152. Coin

なぜここにいるのだろう。
真実を求めこの地にやって来たが、答えはいまだ見つからない。
自分の正体も…いや、名前すらも分からない男は、雪の振る寒空の下、身を縮こまらせた。
いつもの橋の下に向かったが、今日は一段と冷えるためか人であふれかえっていた。それでも何とか隙間を見つけた男は、杖を突きながら向かったのだが、先を越されてしまった。
結局居場所を見つけることができず、片足のない男は再び街を歩き始めた。

男が身を落ち着けたのは、それから小一時間程経った頃だった。
崩れかかった廃墟に自分と同じ境遇の者が大勢集まっていたのだ。顔見知り同士なのだろう。わいわいと暖を取る一団から少し離れた場所に座った男は、拾い集めた新聞紙を冷え切った身体にかけると目を閉じた。

「寒いでしょ?こちらをどうぞ」
優しい声に顔を上げると、一人の美しい女性が目の前にいた。立派な身なりをしたその女性は、美しい赤毛を持っており、夢の中で自分を呼び続けるあの女性を彷彿させた。
男の身体に毛布を掛けた女性は、鞄の中から小さな袋を取り出した。
「少しなんですけど、こちらも…」
そういって差し出されたのは何枚かの硬貨だった。
こういう時は素直に礼を言うべきなのだろうが、男は黙って女性を見つめた。
視線が合った瞬間、女性は一瞬息を飲んだ。
髪と髭は伸び放題、垢と埃で汚れた顔は真っ黒な男を見つめていた女性だが、小さく首を振ると悲しそうに微笑んだ。
「ごめんなさい…。あなたの瞳…私の愛する方と同じだったから…。でも、あの方はもう…」
小さな涙が女性の目から零れ落ちた。慌てて涙を拭った女性は、足早にその場を後にした。

「スターク家のご息女だよ。名前は確かヴァージニア様」
「優しい方だ。時々こうやって様子を見に回られているんだ」
「だが、スターク家も大変だったよな。跡取りのトニー様が突然亡くなられて…」
女性が立ち去った後、周囲は一斉に彼女の話題を口に出した。
話を聞いていると、先程の女性は大変苦労をしてきたらしい。それなのに、彼女はそんな苦労を微塵も見せずまるで聖母のように微笑んでいた。
そしてもう一つ…。
どうしてか分からない。だが、彼女の瞳を見た瞬間、男は何か大切なことを思い出しかけていた。
だが、結局思い出せるはずもなく、先程手渡された硬貨を懐に収めた男は、毛布に包まると再び目を閉じた。

***
「禁じられた関係」のトニペパ

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