今日はクリスマス。久しぶりに家族の揃った聖なる夜、スターク一家は馴染みの教会のミサに参加していた。
トニーが戻って来たことへの感謝の祈りを捧げた一家は、ミサも終わり家に向かっていた。窓の外の風景を楽しんでいたトニーは車窓から見える町並みにふと懐かしさを覚えた。
「止めてくれ」
運転手に命じたトニーは車から降りると歩き始めた。
「どうしたの?」
慌てて追いかけたペッパーを呼び寄せたトニーは、彼女の肩を抱き寄せた。
「ここだよ、俺が全てを思い出すきっかけをくれた場所は…」
「ここが…」
そこは小さな教会だった。
1年前の今日、トニーは自ら命を絶とうと考えた。それを思いとどまらせたのがこの教会だと思うと、ペッパーは胸が締め付けられそうになった。が、華やかさはないが、どこか落ち着く雰囲気のある教会に、ペッパーの心は自然と落ち着きを取り戻した。
眠たいと愚図るAJは両親が先に連れて帰ってくれることになり、トニーはペッパーを連れて教会の中に入っていった。
ミサも終わった教会では、神父が帰りゆく人々を見送っていた。
この半年、連日のようにメディアが取り上げていたのもあるだろうが、2人の正体に気付いた神父は笑顔で迎えてくれた。
「これはスターク様。ミサに来られたんですか?残念ながら先ほど終了したんです」
折角来て頂いたのに…と心底残念そうな神父だが、トニーは小さく首を振った。
「違うんです。お礼を言いに参りました」
スターク一家とは何の関わりもないのにと首を傾げる神父に、ペッパーの手を握りなおしたトニーは静かに話し始めた。
「神父様、私は1年前あなたに救われました。クリスマスの翌朝、あなたは記憶を失い自暴自棄になっていた私に声を掛け、パンとスープをご馳走してくださいました。そして一部の新聞を下さいました。それがきっかけで私は全てを思い出し、大切なものを取り戻すことができました。そしてその時あなたから頂いた言葉は私の生き方を変えてくれました。ずっとお礼に伺いたかったのですが、この場所がどこか分からず出来ませんでした。ですが、クリスマスの今日、偶然にもここを見つけることができました。お礼が遅くなり申し訳ありませんでした。神父様、本当にありがとうございました」
頭を下げるトニーに神父は1人の男の姿を思い出した。1年前のクリスマス、悲しみと絶望を背負い、雪の中で静かに祈っていた男の姿が…。
あの時の男性が目の前にいる男性だとはにわかに信じられなかった。というのも、彼はトニー・スタークなのだ。裕福で恵まれた環境にいる彼と、あの時の貧困に苦しむ男性が同一人物だとはどうやっても結びつかなかった。だが神父は思い出した。2年もの間行方不明だった彼が突然社会に復帰し、今は恵まれない人々の救済に力を注いでいることを…。あの時彼にどういう言葉を掛けたのか、神父は正直覚えていなかった。だが彼は自分の言葉を道しるべに、今生きているということははっきりと分かった。
「そうですか…あの時の…」
何度か頷いた神父はそばにあった燭台を手に取ると、2人を導くように手を差し伸べた。
「スターク様、今日はクリスマスです。今宵あなたがこちらへいらっしゃったのも、きっと神様の思し召し…。よければ温まっていかれませんか?」
「はい、是非」
1年前と同じ温かな言葉に、トニーは隣で微笑むペッパーの手を握ると神父のあとに続いた。