3.痛い

刺される…。

そう思ったペッパーだが、目を閉じた彼女の耳にトニーの声が聞こえた。
「ペッパー!!」
(トニー…ごめんね。もう、あなたのそばにいられないわ…)
と、目の前が暗くなった。刺されたのだと思ったが、いつまで経っても痛みは襲ってこない。
そっと目を開けると、トニーのネクタイが目の前で揺れていた。
「トニー?」
ペッパーはトニーに抱きしめられていた。彼の肩越しに見ると、先程の女が床に座りこみ、血塗れの両手を呆然と眺めていた。
自分は刺されていないのだ。それなのに女は手を血で染めている。つまり、それは…。
目を見開いたペッパーは、トニーを見つめた。脂汗をかいた彼の腕は小刻みに震えている。
「トニー…」
「だ…大丈夫か……」
と、トニーがペッパーに倒れ込んだ。力の抜けた彼の身体を慌てて支えると、左の腰にはナイフが刺さっており、ぬるりとした血が刺傷から流れ落ち、地面を朱色に染め始めた。
「トニー!い、いや…。しっかりして!」
ペッパーの涙が顔に降り注ぎ、トニーは彼女を安心させるように手を握り締めた。
「ペッパー…だ、だいじょ…っ…いたっ……」
激痛が下半身から襲いかかり、トニーは顔を顰めた。あまりの痛さに次第に意識は朦朧とし始めた。
(ペッパー…無事で良かった…)
泣き叫ぶペッパーの声を聞きながら、トニーは意識を手放した。

4.背中をさすさす

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