132.Ice Cream

ある日のこと。
パーティーで飲みすぎたトニーは、寝室に辿り着く前に玄関先で爆睡。そのまま朝になり、出社前に迎えに来たペッパーに発見されたのだが、当然と言うべきか、彼は風邪を引いていた。寒さに震えるトニーを無理矢理病院へ連れて行ったペッパーは、家へ連れて帰るとベッドに彼を押し込んだ。
高熱で真っ赤な顔をしているトニーは弱々しく、額の汗を拭いたペッパーは彼の頬を撫でた。
「何か食べます?」
温かく柔らかな彼女の手は亡き母親を思い出させ、目を閉じたトニーは何の気なしに呟いた。
「…アイスクリーム」
いつになく子供じみた声色に、ペッパーは眉を潜めた。
「アイスクリームですか?」
我に返ったトニーはバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。
「幼い頃、風邪を引くと母が食べさせてくれた。君の手は温かく優しく…亡き母を思い出した」
その言葉にペッパーは、小さな少年を甲斐甲斐しく世話する美しい女性の姿を思い浮かべた。
決して会うことの出来ない女性は、トニーの心に唯一住み続けることを許された存在。その存在と自分を同等に思ってくれているということが、ペッパーは内心嬉しくて堪らなかった。
「分かりました。買ってきますね。後で食べさせてあげますね」
毛布を掛け直したペッパーは、そっと部屋を後にした。

「…ペッパー…愛してる…」
微睡み始めたトニーが無意識に口に出した言葉。ペッパーの耳に届くことはなかったその言葉が毎日聞かれるようになるのは、まだ数年先のお話。

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