性に何やら囁くと、ヴァージニアを膝の上に乗せた。
馬車はすぐに動き始めた。ガタゴトと揺れる馬車の中で国王に硬く抱きしめられたヴァージニアは、真っ赤な顔をしている。
「陛下……その…」
偶然出会った男が実は一国の主で、しかも陰ながら護衛まで付けていてくれたのに、全くもって自分は気付いていなかったのだ。怒涛すぎる展開に付いていけていないヴァージニアは、何から聞いたらよいのかさっぱり分からなかった。
見るからに混乱しているヴァージニアを安心させるように、頬に口づけした国王は、そういえばまだ名前すら名乗っていなかったことにようやく気付いた。
「まだ名乗っていなかったな。私はアンソニー・エドワード・スターク。だが、その名は嫌いだ。だからトニーと呼んでくれ」

***
たまにはキリアンも信頼されている役にしてみました(笑)
辺境の地を任されているのは、過去にトニーの女に手を出したからですけどww

次から、鍵付きになりますw

⑤へ…

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