今日はエリオットの幼稚園の保護者参加のビーチパーティ。
いつもならこういう会には、トニーとペッパーは出来るだけ揃って参加するのだが、彼女は半年前に産まれたばかりの双子の世話で忙しく、今回はトニーだけが参加していた。が、今回はなぜか平日ということもあり、辺りを見渡しても父親は片手で数えられる程しかおらず、どちらかというと『ママ友の会』と化していていた。しかも、お色気ムンムンの水着を着た母親ばかり。というのも、今回トニーだけが参加するという噂は1ヶ月以上前から保護者の間を駆け巡っており、妻のペッパーがいないならチャンスだとばかりに、母親たちの張り切り様は尋常ではなかったのだ。
出掛ける寸前まで、エストが『ママがいなかったら、よそのおばちゃんがパパのこと狙ってくると思うわ!だから私が付いていく!』と目くじらを立てていたのだが、『エスト、パパを誰だと思ってる。トニー・スタークだぞ?女性の扱いには手馴れてるんだ』と笑って突っぱねたのだ。
が、そのトニー・スタークでさえ、この状況は制圧できそうになかった。
顔馴染みの父親たちの輪に入ろうとしたのに、気がつけば女性ばかりの大きな輪の中に放り込まれていた。
普段はペッパーがピッタリとそばに寄り添っているため、なかなか話す機会のないトニー・スタークがそばにいるという状況に、母親たちはきゃあきゃあと喋りまくっているが、トニーは適当にあしらいながら目の前の料理を食べることにした。が、料理に手を伸ばそうとすると、『私が食べさせてあげます!』と、奪われてしまうのだ。
「子供じゃない。1人で食べられる」
と断っても、彼女たちの猛プッシュは収まるどころかますます盛り上がっている。
(エリはどこへ行ったんだ?)
頼みの綱の息子を探すが、彼は友達と楽しそうに追いかけっこをして遊んでいるではないか。
(こんなことなら、エストに付いてきてもらえばよかった…)
はぁ…とため息をついたトニーは、何とか奪い取った肉にかぶりついた。
1時間も経つと、保護者サイドは酒も入り大盛り上がり。トニーは一滴も飲んでいなかったが、酔った勢いに任せて…と思ったのだろうか、ペッパーより数段胸の大きい女性が、あろうことか半分顕になっている胸を顔に押し付けてきた。
「お、おい!」
慌てて押しのけようとしたが、周囲の他の女性達は援軍とばかりにトニーの身体を押さえつけた。
(何だ、この連携プレーは!!)
アーマーを呼び寄せようかと一瞬考えたトニーだったが、ようやく彼にも可愛らしい助っ人がやって来た。
「サムくんのママ。パパはね、ママのおっぱいにチューするのがすきなの。それに、パパ、おそわれてこまってるんだよ。やめてっていってるのに、サムくんのママがやめないから。いやだっていってるのにやめないのは、サイテーなおとなだよ」
やたらと冷静な声の持ち主はエリオットだった。
アイアンマンの水着を着た彼は、まるで母親であるペッパーのように腰に手を当て、父親に襲いかかっている女性達を冷めた視線で見つめているではないか。
子供に言われたら止めざるを得ないと思ったのだろうか。トニーの周りを取り囲んでいた女性達はさっと身を引き、トニーにのしかかっていた『サムくんのママ』も素早く立ち上がると、くねくねとしなを作り始めた。
「あら~!やだわ!別にエリオットくんのパパを襲ってたわけじゃぁ……」
母親に告口されたら大変だと思ったのか、エリオットのご機嫌をとろうと、白けた目で見つめている彼に近づいた女性だが…。
「痛~い!!」
どうやらエリオットが向う脛を蹴飛ばしたらしい。
文句を言いたいが、そもそもの原因を作ったのは自分だ。何も言うことが出来ず足を押さえたまま女性はその場を後にした。
べーっと舌を出したエリオットは、ふぅと大げさにため息を付いた。そして、クルリとトニーの方を向くと、甘えたように腕を伸ばした。
「パパ、おなかすいた」
ようやく周囲から女性の気配が消えたことを確認すると、トニーは息子を抱き上げた。
「パパも腹ペコだ。ろくに何も食べられなかった」
他の父親たちは楽しくバーベキューで盛り上がっていたのに、どうして自分はいつもこういう役割なのだろうか…。
ぐーっと腹の虫が盛大な音を立て、トニーはお腹を押さえた。
「そうだ。エリはパパのことを助けてくれたヒーローだ。だからハンバーガーでも食べに行くか?」
ハンバーガーと聞いて、エリオットは目を輝かせた。そして父親を助けたヒーローになれたことに対する喜びを隠しきれない彼は、手足をばたつかせると、今朝姉と交わした約束を父親にも教えることにした。
「ねーねがね、サムくんのママたちがパパをおそうから、まもってあげてねって。だからね、ぼく、パパをまもったんだよ!」
「そ、そうか…」
子供たちにまでこの展開は見透かされていたということなのか…と、トニーは引きつった笑いを浮かべた。が、それに気づいていないエリオットは、先程から疑問に思っていたことを口に出した。
「ねぇ、パパ。サムくんのママ、どうしてパパにおっぱいみせてたの?」
「そ、それはだな……」
何と答えたらいいのだろう…。幼い息子に真実を教えるには早すぎるだろうし、下手に誤魔化しても後でペッパーに雷を落とされるのは目に見えている。
こういう時は、知らぬふりをするのが一番だろう。
「パパも知らん…」
ボソッと呟いた父親は、いつもの饒舌な父親ではない。きっと空腹なのに加え、母親がそばにいないからだろうと考えたエリオットは、トニーの頬をペチペチと叩くと、可愛らしい笑みを浮かべた。
「おうちにかえったら、ママにおっぱいみせてもらってね、パパ!」
「……」
そもそもなぜ息子は、自分がペッパーの胸が好きなことを知っているのだろうか…。夜中にペッパーの胸に顔を埋めて喜んでいる姿を盗み見でもしたのだろうか…。
だが、そんなことを聞ける訳もなく、楽しそうに話し始めた息子を抱き直すと、トニーはその場を後にした。