136. Substitute

「スターク社長の代理で参りました」
いつもの決まり文句を告げたペッパーだが、先方は露骨に嫌な顔をした。
「トニーは?どうして代理であんたが来るのよ!」
きーっと金切り声を上げた女性は、イライラと足を踏み鳴らした。
「申し訳ございません。急遽取引先との打合せが入りまして」
仕事なら仕方ないと思ったのか、それとも彼に会う意志がないと悟ったのか、真っ赤な顔をした女性は持っていたバッグを握りしめた。
「もう!この埋め合わせはしてもらうわよ!」
「社長に伝えておきます」
怒り顕に肩で風を切り立ち去る女性を見送ったペッパーは、ため息を付くと待たせていた車へ戻った。

「社長、帰られました」
後部座席に腰を下ろしたペッパーは、隣に座るトニーに報告した。
「そうか。もう二度と会うことはないだろうが、ミス・ペレスは怒っていただろう」
「ミス・ロドリゲスです」
全くどうして一夜を共にしたデート相手の名前を覚えていないのだろうか。頭を抱えるペッパーを他所に、トニーは大あくび。
「ペレスでもロペスでも関係ない」
デートするのは気が進まないとペッパーに断りに行かせたのだが、本当は目の前の女性と過ごしたかったのだ。だが、それをストレートに言っていいものだろうか…。自分たちは社長と秘書という関係なのだから…。だが少しだけ…。少しだけならそんな素振りを見せてもいいだろうか…。
そう考えたトニーはペッパーの肩を抱き寄せると、素早く頬にキスをした。
「しゃ、社長?!」
突然キスされたのだ。今までにも酔っ払ったトニーに同様のキスをされたことはあるが、今の彼はどう考えてもシラフだ。どう捉えていいのか分からないペッパーは目を白黒させているが、彼女が拒否しなかったことに気を良くしたトニーは、そのままペッパーを抱きしめた。
「飲みに行こう。今まで誰も連れて行ったことのない、隠れ家のようなバーがある。君もきっと気に入ってくれるはずだ」
ハッピーに店の名前を告げたトニーだが、ペッパーは相変わらず腕の中に閉じ込めたままだ。
『ふざけないで下さい』と突き放した方がいいのかもしれないが、彼の腕の力強さと温もりに、胸の高まりが抑えきれなくなったペッパーは、トニーのジャケットをキュッと握りしめた。
(このまま…少しだけこのままでいさせて…)
胸元に顔を擦り寄せたペッパーを、トニーもまた力強く抱きしめ続けた。

気を効かせたハッピーは、結局店の周りを5周する羽目になったとか…。

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