Love Don’t Need A Reason②

「やあ、スターク。だいぶ元気そうになったじゃないか」

トニーが病院へ担ぎ込まれて2週間。
あちこちの骨が砕け身体の内部まで損傷し、動くことのできないトニーは、ベッドに横たわり弱々しく笑った。
「元気とは言えないがな…。だが、再び君とこうやって話をできるとは、思いもしなかった…」
弱っていてもトニー・スターク。相変わらずな口調にスティーブは笑いながらトニーの右手の指を触った。
「感覚、戻ったか?」
肩から手首までギブスで固定され動かすことのできない右手。あの時、ステインに痛めつけられた右手は、骨ばかりか腱や神経までもが傷つき、トニーから感覚を奪っていた。

トニーは無言で首を横に振った。

なぜもっと早く救い出すことができなかったんだ…。
右手だけではない。頬にも大きな傷跡が残り、2週間経った今でもベッドから起き上がることも食事を取ることもできず、全身何本ものチューブで繋がれて生きているトニー。

あの時、少しでも早く助け出していたら、彼はこんなにも痛々しい姿にならずにすんだのではないか…。
トニーを救出して以来、何度も何度も自問してきたスティーブだが、頬がこけ青白い顔をしたトニーを目にすると、やはり後悔しか襲って来ず、スティーブは零れ落ちそうになった涙をぐっと堪えた。

そんなスティーブの涙をトニーは見逃さなかった。
「キャプテン、泣くな。気持ち悪い。涙はペッパーのだけで十分だ。それに…」
「それに?何だよ…」
鼻を啜ったスティーブは、トニーの動かない右手をそっと握った。
「私が自分で選んだ道だ。あの時、自分の命よりペッパーを救うことを選んだのは私だ。…だから、君が後悔する必要はない。あの時、来てくれたことだけで十分だ。感謝してる。だから…頼むから謝らないでくれ。君に謝られると…」
言葉に詰まったトニー。トニーの言おうとしたことが分かったスティーブは、わざと明るい調子で後を続けた。
「『例え死んでも死に切れない』か?」
小さく笑ったトニーは
「死ぬだなんて…。だが、そんなところだ…」
と言いながら、スティーブが持っている物に目を留めた。
「ところで、さっきから気になっているんだが…君が持っている物は何だ?」
トニーに言われ手土産を思い出したスティーブ。
「そうそう…君の好物を持ってきたんだ。ドーナツだ。」
「ドーナツだと?」
顔をしかめたトニーに気づいたスティーブは、頭を掻きながら苦笑い。
「そうだよな。まだ食べれないんだよな…。すまん、忘れてた…」
「君は絶食の私に好物を持ってきたんだぞ。全く…殺す気か…。だが、せっかくだからもらっておくよ。もうすぐペッパーが戻ってくるはずだから…」
トニーがドアの方へ目を向けると、タイミングよくペッパーが戻って来た。

「トニー、ただいま。あら?スティーブ、来てくれてたの?」
「やあ、ミス・ポッツ。お邪魔してるよ」
「いいえ、来てくれて嬉しいわ。トニーも気晴らしになるし。ね、トニー?」
「気晴らしどころか…。どういうつもりか知らないが、キャプテンは何も食べれない私にドーナツを持ってきたんだ…」
スティーブからドーナツの箱を受け取ったペッパーは、トニーの言葉に苦笑いしながら、
「せっかくだから私がいただくわね、スティーブ。あなたもどう?紅茶でもいれるわね…」
と、いそいそと準備を始めた。

「スタークは幸せだな。ミス・ポッツがいて…」
ペッパーの後ろ姿を見つめていたスティーブが、ペッパーに聞こえないようにつぶやいた。
「あぁ…。彼女は…私の世界で…かけがえのないものなんだ…。だから…」
最後の言葉を飲み込んだトニーは、目を細めペッパーを見つめた。トニーのその優しい眼差しは、自分には決して向けられるものではない、ペッパーにだけ向けられるものだということにスティーブは気がついた。

彼女は彼の複雑な世界の中の…一番明るく暖かい場所にあるもの…。それが欠けると彼の世界は崩壊する…。
だからスタークは、自分の命を投げ出してでも、彼女を守るのか…。

「あら?二人で何を話してるの?」
気がつくとペッパーが不思議そうな顔をして二人を見ていた。
「男同士の話だ」
ペッパーとスティーブを交互に見たトニーはニヤリと笑った。
「あら?私に話せないことなんて。またろくでもないこと考えてたんでしょ?スティーブ、用意できたわ。あっちで食べましょ?」

スティーブが立ち上がりソファの方へ移動すると、様子を見ようとトニーのそばに近づいたペッパーは、トニーが脂汗をかき、青い顔をしているのに気づいた。
「トニー…。ずっと起きてるから疲れたんじゃない?そばにいるから少し眠って…」
ペッパーがトニーの頬を撫でながら唯一自由に動く左手を握ると、トニーはその手を握り返し目を閉じた。

額にそっとキスをおとし、愛おしそうにトニーを見つめるペッパーを、スティーブはドーナツを頬張りながらじっと見つめた。

3へ…

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