Everything’s Not Lost③

1週間後、ペッパーはトニーを連れて二人でよく散歩したビーチへ向かった。
頭に巻かれた包帯を隠すように深めに帽子をかぶったトニーは、ペッパーとしっかりと手を握り合い、ビーチサイドの遊歩道を歩いていた。

あの日以来、二人は決めていた。
例えトニーの記憶が戻らなくてもお互い支えあって生きていくと。
また一から思い出を作ろうと。
二人ともお互いはなくてはならない存在。何があっても受け入れ支えあっていこうと…。
そしてあの夜から、二人はお互いの温もりに包まれて眠るようになった。

オシャレなショップの並ぶ通りをブラブラと歩く二人。
ペッパーは二人でよく訪れていた店に入っては、トニーに思い出を語った。

マリブの青い海を照らす太陽が二人の真上に登った頃、とある店の看板を見たペッパーが目を輝かせた。
「あなた、あそこのチーズバーガーが好きなのよ?」
「へぇ、そうなんだ。じゃぁ、買ってくるから待っててくれ」
「ううん、私が行ってくるから。ここで待っててね」
トニーを木陰に置かれたベンチに座らせると、ペッパーはおでこにキスをおとし店へと向かった。
そんなペッパーの後姿を見つめながら、トニーは小さく息を吐いた。
困ったな…またあの頭痛が…。
出歩くのも久しぶりだから疲れたのかもしれない…。
そろそろ戻った方がよさそうだ…。
次第に酷くなる頭痛に眉間に皺を寄せこめかみを押さえていたトニーだが、目の前に誰かが立っているのに気づいた。

顔を上げたトニーの目にフードを被った男の姿が入った。男は憎悪に満ちた目でトニーを見つめると、憎々しげに叫んだ。
「おい、アイアンマン!トニー・スターク!探したぞ!」
「申し訳ないが…君は誰だ?」
トニーはゆっくりと立ち上がると、男をジッと見つめた。そのトニーの態度に苛立ちを隠せないその男は、懐から拳銃を取り出し叫んだ。
「忘れたとは言わせないぞ!1か月前、お前にやられたのは、俺の兄貴だ!お前のせいで、俺たちは…」
銃を向けた男は戸惑うトニーに向けて発砲した。

バーン!!

撃たれた?
左胸に衝撃を感じたトニーは、微かに痛む部位に手を当てた。
押さえた掌から真っ赤な鮮血が零れ落ちる。呼吸をしようとすると胸が焼けるように痛み、トニーは地面に膝をついた。
「そのままじゃ苦しいだろ?楽にしてやるよ」
苦しそうに息をするトニーを見ると、銃を構えた男はジリジリとにじり寄った。

そこへ…
「トニー!!」
左胸を押さえうずくまるトニーの元へ、ハンバーガーを買い戻って来たペッパーが駆け寄った。
「トニー!しっかりして!」
銃創からは壊れた蛇口のように血が溢れ、トニーの身体を朱色に染めていった。
「何するの!トニーを傷つけるなんて!」
動けないトニーの前にペッパーが立ちはだかったが、そんなペッパーを一瞥すると男は銃口をペッパー向けた。
「どけよ!それとも…そんなにその男が好きなら、二人まとめて殺してやる!」

ペッパーの顔が恐怖で歪んだのを見た男はニヤリと笑うと、引き金に指を掛けた。

ペッパーが…世界で一番大切なペッパーが…。そうだ。あの日…プロポーズした日に誓ったじゃないか…。命をかけて彼女を守ると…。
命を奪われるのは私だけで十分だ…。

「ペッパー!!」
銃口が火を吹いた瞬間、トニーは立ち上がりペッパーの腕を掴み抱きしめると、自分の身で守るように屈んだ。

一発の乾いた銃声が静かなビーチに響き渡った。

「銃を捨てろ!」
騒ぎを聞き駆けつけた警官が男を取り囲んだが、男は止めを刺そうと銃口を倒れているトニーとペッパーに向けた。
「止まらないと撃つぞ!」

ダメ!このままじゃ…トニーに抱きしめられたペッパーは目をギュッと瞑ったその時、また新たな銃声が響き渡った。

何も起こらない…。
ペッパーが恐る恐る目を開け、トニーの肩越しに男のいた方向を見ると、撃ち抜かれた掌を押さえうずくまる男を数人の警官が取り押さえているではないか。

私たち、助かったの?
「トニー?」
自分の上に覆いかぶさっているトニーは、ペッパーの呼びかけにも微動だにしない。

「大丈夫ですか!」
駆け寄って来た警官の一人がトニーの身体を動かし、ペッパーは起き上がった。
トニーを地面に横たわらせた警官は首元に指を当てたが、真っ青になって叫んだ。
「おい!早く!救急車を呼べ!!」
「トニー?」
そろそろとトニーに近寄ったペッパーは、気がついた。トニーの胸元が動いていないことに…。
銃弾はトニーの側頭部をかすめており、頭に巻かれていた包帯は血で染まっていた。
そして撃たれた胸からは血が流れ続け、地面はトニーの血で真っ赤になっている。
「トニー!トニー…お願い…一人にしないで…」
身体に縋り付き、ただひたすら名前を呼び続けるペッパーを周りの人々はただ見守るしかなかった…。

4へ…

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。