Everything Is For You㉝

それから幾年もの季節が廻った。
その日、トニーとペッパーの姿は病院の一室にあった。
「トニー…」
ベッドに横たわったトニーを手をペッパーは泣き出しそうな顔をして握っている。
「ペッパー。俺は死なない。大丈夫だから。約束したろ?引退したら世界一周旅行に連れて行くって…」
妻を安心させるように抱きしめていると、医師がドアから顔を覗かせた。
「スタークさん、そろそろ行きましょか?」

手術室へ向かう途中、トニーはこの10年間のことを思い起こしていた。
アナが無事に1歳を迎えた年、ペッパーは2人を妊娠した。その後、2人の娘に恵まれたが、なかなか息子には恵まれなかった。それが2年前、待望の息子が誕生した。相変わらず子供っぽいトニーの性格もあり、ペッパーは毎日5人の子供の面倒を見ているようだったが、ペッパーもトニーも幸せだった。何もかもが順調だった。トニーの心臓も経過は良好で、家族6人楽しく暮らしていた。
それが一変したのは1年前。息子の1才の誕生日の翌日、トニーは会議中に酷い発作を起こし倒れた。何日も生死の境を彷徨うトニーに、誰もが諦めかけた。だがペッパーとそして子供たちだけは信じていた。その願いが通じたのか、トニーは戻ってきた。
まだ若く、体力もあるトニーに、医師は移植を受けてみてはと提案した。
『移植したらペッパーとヨボヨボになるまで一緒に生きていけるのなら』と、移植を受けることを決意したトニーだが、なかなか適合するドナーは現れなかった。だが、1年経ち、ようやくドナーが現れたのだ。
『拒絶反応が起きる可能性はある』と言われたが、トニーに迷いはなかった。子供たちと、そして何よりペッパーとこの先もずっと過ごしたい…。トニーの願いはただそれだけだった。

最愛の家族が見守る中、トニーは手術室の前へ到着した。家族や仲間が応援してくれていると言っても、ここからは1人で立ち向かわなければならない。
10歳、8歳、4歳の3人の娘を手招きしたトニーは、順番に頬にキスをすると、ペッパーの腕に抱かれた2歳になったばかりの長男の頭をくしゃっと撫でた。
「パパがいない間、ママの言うこと、ちゃんと聞くんだぞ?」
4人の子供たちを見渡すと、子供たちは笑みを浮かべ頷いた。
「うん!」
「パパ、頑張ってね!」
「パパの好きなチーズバーガー、買って待ってるね!」
「パパ、だいちゅき!」
最後にもう1度子供たちを見回したトニーは、優しげな笑みを浮かべると、ペッパーに視線を移した。
「ペッパー…」
伸ばされた手をギュッと握ると、トニーは2人きりの時にしか出さないような声で囁いた。
「愛してる…」
出会った頃と変わらない煌めく瞳に見つめられ、ペッパーは十数年前のアカデミーの噴水の前の出会いを思い出した。
あの時、初めて手が触れあった瞬間から彼とは心が通じた気がした。だが、彼と共に永遠に生きていけるとは思ってもいなかった。
自分には人並みの幸せは訪れないと思っていた。そんな自分を彼は全身全霊を込めて愛し、支えてくれた。そして幸せと生きることの楽しさを教えてくれた。
彼のおかげで、自分の人生を取り戻すことができた。
彼には感謝してもしきれない。だから彼のためなら何だってできる。彼なしの人生なんて、もう考えられないのだから…。

「いってらっしゃい…」
別れ際、毎朝出勤する前のようにキスをすると、トニーは家族に向かってVサインをし、手術室へと入っていった。

きっと大丈夫。彼は私の手を永遠に繋いでいてくれるから…。
トニー…。次に目覚めた時、神様はきっとあなたに最高の御褒美をくださるわ…。
だから、あなたらしく戦ってきて…。
私はあなたを信じて待ってるから…。

【END】
年上ペッパーと年下トニーのお話、長々と続きましたが、最終話です。
ハネムーン編など番外編としてupする予定です。

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