それから2日後。
トニーは意識を回復した。
「じにー………」
目覚めて開口一番、ヴァージニアを見つめたトニーは嬉しそうに目を細めた。
「よかった…」
トニーの手を頬に当てたヴァージニアは笑みを浮かべたのだが、次第にその目には涙が溜まり始めた。
「怖かった……あなたが死んじゃうと思うと…。私のそばからいなくなっちゃうと思うと…」
ポロポロと大粒の涙がヴァージニアの頬を伝わり、トニーの手を濡らしていく。まだボンヤリしている頭を覚醒させようと瞬きしたトニーは、指で涙を拭った。
「ジニー…俺は…死なない…。君のそばにいると…約束したろ?」
うんうんと頷いたジニーは、涙でベトベトになった顔を拭った。そして事件の顛末を知らせようと、椅子に座り直した。
「キリアン、捕まったわ。あなたに殺意があったことも認めてる」
キリアンが捕まったと聞き安心したのだろう。ふぅと息を吐き出したトニーは、
「そうか…」
とポツリと呟いた。
「学生の時から人気者だったあなたが疎ましかったんですって。いつかあなたを見返してやるってずっと思ってたみたい。あなたが私の秘書をしているのは知らなかったそうよ。それが偶然にもあなたと再会した…」
トニーの手を握り直したヴァージニアは、僅かに声を震わせた。
「彼は元々うちの会社を乗っ取ろうと機会を伺ってたの。だから…パパとママを事故に見せかけて…。そして私を手に入れようと、私に近づいた…」
瞬きしたヴァージニアの目にじわっと涙が浮かんだ。
「でも、私のそばにはあなたがいた。あいつの大嫌いなあなたがね。私と結婚するにはあなたは邪魔な存在だった。だからあなたを殺そうとしたそうよ」
「ジニー…」
泣きたいのを必死に我慢しているのだろう。小さく震えるヴァージニアの手をトニーはゆっくりと撫でた。
「パパとママにしたことも、私にしたことも許せない。でも、一番許せないのは、あなたにしたこと…。あなたの命を奪おうとしたこと…。あなたを私から奪おうとしたこと…」
ヴァージニアはトニーを見つめた。
彼が目の前からいなくなるなんて耐えきれない。あの恐怖はもう二度と味わいたくない…。トニーが眠っている間、考えた。自分たちの将来について真剣に…。
「あなたは私にとって掛け替えのない人。あなたのいない人生なんて考えられないって…。だからね、私…考えたの」
すぅと深呼吸したヴァージニアは、トニーの目をじっと見つめた。
「トニー、私と結婚して下さい」
目覚めたばかりなのにいきなりプロポーズ…しかも自分がいつかしようと思っていたのに彼女からされ、トニーは目を白黒させている。
「…これは夢だろ?ジニー、つねってくれ」
ポカンと口を開けたままのトニーに、ヴァージニアはくすくす笑い出した。
「違うわ。夢じゃなくて現実よ」
頬にそっと触れたヴァージニアは、ちゅっと音を立ててキスをした。
「ね?夢じゃないでしょ?」
頬に触れた唇の感触はリアルで、トニーはようやく現実だと受け入れることができた。だが、彼女は身分違いの恋であることが分かっているのだろうか…。
「俺で…いいのか?俺は…ただ秘書だぞ?」
それこそが、彼がヴァージニアとの関係を築いていく上で、ずっと心に引っかかっていたこと。トニーの瞳に隠し切れない不安を見出したヴァージニアは、首を大きく横に振った。
「そんなこと関係ないわ。あなたはあなた。トニー・スタークよ?あなたは私のことを誰よりも理解してくれてる、たった一人の人。私のことを誰よりも愛してくれている人…。だからね、私はあなたがいいの。あなた以外の人とこの先を共にしたくないわ」
その言葉に、トニーの顔にはみるみるうちにみるみるうちに笑みが浮かんだ。
「ありがとう、ジニー」
そう告げた彼は腕を伸ばし彼女を抱きしめようとしたが、腹の傷が痛み顔を顰めた。
「トニーったら、動いたらダメよ」
とは言っても、彼女もトニーを抱きしめたくて仕方がなかった。そこで靴を脱いだヴァージニアはトニーの隣に横になった。彼女の肩を抱き寄せたトニーは、最愛の女性の髪に顔を埋めた。1週間ぶりに触れる彼女の温もりにトニーはようやく心から安心することが出来た。
「君と早く…セックスしたい…」
心の声を思わず口に出してしまったようで、ヴァージニアがケラケラ笑い出した。
「元気になったらね」
首を伸ばしたヴァージニアはトニーの唇にキスを落とすと、幸せそうに彼に抱き付いた。
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