You Belong To Me⑪

ラスベガスから帰ってきた2人は、会社では『社長と秘書』という関係を続けていたが、家では新婚生活を楽しんでいた。
早くペッパーを安心させたいと、水面下で調査をしているトニーだが、あの闇オークションの首謀者…ペッパーが『マスター』と呼ぶ人物については一向に手がかりが掴めなかった。それ故にペッパーが脅迫されていたネタも、彼女の暗示を解く方法も全く掴めなかったのだ。
それでもトニーはペッパーと共に過ごし、新たな思い出を作ればいいと、彼女の記憶を呼び戻そうと決して無理強いはしなかった。そんなトニーに愛され、ペッパーは幸せだった。だが、彼女は内心不安で堪らなかった。マスターが目の前に現れ、この幸せが壊されるのではないかと…。

そんなある日のこと。
昨日から体調が優れないペッパーは、その日の朝もベッドから起き上がれないでいた。
「大丈夫か?」
「はい……」
顔色の悪いペッパーは、力なく頷いた。
早々に病院へ連れて行った方が良さそうだが、生憎これから重要な会議がある。昨日気分が悪いと訴えた時に連れて行けばよかった。だが自分が付いては行けないが、やはりしっかり診てもらった方がいいだろう。
「病院へ行って来い」
そう告げると、ペッパーは小さく頷いた。

病院へ向かったペッパーは、検査を受け廊下で1人待っていた。
何か悪い病気ならどうしよう…。折角トニーと幸せに暮らしていけると思っていたのに…と、考えていると、名前を呼ばれペッパーは立ち上がった。
何度も診てもらったことのある医師は、ペッパーが記憶を失っていることも、トニーとペッパーが結婚したことも知っていた。ニコニコと笑みを浮かべた医師は、ペッパーが椅子に座るや否や、周囲に聞こえないよう配慮してくれたのか、囁いた。
「おめでとうございます、スタークさん。妊娠されてます」
「え…」
ペッパーは頭の中が真っ白になった。
もちろん結婚しているのだから、何の問題もない。トニーはきっと喜んでくれるから…。むしろ、トニーとのことを考えれば、今まで妊娠しなかった方が不思議かもしれないが…。
だが、問題はそこではなかった。

どうすればいいの…。
私は大罪を犯してしまった…。
恋愛感情を持つことも、結婚も禁止されていた。その中でも一番の罪は妊娠だった。
もしマスターが目の前に現れたら…もしマスターに知られれば…自分とこの子はもちろんのこと、もしかしたらトニーにまで危害が及ぶかもしれない…。

黙ったまま震えるペッパーの異変に気づいた医師は、そっと彼女の背中に手を当てた。
「スタークさん?大丈夫ですか?」
ポロポロと涙を零し始めたペッパーは、目をキュッと閉じると首を振った。
「先生…この子はトニー様の…。で、でも…マスターは……お許しになりません……」
「御主人に連絡をしますね」
ペッパーをこのままにしておく訳にはいかない。医師はトニーに迎えに来るよう連絡しようと立ち上がったその時だった。

「57325。見つけたぞ?」
突然ドアが開き、見知らぬ男達が入ってきた。
そして悲鳴を上げる暇もなく、薬を嗅がされたペッパーは意識を手放した。

その頃、会議を終えたトニーはペッパーが心配になり家へと戻っていた。
「ペッパー?」
あちこち探すが、まだ戻っていないのか返事がない。
「ジャーヴィス、ペッパーは?」
『病院へ行かれております。まだ戻られていません』
それなら迎えに行こうかと玄関へ向かったトニーだが、その背中にジャーヴィスが慌てたように声をかけた。
『トニー様!マスターの居所を掴みました!』
「何?!どこだ!」
トニーの目の前にホログラムの地図が現れた。町外れの倉庫に目的の人物はいるらしい。事件の捜査をしている警察に連絡をしたトニーは家を飛び出した。

「ペッパー、出てくれ…頼む」
目的地に車を走らせながら、トニーはペッパーに電話を掛けた。だが診察中なのかペッパーは電話に出ない。留守電にメッセージを残したトニーは、ハッピーにペッパーを迎えに行くよう指示すると道を急いだ。

現場に到着したトニーは、一人倉庫の中に入っていった。
一応銃は携帯しているが、正直なところ武器の開発製造は行っていても、射撃の腕前には自信はない。それでも数撃てば当たるだろうし、持っていないよりはマシだ。
倉庫の中はいくつもの部屋に区切られており、トニーは一部屋ずつ覗いていったが、どの部屋ももぬけの殻だ。逃げられたかと半ば諦めかけたトニーだが、最後に扉を開けた大きな部屋の中央には一人の男が立っていた。
あいつがあのオークションの首謀者…そしてペッパーのいう『マスター』だろう。
銃を正面に構えると、トニーはゆっくりと歩み寄った。
「トニー・スターク、待っていたぞ」
トニーが来ることを予想していたのか、男はゆっくりと振り返った。フードを被っているため顔は見えないが、白い歯を見せニヤニヤと笑うその表情にトニーは背筋が凍り付いた。そしてこいつのせいでペッパーは苦しんでいるのだと思うと怒りがこみあげてきた。
「お前…ペッパーに何をした!!」
銃口を突きつけるように数歩前へ出たトニーだが、男は鼻で笑った。
「いいだろ?ただひたすら男に抱かれるだけの存在だ。だがおかげでお前はあのオンナをものにできただろ?良かったじゃないか」
くくっと笑った男は、トニーの後ろに目をやった。怒りのあまり気付いていなかったが、いつの間にか背後には男が数人いた。慌てて銃の向きを変えようとしたトニーだが、男たちはそれを奪い取ると、トニーの両手首に手錠を掛けた。身動きの取れなくなったトニーを椅子に座らせると、先ほど奪い取った銃を頭に向けた。
「スターク、あのオンナはお前の知っているオンナではない。分かってるだろ?二度と記憶は戻らないということは。それに、あのオンナは快楽がないと生きていけない。それが私が作り上げた作品だ。あのオンナは私の手で完璧になるはずだった。数回奉仕させた後に私が最後の仕上げをし、高値で売り飛ばす予定だった。それがお前のせいで…」
憎々しげにトニーを睨み付けた男は手を振り上げるとトニーを思いっきり平手打ちした。衝撃で椅子から転がり落ちたトニーの胸倉を掴んだ男は、何度も顔を殴りつけた。
「お前のせいだ!全てお前のせいだ!」
口と鼻から血を噴き出したトニーの身体を数回にわたり思いっきり蹴り上げた男は、トニーを再び椅子に座らせると、鎖で身体を縛り付けた。
殴られた時に歯が折れたらしく、左側の頬がズキズキし始めた。血と一緒に歯を吐き出したトニーは男を睨み付けた。
「作品?反吐が出る。お前のやっていることは犯罪だ。女性を食いものにし、傷つけ…恥ずかしくないのか?それにペッパーは違う。彼女はお前が思っているような女性ではない。私の知っているペッパーは、出会った時から完璧な女性だった」

トニー・スタークはどこまでも彼女のことを信じ愛している。それならば目の前で絶望を味わらせてやろうと、男は部下に合図を出した。
「本当にそうか?」
と、誰かが部屋の入ってきた。

⑫へ…

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