147. Refuse

今日は2人の『両思いになった』記念日。仕事でLAに滞在していたペッパーだが、先日のウルトロンの一件もあったことから、一緒に過ごしたいと予定を繰り上げトニーのいるNYへ帰ってきたのだ。
いつも驚かされてばかりだから、たまにはいいかしら…と、敢えて連絡をしていないのだが、そうはいっても、もしかしたら不在かもしれないと、エレベーターへ乗り込むや否や、ペッパーはA.I.に尋ねた。
「F.R.I.D.A.Y.、トニーはいる?」
彼が後任のA.I.をなぜ女性にしたのか分からない。もしかしたら前任者との思い出が強すぎて、別性にしたのかもしれない。
『はい、ボスはリビングにいらっしゃいます』
このA.I.がペッパーはどうも苦手だ。女性ということもあるだろうが、話し方がトニーと出会った頃の自分に似ているのだ。聞けば元々”P.E.P.P.E.R.”と名付けようと思っていたらしいが、数年前の『使用料払って』と言う言葉を思い出し、思いとどめたとか。トニーのことだから、どこまで本気か分からないが、結局は『ペッパーは君一人だけ』だから止めたらしい。

そんなことを考えていると、ペッパーを乗せた箱は目的の階へ到着したようだ。
2週間ぶりに会えるのだ。ドアが開くのももどかしく、ペッパーが隙間から室内を伺うと、誰かが背を向けソファに座っていた。おそらくトニーだろうと思ったペッパーは、エレベーターを降りながらその人物に声を掛けた。
「トニー?ただい…」
が、それはトニーではなかった。
赤ら顔…いや、赤と緑の顔をしたその人物は、人間ではなかった。明らかに人間ではないのに、トニーが普段着ているようなパーカーにスエットパンツを履いている。どこかチグハグな風貌だが、そんなことを考えている場合ではない。とにかく、知らない人物が自分たちの居住区にいるのだから、大問題だ。
と、見知らぬ人物が振り返った。そしてペッパーを見ると、声を発した。
「おかえりなさい、ミス・ポッツ」
どこかで聞いたことのあるような声だが思い出せない。だが、見たことのない不審者には間違いないのだから、ここはやはりトニーに助けを求めるべきだろう。

「……き、きゃぁぁぁ!!!!!!」
一呼吸置いて悲鳴を上げたペッパーだが、その人物は動じることなく座っている。
「ど、どうした!!!」
代わりに飛び出してきたのはトニー。トイレにでも行っていたのか、スエットパンツは半分ずり下がっている。何事かと青ざめたトニーは、ありえない早さでペッパーの元へやって来た。
これ幸いにとトニーに飛びついたペッパーは、見知らぬ人物を指差した。
「と、と、トニー!!!変なのがいるわよ!!!!」
ぎゃあぎゃあと喚くペッパーと、その指の先を見比べたトニーは、
「あぁ……」
と間抜けな声を出した。ペッパーを落ち着かせるように腕を摩ると、トニーはさも当然だというように言葉を発した。
「ヴィジョンだ」
「ヴ、ヴィジョン?!」
その名前には何となく聞き覚えがある。が、軽くパニックになっているペッパーに思い出せるはずがない。
「ほら、ジャーヴィスだ。説明しただろ?ジャーヴィスがヴィジョンになったって…。いや、正確には違うか。ジャーヴィスのシステムを身体に組み込んで…」
ぶつぶつと何事か言っているトニーの横で、ようやく落ち着きを取り戻したペッパーは、『ヴィジョン』という名の人物を見つめた。そういえば、あの騒動のあと農場で、そんな話を聞いた覚えがあるが、あまりに現実とかけ離れた話すぎて忘れていた。

「ミス・ポッツ。一応、初めましてと言わせて下さい。ヴィジョンと申します」
いつの間にか近づきてきたヴィジョンは、音もなくペッパーに手を差し出した。よく見ると、床から浮かんでいる。トニーと一緒にいる以上、現実離れした事態に直面するのは日常茶飯事なのだが、ジャーヴィスが消え、代わりにヴィジョンが現れたと言われても、やはりピンと来ない。
「は、初めまして…」
恐る恐る差し出した手を、ヴィジョンは力強く握り返してきた。
「ところで、どうしてそんな格好をしてるの?」
腕を回し腰を抱いているトニーと、目の前のヴィジョンはまるで双子のように同じ格好をしているのだ。
「ミスター・スタークが、このような格好がいいと言われたのです。すみません、まだ生まれて1ヶ月も経たないので、よく分からないのです」
困ったように首を傾げたヴィジョンだが、トニーは不満そうに鼻を鳴らした。
「何だ?いいだろ?楽な格好が一番だ!」
呆れたように目をくるりと回したペッパーは、トニーの鼻を軽く摘んだ。
「あなたはそれでいいかもしれないけど…。変なこと教えたらダメよ」
ぷうっとむくれたトニーの頬にキスをしたペッパーは、気まずそうに佇んでいるヴィジョンに向かってニッコリ微笑んだ。
「ねぇ、せっかくだからコーディネートしてあげるわ。これから買い物に行きましょ?」
「は?これから?」
もうすぐ日も暮れる…いや、せっかくの記念日なのに、一体どういうつもりだとトニーは眉を吊り上げたが、ペッパーは今にもヴィジョンを連れて飛び出していきそうだ。
ここでヴィジョンは、ジャーヴィス時代の記憶を辿り思い出した。そう言えば、今日はお2人の記念日だったと…。せっかくの記念日に…しかも、ミス・ポッツは数日ぶりに帰宅したのだから、邪魔をすればトニー・スタークのことだ、何をしてくるか分からないと…。
「せっかくのお誘いですが、明日でもよろしいでしょうか?」
やんわりと断りを入れると、ペッパーは「えー」と残念そうに口を尖らせたが…。
「おい、ハニー、ちょっと来い」
と、トニーに呼ばれると、嬉しそうにパタパタと駆け寄って行った。
ペッパーを抱きしめたトニーはこれ見よがしにキスをし始めたのだが、いつまでも変わらない2人の姿に、ヴィジョンの胸にも何とも言えない懐かしさがこみ上げてきた。

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