数日後、酔っぱらい帰宅したヴァージニアを迎えたトニーだが、彼女は顔を合わすなりトニーに抱きついてきた。
「ミス・ポッツ。どうされたんです?」
胸元に顔を埋めたヴァージニアは、くぐもった声を出した。
「ジニーって呼んで」
先日は思わずその名を口に出してしまったが、あの頃と自分たちの立場は違うのだ。
「ですがあなた様は私の上司ですので…」
一体どうしたのだろうと困惑するトニーを他所に、顔を上げたヴァージニアは彼のネクタイを掴んだ。そして戸惑うトニーをじっと見つめたヴァージニアは背伸びすると彼の唇を奪った。
突然キスされ面食らったトニーだが、彼女の唇は甘く柔らかく、トニーは一瞬で心を奪われてしまった。
(あぁ…俺はこれを長年欲していたんだ…)
心と身体は彼女を欲してやまない。だが、彼女はあくまでも自分の上司なのだ。理性をフル動員して彼女を離したトニーは、再びキスをしようとしてくるヴァージニアを遮った。
トニーに拒否されヴァージニアは傷ついた顔をしたが、彼女は諦めなかった。
「トニー…お願い。抱いて…」
彼女には、彼は自分のことを愛してくれているという妙な確信があったため、いつも男性相手にするように、ヴァージニアは甘えたように身体を摺り寄せた。
「少々お酒が過ぎたようですね…。ミス・ポッツ、今日は早くお休みに…」
が、いつものお色気作戦も、トニーには効果がなかったようだ。そこでヴァージニアは、単刀直入に告げることにした。
「トニー、お願い。セックスしましょ?」
トニーの目に再び迷いが生じた。もう一押しだと感じたヴァージニアは、彼の目をまっすぐに見据えた。
「あなた、私の事が好きでしょ?」
「…」
まるで感情を悟られないように、黙ったままトニーは視線を伏せた。
相手は手強い。今までのどの男性よりも手強い。きっと彼は15年間、仮面を被り続けて生きてきたのだから…。
だが、手強い相手との交渉なら手馴れていると、ヴァージニアはゴクリと唾を飲み込んだ。
「私はあなたが好き。愛してる。だから、利害一致してるわ。正当な理由になるでしょ?」
交渉だと思うと、どうも上から目線の物言いになってしまう。が、彼女の必死さにとうとうトニーは根負けしてしまった。
「…それはご命令ですか?」
上目遣いに目を瞬かせたトニーは、10歳以上も年上なのに可愛らしく見え、ヴァージニアは思わず笑みをこぼした。
「命令だと言ったら、私とセックスしてくれるの?」
もごもごと口ごもったトニーは、再び視線を伏せた。
「ご命令とあらば…」
『上司の命令で関係を持った』というのは、フェアではない。自分たちはビジネスライクな関係ではない…いや、絶対にそういう関係にはしたくないのだから…。おそらくトニーが乗る気でないのは、自分たちが『社長と秘書』という関係だからだろう。それならば、彼の前では一人の女性になろうとヴァージニアは決意した。
トニーの頬にそっと手を当てたヴァージニアは、彼の瞳を覗き込んだ。
「無理強いはしたくない。あなたは今までのビジネス上だけの人とは違うもの。私、本当にあなたとセックスしたいの。あなたに抱かれたいの。1人のオンナとして…。お願い、トニー。私のこと、好きなら…私のこと、受け止めて…」
それはヴァージニアの初めて見せた本心だった。
目の前にいるのは、CEOのヴァージニア・ポッツではなく、22才の等身大のヴァージニアだった。
彼女は自分の全てを包み隠さず見せようとしている。今まで勇気がなくて隠していたが、自分もトニー・スタークという一人の男になる時がきたのかもしれない。
しばらくして、トニーは顔を上げた。先ほどまでの困惑した表情は形を潜め、どこか吹っ切れたような顔をしている。
「私のこと、好き?」
ヴァージニアが再びそう聞くと、トニーは彼女の瞳をじっと捉えてはっきりと告げた。
「ずっと好きでした。いや…ジニー…」
ふぅと大きく息を吐いたトニーは、ヴァージニアを腕の中に閉じ込めた。
「俺は君のことを愛してる…。もう何年も君のことを…」
それは2人の思いがようやく通じた瞬間だった。社長と秘書ではなく、32歳と22歳のただの男と女として、2人の恋が叶った瞬間だった。
「よかった。私と一緒ね。私もあなたのこと、愛してるもの…。本当はずっとそうだったのに、最近まで気づかなかったけど… 」
クスクス笑い始めたヴァージニアは、こみ上げてくる嬉しさを抑えきれないのか、トニーの首筋にキスをし始めた。
「トニー…愛してるわ… 」
と、トニーがヴァージニアを抱き上げた。そして顔中にキスをしながら、トニーは寝室へと向かった。
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ペッパーのセリフが若干東ラブ風なのは気にしないでくださいww ←年がバレるw