On Your Side Forever③

翌日は日曜日で休日だったが、ヴァージニアはトニーを呼び出した。
何事かとやって来た彼は、いつものスーツ姿とは違い、Tシャツにジーンズというラフな格好をしていた。

「ねぇ、トニー。今日はお休みだから、仕事の話は抜きね」
そう言いながらトニーをソファーに座らせたのだが、彼は眉間にシワを寄せた。
「火急の用事と聞きましたが?」
せっかくの休日を潰され怒っているのだろうか…。
いつになく不機嫌なトニーのご機嫌を取るように、ヴァージニアは彼の腕に自分の腕を絡ませた。
「大切な用事よ。昨日ね考えたの。私、あなたのことを詳しく知らないわ。だから今日はお互いの話をしましょ?」
急にどうしたのだろうと思ったトニーだが、休日といっても特に予定もないのだから、たまにはいいかと思い直した。
「私の話など、つまらないです」
首を振ったトニーにヴァージニアはようやく乗る気になってくれたと顔を輝かせた。
「ううん。あなたのこと、もっと知りたいの。まずは…趣味は?」
「趣味ですか?機械弄りです。こちらの警備システムも私が開発しました」
「そうなの?すごい…。じゃあ、次は…」

ヴァージニアは様々なことを尋ねた。
好きな食べ物、好きな色、好きな音楽にお酒…。些細なことだが、ヴァージニアはトニーについて何も知らなかったのだ。

夕方になってもヴァージニアの質問攻めは続いていた。そろそろ質問ネタも尽きてきた頃だろうと思ったトニーだが、ヴァージニアは一番尋ねたかった質問をぶつけてきた。
「恋人はいるの?」
と、トニーが視線を伏せた。まるで彼女の視線から逃げるように…。
「恋人はいません。ミス・ポッツのお世話だけで精いっぱいです」
何故か視線を合わせないトニーにヴァージニアは首を傾げたが、トニーは自分の気持ちを悟られないよう必死だった。

本当は彼女のことが好きだ。15年前、当時7歳の彼女と会った時から、彼女は自分の心を捉えてしまった。それでも当時はまだ、幼い彼女は妹のような存在だった。それが一人の女性として見るようになったのは、5年前。当時大学生だった彼女が久しぶりに帰省した。そしてすっかり大人の女性へと変貌していた彼女に一瞬で心を奪われた。
だが、この恋心は決して叶うことのないもの。彼女は自分の上司なのだ。それゆえに、決して口に出してはならない気持ち…。
それでもトニーも男だ。欲を発散させるためにたまに抱く女は数人いる。だが、彼女たちは決して彼の心を満たしてはくれなかった。

黙ってしまったトニーに、ヴァージニアは何か言いたくない事情があるのだろうと、慌てて話題を変えた。
「トニーはどうしてずっとパパの秘書をしてたの?それに、どうして私の秘書も快く引き受けてくれたの?」
昨晩、キリアンから聞いた話では、トニーは秘書に収まっているような器ではないはずだ。それなのに、彼は15年にも渡り秘書を続けている。独立しようと思えば機会はいくらでもあったはずなのに…。じっと見つめてくるヴァージニアの視線を感じながら、トニーはこの15年間のことを思い返した。

トニーにも昔は野心があった。いつかスターク・インダストリーズを再興するという野心が…。父親が開発した製品がポッツ・インダストリーズの名の元、世に送り出されていくのを見るのは辛かった。だから先代の社長に重役にならないかと言われた時、断った。ライバル会社のポッツ・インダストリーズで出世はしたくないと。いつの日か、自分で会社を起こし、皆を見返してやるとずっと思っていた。
だが、トニーはそうしなかった。機会ならいくらでもあったが、出来なかった。それは彼女がいるから…。兄のように慕ってくれている彼女を守らなければならないという使命感がトニーを繋ぎ止めていたのだ。それに、約束があった。先代である彼女の父親との約束が…。
5年前、彼女が大学に入った年、彼女の父親は言った。
『私たちに何かあった時のために君に伝えておく。トニー、ヴァージニアのことを頼む。君になら安心して娘を任せられる。君になら我が社を任せられる。娘を支えてやってくれ。そしていつの日か、スターク・インダストリーズを再興してくれ』
彼は自分の小さな野心と、そしてヴァージニアへの想いに気づいていたのだ。それでも彼は、自分にビジネスや会社運営のノウハウなど、全てを教えてくれたのだ。私生活でも家族のように自分を可愛がってくれたのだ。その時、トニーは誓った。何があっても彼女を支えていくと。それが実の息子のように可愛がってくれたポッツ夫妻への恩返しになるはずだから…と。

「先代との約束があるからです」
静かにそう告げたトニーの瞳は真っ直ぐで嘘偽りなど一つもなかった。
「そう…」
自分のために残ってくれていると思っていたヴァージニアは、父親との約束と聞き、少々拍子抜けしてしまった。
どうしてこうもトニーのことが気になるのだろう…。その感情の正体を突き止めるべく、今日彼と話をしたのだが、結局突き止めることは出来なかった。

④へ…

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