You’re our angel.③

3週間後。
ジニーの身元について話があると、警察がソーシャルワーカーと共にトニーとペッパーの元にやって来た。

ジニーの両親は、彼女の出生届を出していないらしく、身元は未だに分からないというのだ。病院でも聴き込んだが、手掛かりは何もなかったらしい。
「引き続き捜査しますが…」
ため息をついた警官は残念そうにと首を振った。おそらく、捜査しても何も進展がなさそうなのだろう。
「じゃあ…この子はどうなるんですか?」
ジニーを抱きしめたペッパーの手は震えている。
「出生届は出して手続きは開始しました。身元不明という扱いですが…。ひとまず孤児院に入れて、養子縁組先を探す予定です」
ペッパーは胸が痛んだ。この子には何の罪もないのに、大人の都合で振り回されなければならないんて…。思わずトニーを見つめると、目を潤ませた彼は辛そうにジニーの小さな手を握りしめていた。と、トニーがペッパーを見つめた。まるで『君と同じことを考えている』と言うように…。
「彼女は連れて行きますね。スタークさん、ポッツさん、ありがとうございました」
ペッパーからジニーを受け取ったソーシャルワーカーだが、ペッパーの手から離れた途端、ジニーは火がついたように泣き始めた。ペッパーとそしてトニーに向かって腕を伸ばし泣く彼女の姿は、離れたくないと訴えているようで、ペッパーは立ち去ろうとしているソーシャルワーカーに向かって叫んだ。
「あ、あの!もう少しだけ…。手続きが済むまででもいいんです。私たちが預からせて頂いてもいいですか?」
この思わぬ提案に驚いたのはソーシャルワーカーだった。確かにこの子は二人に懐いている。それはきっと二人が愛情を掛けて面倒をみているから…。だが、二人が養子縁組しない限り、この子はいずれ二人の元を離れなければならない。そうなると、長くいればいるだけ、別れが辛くなるのは目に見えている…。
それでもこの子には幸せになって欲しかった。実の親も名前すらも分からない子供に、例え束の間でも幸せを味わって欲しかった。
「もしよろしければ、お願いします」
二人に向かった頭を下げたソーシャルワーカーは、子供をペッパーに渡した。
必死にすがり付いてきたジニーを、ペッパーは涙を流しながらギュッと抱きしめた。
「大丈夫…大丈夫よ…。私たちはあなたのそばにいるから…」
ペッパーとジニー、二人の姿を眺めていたトニーは、あることを決断した。それはジニーを預かってからずっと考えていたことだった…。

その夜のジニーは寝つきが悪かった。いつもならベビーベッドに寝かせるとすぐに眠ってしまうのに、今夜の彼女はウトウトとしかけても寝かせると泣き出してしまうのだ。が、トニーとペッパーのベッドに寝かせてみると、ジニーは安心したように眠りについた。
「一人になると私たちがいなくなると思ってるんじゃないか?」
ベッドに寝っ転がったトニーはジニーを挟んでペッパーに向かい合った。
「そうね…。また一人ぼっちになるって…。こんなに小さいのに…そんなことを考えないといけないなんて…」
ペッパーの目から零れ落ちた涙がジニーの手の上に落ちた。慌てて涙を拭ったペッパーの手を、腕を伸ばしたトニーは握りしめた。
「しかし、一体どんな事情があったんだろうな…。我が子を手放さなくてはならないなんて…」
何度か瞬きをしたトニーの目も潤んでおり、ペッパーも握った手に力を入れた。
「この子のご両親、本当は手放したくなかったはずよ…。この子が着ていた洋服も、よだれかけも、おもちゃも…全部手作りだったでしょ?それもね、凄く丁寧に作ってあったの。本当はそばにいて愛情を注いであげたい…って思ってたはず…。でも…きっとそれができない事情があったのよね…」
ふぅと息を吐いたペッパーは、今日一日考えていたことをトニーに話そうと口を開いた。
「ねぇ、トニー…。もし…もしもの話よ?あのね…」
『引き取って育ててもいい?』
その言葉を口に出していいものか、ペッパーは迷った。というのも、自分たちは夫婦ではないのだ。正式に籍を入れている訳でもないのに、トニーに親としての負担をかけていいものか分からなかったから…。
だが、トニーはペッパーの考えていることが分かっていた。それに彼も今日、離れたくないと泣き叫ぶジニーと彼女を抱きしめ涙を流すペッパーを見た時、決断していたのだ。
「きちんとした名前を決めないといけないな」
ペッパーの手の甲にキスをしたトニーは、安心しきって眠るジニーの頬を突いた。
「え……、トニー…」
トニーが言おうとしていること…それはペッパーが考えていることと同じだった。まさか彼がそこまで考えてくれているとは思っていなかったペッパーだが、トニーのその思いが嬉しくてたまらなかった。零れ落ちる涙を堪えるかのように唇を噛みしめたペッパーに、トニーは目をくるりと回して見せた。
「おいおい、ペッパー。ジニーと離れたくないのは君だけじゃないんだぞ。実はずっと考えてはいた。だが、今日、君たちの涙を見て決心がついた。私たちはこの子に必要とされていると…。この子を引き取ろう。私たちの養女にしよう。私が父親、君が母親だ。いいだろ?それから、ペッパー…もう一つ大事な話がある」
起き上がったトニーはベッドの上で正座すると姿勢を正した。そして慌てて同じように姿勢を正したペッパーの目をトニーは真っ直ぐ見つめた。
「結婚してくれ」
まさかこのタイミングでプロポーズされるとは思っていなかったのだろう。ペッパーは目を丸くするとポカンと口を開けたまま固まってしまった。
たっぷり30秒はそうしていただろうか。ようやく事の重大さに気付いたペッパーは、叫び声を上げそうになったが、ジニーが眠っていることを思い出すと、慌てて口を押えた。
「どうして今なのよ?!」
一生に一度のプロポーズなのだから、本当ならもっと気の利いたシチュエーションでして欲しかった。いや、それもあるが、ジニーを養女にする話のついでのような気もする。
ペッパーの少しだけ非難めいた声に、トニーは困ったように鼻の頭を掻いた。
「確かにタイミングは良くはないな…。だが…ジニーの件がなくても、近々プロポーズしようと思ってたんだ…」
ぼそぼそと呟いたトニーはポケットから小さな箱を取り出した。
「思い付きではない証拠だ。ずっと持ち歩いてた。いつか君に渡そうと思って…」
箱を開くと、そこにはいくつものダイアモンドが輝く指輪が入っていた。
指輪とトニーの顔を交互に見つめていたペッパーだが、顔をくしゃっと歪めたペッパーはトニーの腕の中に飛び込んだ。
「で、返事は?」
肩に顔を埋め、しくしく泣くばかりで一向に返事のないペッパーの顔を上げたトニーは、唇で涙を拭った。
「もちろん、YESよ!私、あなたと永遠にいたいから…」
「そりゃよかった。光栄だ」
ペッパーにキスをしたトニーは指輪を嵌めると、そのまま彼女を押し倒そうとしたが、ジニーが眠っていることを思い出すと、ペッパーを抱き上げバスルームへと向かった。

④へ…

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。