手術室から医師が出てきたのに気づいたハッピーは、ヴァージニアの肩に触れた。
「ポッツ様…」
祈るよう項垂れていたヴァージニアが顔を上げると、トニーの状態を説明するため、医師は2人を別室へと案内した。
「幸いにも急所は外れていましたが…。刺されてから1時間は経過していたようで、大量に血液を失っています。覚悟はして下さい」
医師の言葉に、ヴァージニアは目を瞬かせた。
「覚悟って……トニーは…死ぬの?」
擦れた声で囁いたヴァージニアに、医師は頭を下げた。
「全力を尽くします」
パタンとドアが閉まり医師が部屋から出ていくと、ヴァージニアはポツリと呟いた。
「ハッピー……トニーは…いなくなっちゃうの?」
「ポッツ様…」
悲痛な声に、ハッピーは何と言ってもいいか分からなかった。答えのないハッピーを振り返ったヴァージニアは、必死に涙を我慢していたようだが、限界だった。
「嫌……嫌よ!絶対に嫌!!そんなの許さないんだから!!」
ハッピーに抱きついたヴァージニアは、子供のように声を上げて泣き始めた。こんなにも感情を露にする彼女を見るのは初めてだった。
わんわん泣き続けるヴァージニアの背中をハッピーはそっと撫でた。
「ヴァージニア様、大丈夫です。きっとトニーは、元気になって戻ってきますから…」
気がつけばヴァージニアは、ICUに運ばれたトニーの枕元に座っていた。
「トニー…」
彼を生かすための機械的な音だけが静かな空間に鳴り響いている。点滴の付いていない方の手をそっと握りしめたが、指先は冷たく力のないその手に、ヴァージニアの目には涙が浮かび始めた。
昔大好きだったおとぎ話では、お姫様は王子様のキスで目覚めていた。もしかしたらキスをすれば彼も目覚めてくれるかしらと考えたヴァージニアは、口元に入れられたチューブを避けるようにトニーにキスをした。だが、彼の目は閉じたままだ。
「トニー……お願い…。私を…1人にしないで…。私には…あなたしかいないの…。愛してるの…」
トニーの手を握りしめたままペタンとシーツに顔をつけたヴァージニアは、祈るように目を閉じた。
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