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「とにー!」
「エスト。確かに私は『トニー』だが、『パパ』と呼びなさい」
眉間にシワを寄せている父親を見つめたエストだが…。
「とにー!」
ガックリと肩を落とす父親の頬を叩いたエストは、髭を引っ張った。

昨日まで…いや、つい数分前までは『パパ』と言っていたエストなのに、何を思ったのか突然『トニー』と言い始めた。最初は名前を覚えたのだと喜び勇んでいたトニーだったが、『パパ』と言われないとなるとかえって不安になり必死に訂正しているのだが、焦るトニーとは逆にエストは喜んでしまっているようだ。

「トニー、どうしたの?」
そこへやって来たのはペッパー。母親の姿を見たエストは顔を輝かせた。
「ママ!」
ペッパーのことは『ママ』と言う。なのにどうして自分のことは先程から『トニー』と呼ぶのだろうか…。
頬を膨らませたトニーは、エストを必死の形相で見つめた。
「おい、エスト。私は誰だ?」
目を見開いている父親をじっと見つめたエストは、その顔が面白かったのか、ケタケタと笑い声を上げた。そして父親を指したエストは大きな声で告げた。
「とにー!!」

「エスト!パパだ!頼むから『パパ』と言ってくれ!」
泣き出しそうなトニーを見たエストは声を上げて笑い続けているではないか。

笑いを必死でこらえたペッパーだが、翌日には自分も同じ運命になろうとは、この時のペッパーは思いもしなかった。

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