You’re our angel.⑥

養子縁組の話は着々と進んでおり、再来週にも手続きが完了すると告げられたのは、ジニーが8ヶ月を過ぎた頃だった。

「まー!」
ハイハイができるようになったジニーは、今日もペッパーの後ろを追いかけていた。
「ジニー、少し待ってて…」
青い顔をしたペッパーは口元を押さえると慌ててトイレへ向かったが、その場に座り込んだジニーは母親が相手をしてくれないと言うように頬を膨らませた。
「ジニー、どうしたんだ?」
そこへやって来たのはトニー。ラボから上がってくると、ジニーが膨れ面をして座っていたのだが、父親を見上げたジニーは不満を訴えるように腕を振り回した。
「だー!まー、うー、あーあー!」
ジニーが指差した方向と彼女を見比べたトニーは瞬時に状況を理解すると、ジニーを抱き上げた。
「ママか?ママはな、つわりで…って、言っても分からないよな」
鼻の頭を掻いたトニーが何と説明しようかと思案していると、ペッパーが戻って来た。
「大丈夫か?」
「えぇ…」
顔色の悪いペッパーの頬をそっと撫でたトニーは、そのまま彼女の腹部に手を当てた。その手を握りしめたペッパーは、トニーとジニーを見つめると笑みを浮かべた。
「大丈夫。この子がね、元気に育っている証拠だから…」

ペッパーの妊娠が分かったのは数週間前。
妊娠したと告げた時、トニーは見たことがないほど大喜び。ペッパーを抱きしめたトニーはその場でクルクル踊り出した。大喜びする父親と母親をポカンと見つめていたジニーだが、自分も輪に入ろうとトニーの足にしがみついた。
「ジニー!お姉ちゃんになるんだぞ!」
ジニーを抱き上げたトニーは彼女を高い高いすると、頬にキスをした。
「だー、あー?」
小首を傾げたジニーだが、きっと何か楽しいことがあるのだと感じた彼女は、小さな手を叩き始めた。口をいっぱいに開け興奮気味に手を叩き続けるジニーにキスをしながら、トニーとペッパーは願った。このまま幸せな日々が続きますように…と。

それから数日後。
日課となっているセントラルパークへ散歩へやって来た3人だが、木の生い茂った小道に差し掛かった所で、ベビーカーを押すトニーのシャツをペッパーが引っ張った。
「トニー…誰かが付けてきてる…」
眉を釣り上げたトニーは、立ち止まると囁くような声で告げた。
「J、確認しろ」
トニーのサングラスに周囲の景色が次々と映り、やがて木の陰に隠れている一人の女性の姿が映し出された。
『トニー様、例の女性でございます』
思わずはっと息を飲み込んだトニーは、ペッパーを見つめた。その表情で全てを悟ったペッパーの顔にも緊張が走ったが、何度か深呼吸するとゆっくりと頷いた。
件の女性の位置を確認したトニーは再びベビーカーを押し始めた。女性が木の陰から出て来た。そして距離を保ちながら後ろを歩き始めた。
急に声を掛けると逃げられるかもしれない…。そう考えたトニーはベビーカーを押す速度を少しずつ緩めていった。そして女性との距離が少し縮まったところで、急に立ち止まるとくるりと向きを変えた。急な展開に慌てた女性はその場に立ちすくんでしまったが、トニーたちに気付かれたと悟った彼女は慌てて逃げようとした。
「君!待ってくれ!」
堪らずトニーが声を掛けると、女性は立ち止まった。
「この子の本当の母親だろ?」
トニーの声に女性は小さく頷いた。
「私たち、あなたのこと、ずっと探してたのよ」
ペッパーの優しい声に女性はゆっくりと振り向いた。そこにいたのは、まだ20にもならないような少女だった。

⑦へ…

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