エキスポの後、正式にSIのCEOに就任したペッパー・ポッツの初仕事は、系列会社の重役も集まる会議だった。
ポッツ社長のお披露目も兼ねた会議ということもあり、今や会長となったトニーも会議には出席していた。が、業績がどうこうという事務的な話に飽きたのだろう。隣に座るトニーの手元をチラリと見ると、彼はスタークPadに何やらデザインを描いていた。
「何してるの?」
こっそりと尋ねると、トニーは顔を上げニヤっと笑った。
「寝室のデザインだ。私たちの寝室だから、君の気に入る内装にしたい」
『私たちの』と言う言葉に、ペッパーは頬を赤く染めた。
恋人になってまだ3日。この3日間は休暇と称し朝から晩まで愛し合っていたが、『トニー・スタークの恋人』という事実にはまだ慣れていない。
昨晩から今朝にかけての情事を思い出したペッパーはますます赤面させたが…。
「おい、呼ばれてるぞ?」
いつの間にか自分が話す番がきていたようだ。トニーに突かれ我に返ったペッパーは、慌てて立ち上がると中央の演台へと向かった。
「…以上です」
的確でしかも分かりやすい説明に、さすがペッパーだと感心していたトニーだが、質問に答えている彼女に向かって野次が飛んだ。
「トニー・スタークに抱かれると社長になれるんだな」
心無い野次に、ペッパーは唇を噛みしめた。
(負けたらダメよ!こんなことで負けたら…)
トニーと恋人になったからCEOになったのではない。彼が信頼してくれたから、その座を託してくれたのだから、こんな野次に構っている暇はない。
再び質問に答えようとしたペッパーの耳に、別の野次が聞こえてきた。
「元秘書に会社経営なんて出来るわけないだろ」
いい加減言い返した方がいいだろうか…と思った矢先のことだった。
「会長である私が全権を託した。だからポッツくんに任せろ」
口を挟んだのはトニーだった。
眉間に皺を寄せ耳の先が赤く染まっているところを見ると、表情には出していないがかなり頭に来ているようだ。
「ですが社ちょ…いえ、会長。彼女はたかだか…」
トニーの怒りを分かっていないのか、先ほど野次を飛ばした男性はまだペッパーを批判しようとした。立ち上がり、ステージの中央へ移動したトニーは、その男性を睨みつけるように声を張り上げた。
「秘書だったくせにと言いたいのか?生憎だが、今まで会社を仕切っていたのは、その秘書だったペッパーだ。私の代わりに彼女はこの数年間、上手く立ち回ってくれていた。彼女は誰よりも我が社のことを考えてくれている。金や名声のためではなく、心の底から我が社の繁栄のために働いてくれている。だから彼女に任せて大丈夫だと思った。それに、言っておくが、彼女をCEOに指名したのは、私たちが正式に恋人になる前だ。以上だ」
静まり返った会場を見渡したトニーは、目を潤ませその場に佇んでいるペッパーの肩を抱き寄せると、ステージを降りた。席に戻るのかと思いきや、トニーはそのまま会場を出て、廊下を歩いて行く。
「どこへ行くの?まだ会議中よ?」
腰を抱き寄せられているのでただ付いて行くしかできないペッパーは、トニーのジャケットをそっと掴んだ。そのまま歩き続けたトニーは、社長室へ入ると鍵を閉めた。そしてようやく立ち止まると、ペッパーをぎゅっと抱きしめた。
「人前じゃ泣けないだろ?君は今にも泣きそうだった。ヒーローに窮地を救われたからか、それとも私の愛の告白に感動したのか…」
トニーの言う通りだった。彼の言葉に感動し、思わず涙が零れそうになったが、人前で泣くわけにはいかなかった。まさに彼は窮地を救ってくれたヒーローだった。
「ありがと…トニー」
トニーの肩に顔を埋めたペッパーは、静かに嗚咽を漏らし始めた。何も言わず彼女の頭を撫でたトニーは首筋にキスをした。