折角の誕生日。
一年に一度しかない誕生日。
彼女と思いが通じ合い、ようやく心から楽しめるようになった誕生日。
2人きりのデートを堪能しようと思っていたのに、なぜこんなことになったのだろう…。
「キャー!!!トニー!!」
「私を抱いてぇぇ!!」
黄色い声を上げ続ける女性陣にがっつりと四方を囲まれたトニーは、その円の中心でため息を付いた。
毎年5月29日は、盛大にトニー・スタークの誕生日パーティーが開催されていた。
ペッパーと恋人になる前は、誕生日パーティーとかこつけたどんちゃん騒ぎだった。が、彼女と思いが通じ合ってからは、パーティーよりも2人きりで過ごしたいと願っていたのに、結局のところ、もはや恒例化しているパーティーは、あれから数年経った今でも変わらず開催されているのだ。
(今年こそはイヤだと言おうと思っていたのに…)
3月末辺りからヒーロー活動で忙しく、気が付けば5月に突入しており、すでにパーティー開催は決定していたのだから、結局はどうすることもできず、今日に至る訳だ。
到着早々女性陣に囲まれてしまったトニーに、恐ろしい程の笑みを向けたペッパーは、さっさと取引先の社長の元へと行ってしまった。先方は若くハンサムで女性に大人気のプレイボーイ。10年ほど前の自分を見ているようで、トニーは気が気でなかった。ペッパーが靡くとはこれっぽっちも思っていない。だが、相手の男性は明らかにペッパーを狙っている。さりげなく身体に触れているのだから間違いない。
周りの女性を適当にあしらいながら、ペッパーを凝視しているトニーだが、ペッパーの方もその視線に気づいているのだろう。時折こちらに視線を送りながら様子を伺っているようだ。
「トニーったらぁ!こんな美女がいるんだから、他のオンナなんて見ないでよ!」
酔っぱらった女性の一人がペッパーばかり見ているトニーに絡みだした。
「悪いが美女は向こうにいるペッパーだけだ」
相変わらず視線をペッパーに向けたままのトニーは、これ以上絡まれると面倒だと、その場を立ち去ろうとした。
が、その時だった。
「トニー、愛してるわぁ!!」
酔っぱらった女性はトニーの首筋に腕を絡ませると、いきなり唇を奪った。
(?!!!!!!!)
突然キスされトニーは大慌て。ペッパー以外の女性と、もう何年もキスしていないのに、どうして誕生日にペッパー以外の女性に唇を奪われなければならないのかと、トニーは慌てて女性を引き離そうとしたが、彼女の力は思った以上に強く、離れようとしない。
と、会場が不意に静まり返った。
「会長、よろしいですか?」
まるで地の底から聞こえてくるような冷たい声に、女性はようやくトニーから離れた。そしてその声の主に気付いた彼女は、顔色を変えた。
(ペッパーだ。間違いなく、ペッパーがやって来た)
ようやく助けに来たかとゆっくりとトニーが振り返ると、眉間に深々と皺を刻んだペッパーは、トニーをジロリと睨み付けた。
「言っておくが、私は襲われたんだ。君以外の女性とキス…」
頬を膨らませたペッパーに、トニーは言葉を切ったが、彼の胸元を掴んだペッパーは、ぐいっと顔を近づけた。そして有無を言わせず彼の頭を抱えると、唇を重ねた。
ペッパーの舌が唇の隙間から侵入してき、トニーは迎え入れるように舌を絡ませた。2人きりの時にしかしないような濃厚なキスを、周囲の人々はポカンと見守っている。
甘い吐息と共に唇を離したペッパーは、先ほどの女性の目を見据えて言い放った。
「あなた、ご存じなかったかもしれないけど、彼にキスしていいのは私だけなの。彼は私だけのものなの。分かったかしら?」
ニッコリと笑みを浮かべたペッパーだが、その瞳は怒りで燃えている。ひぃっと小さく叫んだ女性は慌ててその場から立ち去ったが、周囲にいた野次馬も蜘蛛の子を散らすように一斉にいなくなってしまった。
「ハニー」
数分経っても女性が立ち去った方向を睨み付けているペッパーに、トニーは恐る恐る声を掛けた。
ゆっくりと振り返ったペッパーは、自分の発言を思い出したのか、頬を真っ赤に染めた。
「あら、やだ…。私ったら…」
嫉妬のあまり思わず本音を叫んでしまったが、思い返せば…といったところだろう。だが、ペッパーがトニーへの思いを公衆の面前ではっきり告げたのは初めてのことだったため、トニーはにやつく顔を隠すことができなかった。
「いいだろ。本当のことだ。それに、嬉しかった。君が私への思いを告げてくれたことが。これこそ最高の誕生日プレゼントだ」
まだ恥ずかしがっているペッパーを腕の中に閉じ込めると、トニーは額にキスをした。
「で、君からのプレゼントはいつもらえるんだ?」
抱きしめたまま耳元で囁くと、ペッパーはちらりと視線を上げた。
「…今から渡してもいい?」
上目遣いで見つめているペッパーは可愛らしく、今すぐにでも襲い掛かりたい気持ちをぐっと堪えたトニーは、ペッパーの腰を抱き寄せると会場を後にした。