You’re our angel.⑤

「あらあら、ジニーちゃん。大きくなったわね!」
検診のため病院へジニーを連れて行ったペッパーは、顔馴染みの看護師に声を掛けられた。
7カ月になったジニーは生えかけの歯がムズムズするのか、ウサギのおもちゃを噛むと、看護師に向かってニッコリ笑った。
と、看護師が何かに気付いた。
「あ、また彼女だわ…」
眉を潜めた看護師に、ペッパーは首を傾げた。
「どうされたんです?」
「いえ、スタークさんがジニーちゃんを連れて来られる日に、必ず姿を見せる女性がいるんです。特に何をする訳でもないんですが…」
看護師の話しぶりからすると、同じくらいの子供を持つ母親という訳ではなさそうだ。だが、特に危害を加えてくる訳ではないし、後を付けてくるファン…主にはトニーのファンだが…は今までも大勢いたので、ペッパーは気にしないことにした。

病院からの帰り道、スタバでカプチーノとジニー用にベビチーノを頼んだペッパーは、ベビーカーを押し、近所のセントラルパークのプレイグラウンドへ向かった。
ジニーを預かって以来、週に何度か訪れるこの場所は、すっかり顔馴染みになった面々ばかりだった。
「あ!ジニーちゃんのママだ!」
駆け寄って来たのはキャプテン・アメリカのTシャツを着た男の子。
「ジニーちゃん、こんにちは」
ベビーカーの中のジニーの頭を撫でた少年は、ペッパーを見上げた。
「ジニーちゃんのパパは?」
都合がつけば同行するトニーは、子供たちの間で大人気だった。というのも、彼はヒーロー、アイアンマン。しかも時折スティーブたちを引っ張り出してくるのだから、子供たちはトニーが来るのを楽しみにしているのだ。
「今日はね、お仕事なの」
ジニーを抱き上げたペッパーは、ベンチに彼女を座らせるとベビチーノを飲ませ始めた。
「アイアンマン?」
「えぇ。そうよ」
今朝早く呼ばれたトニーは、ヨーロッパへ向かうと言っていたので、帰宅するのは明日になりそうだ。
目を輝かせた少年は、キラキラした瞳をペッパーに向けた。
「またおはなし、ききたいな!」
「分かったわ。パパに言っておくわね」
笑みを浮かべたペッパーに手を振った少年は、友達の元へと戻って行った。

ジニーを引き取る前も子供と接することはあった。それはチャリティーパーティーの場であったり、子供向けのイベントであったりと様々であったが、子供と接するということ自体がビジネスの一環だった。それ 故に、今のように自然と子供と接すること、そして同じく子供を持つ母親たちと接することの楽しさを知ったのは、ジニーのお陰だ。
「あなたのおかげね、ジニー」
ミルクでベトベトになった口の周りに拭くと、ジニーはだぁと嬉しそうに声を上げた。

ジニーを抱き上げベビーカーを押しながら、母親たちの輪の中へ入っていったペッパーは、すぐにおしゃべりに夢中になっていた。

しばらくして、ペッパーは誰かが自分とジニーをじっと見つめていることに気づいた。ファンかパパラッチかと思ったが人影はない。
(誰…)
先程病院で聞いた話を思い出したペッパーは、急に不安になり始めた。トニーに連絡しようにも彼は遠く離れたヨーロッパにいるのだからすぐに駆けつけることはできない。そこでハッピーに連絡したペッパーはジニーを守るように抱きしめた。

翌日、帰宅したトニーにペッパーは病院とそして公園での出来事を話した。
2人を付け狙う奴がいると知ったトニーは顔色を変えた。
「もし君たちを狙っているのなら、タワー周辺にも足を運んでいるかもしれない」
そう言うとトニーはジニーを自分とペッパーの間に座らせると、ポンと手を叩いた。
「J、ジニーを引き取ってから、タワー周辺に頻繁に現れ始めた女性がいないか確認してくれ」
『かしこまりました』
室内に青白いホログラムが次々と浮かび上がり、それに触れようとジニーが手を伸ばした。が、触れられるはずはなく、文句を言うようにジニーは声を上げた。
「ジニー、パパとジャーヴィスはお仕事をしてるのよ」
言い聞かせるようにペッパーが告げると、トニーとペッパーを交互に見つめたジニーは口を閉ざし、甘えるようにペッパーの膝の上で丸くなった。
「ジニーは賢いな」
小さな頭をそっと撫でると、起き上がったジニーはトニーの指を掴み、だぁだぁとお喋りし始めた。
『トニー様、該当する人物が2人おりました』
ジャーヴィスの声に顔を上げると、2枚の写真が現れた。
『該当する人物ですが2人います。1人目はトニー様と関係のある女性です。名前はアリシア・グラント』
1人の美しい女性の写真が浮かび上がった。だが、トニーはその女性に見覚えがなかった。
「誰だ?」
遊んでいた頃は、女性の名前も顔も覚えようとしていなかったが、最近は接する女性も昔ほど多くはないので、何となく覚えるようにはしているのだが、写真の女性には全く見当もつかなかった。
『15年前、トニー様と一夜を過ごされた女性でございます。』
ヒィっと叫びそうになったトニーだが、それより先に立ち上がったペッパーに首根っこを掴まれ苦しそうに咳き込んだ。
「どういうことなのよ!」
「ぺ、ペッパー…く、苦しい…」
目を三角に吊り上げたペッパーと、ジタバタもがくトニーの様子が面白かったのか、ジニーはケラケラ笑い声を上げた。
過去のこととはいえ、トニー様を窮地に陥れてしまったと感じたジャーヴィスは、慌てて言葉を続けた。
『ですが彼女は違います。以前より時折タワー付近に出没しておりますし、彼女はトニー様の写真を撮影し、それを自分のブログに掲載しております。最近頻繁に出没しているのは、トニー様がジニー様を連れて頻繁に外出されるようになったからだと思われます』
ジャーヴィスはモニターにそのブログを映し出した。ジャーヴィスの言う通り、ブログはアイアンマンとトニーの写真が山ほど掲載されている。トニーと共に写っているものは別として、ペッパーとジニー単独の写真は1枚も載っていないのだから、彼女は2人を付け狙う人物ではないだろう。
「そうなると、2人目の人物か?」
うーんと唸ったトニーにジャーヴィスは大量の写真を見せた。
『はい。彼女は週に何度もタワー付近に出没しています。病院の監視カメラと照合したところ、ペッパー様とジニー様の後を付けていた人物と一致しました。彼女の身元は不明です。ですが…こちらをご覧ください』
目の前に映し出された映像に、トニーとペッパーは釘付けになった。
大きな箱を抱えた女性は辺りを伺うようにタワーの正面玄関に下ろした。箱の中のものを愛おしそうに何度も撫でた女性はフードを被り表情こそ見えないが、泣いているようだった。
しばらく箱の中を覗き込んでいた女性だったが、慌てて立ち上がると走り去って行った。その数分後、出社してきた社員は箱の存在に気付き、箱の中から赤ん坊を抱き上げた…。
トニーとペッパーは顔を見合わせるとジニーを見た。
「トニー…彼女って…まさか…」
そのまさかだろう。つまり謎の人物はずっと探していたジニーの実の母親であり、何故かは分からないが、彼女は頻繁にジニーの様子を見にやって来ているということだ。
小さく震え出したペッパーの肩を抱き寄せたトニーは不穏な空気を感じたのか、目を潤ませたジニーを抱き上げると二人を腕の中に閉じ込め呟いた。
「なぁ、ジニー。一体何があったんだ?」

⑥へ…

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