大勢がバタバタと走り回る足音にペッパーは目を覚ました。
「どうしたんですか…?」
身体を起こしたペッパーをナースは立たせると、
「すみませんが、外でお待ちください」
と、部屋の外へ押し出そうとした。
「待って!トニーに何かあったんですか?」
口ごもるナースの肩越しに部屋を覗き込むと、トニーの身体につけられたモニターからは、けたたましい警告音が鳴り響いているではないか。
「血圧低下!早くしろ!」
数人の医師が慌ただしくナースに指示を出し、必死にトニーに処置を施している。
嘘よね…トニー…。
さっきキスしてくれたじゃないの…。
抱きしめてくれたじゃないの…。
嫌よ…お別れだなんて言わないで…。
泣きじゃくるペッパーをそばにいたナースはそっと抱きしめた。
医師たちの懸命な処置にも関わらず、トニーの命は尽きようとしていた。
入り口にもたれかかるようにして見守っていたペッパーだが、ふと背後に気配を感じ振り返った。
トニー?
今、トニーに抱きしめられた?
目の前のトニーは血の気のない顔をし、相変わらずモニターからは警告音が鳴り響いている。
トニーはまだこの部屋にいる…。だって、まだ感じるもの…彼の温もりを…。今ならまだ…間に合うかも…。
医師やナースたちの間をノロノロと歩きトニーの元へと向かったペッパーは、冷たくなり始めたトニーの顔に触れ、話しかけ始めた。
「何がさよならよ…。何がずっとそばにいるよ…。そばにいるなら最後までいてよ…。こんな別れ方…私は嫌!私のこと…あなたのお嫁さんにしてくれるんでしょ?…ねぇ?聞いてるの?!トニー!!!」
ペッパーはトニーに縋り付くと、胸元を叩き始めた。
「ミス・ポッツ…」
「ねぇ!トニーったら!お願い…返事してよ…!私のこと置いて逝かないでよ…。まだまだたくさんの思い出作りたいの。あなたの記憶が戻ったら…ううん…戻らなくても…一緒にやりたいことたくさんあるのよ!」
「ミス・ポッツ…スタークさんは…もう…」
見るに見兼ねた医師がペッパーをトニーから引き離した。身をよじるようペッパーは医師の腕の中から抜け出すと、再びトニーの身体を抱きしめた。
「イヤ…イヤよ!嘘よ!嘘に決まってる!あなたが私を置いて遠くに行くはずないもの!トニー!あなたが私を置いていくなら…言ったでしょ?私があなたのところに行くって!それがイヤなら…早く戻って来なさい!まだこの部屋にいるんでしょ?」
ペッパーは部屋の中を見回し、まるでその場にいるトニーにも聞こえるようにと叫ぶように言った。
だが、不思議なことに先ほどまで背後に感じられていた気配は消えていた。
遅かったの…?もうトニーは…ここにいないの?
それでもペッパーは諦めることができなかった。
「私は本気よ…アンソニー…。だって…あなたなしじゃ…生きられないもの…」
おとぎ話を信じるわけではない。でも…もしも奇跡が起こるなら…お願い…私たちの上に舞い降りて…。
トニーの頬を優しく撫でると、ペッパーは酸素のチューブが入れられ少し開いたトニーの唇にそっとキスを落とした。
すると…
今まで直線を示していたモニターから、再びピッというリズミカルな音が聞こえ始めた。
「?!」
ペッパーの後ろに立っていた医師が慌ててトニーの状態を確認し始めた。
「奇跡だ!ミス・ポッツ!スタークさんが…」
「ありがとうございます…」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠すように、ペッパーはその場にいた者全員に頭を下げ続けた。
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