Need You Now 家族編

11月のある日のこと。
「社長、元同僚と言われる方が、受付に来られてますが…」
受付から電話を受けたのは、トニーが帰宅しようとした時だった。
「誰だ?」
元同僚と言えば、教師時代の仲間のことだろう。わざわざ自分を訪ねてくるような奴はいただろうか思いつつ、トニーはカバンを持つと受付へと向かった。

「やあ、トニー。久しぶり」
突然トニーを訪ねて来たのは、あのブルース・バナーだった。
「ブルース!久しぶりだな!」
顔を合わせるのはトニーが学園を去って以来なので、久しぶりの再会だった。
受付前で抱き合い再会を喜ぶ2人。社長がこれ程までに歓迎するのは、夫人であるペッパーくらいしかいないため、道行く社員は皆『あの男は社長の何なんだ?』と興味津々で様子を伺った。

「おい、ブルース。突然どうしたんだ?」
「こっちで会議があったんだ。せっかくLAまで来たんだ。君に無性に会いたくなってね」
「いつまでいるんだ?」
「一週間くらいを考えてるんだ」
「それなら家へ泊まれ」

肩を組み仲良く駐車場へ向かう姿に、『社長とあの男はデキている』という噂が社内を駆け巡ったとか…。

***
「ハニー、ただいま」
夕食の準備をしていたペッパーは、トニーの声に振り返った。
抱きつきキスをするトニーに応えていたペッパーだが、ふとトニーの後ろを見ると、よく知った顔があるのに気づいた。
「バナー先生!」
歓声を上げたペッパーに、ブルースは微笑んだ。
「ポッツくん、元気そうだね。いや、もうポッツくんではないね」
半年ぶりに会うペッパーは、すっかり大人びており、母親の顔をしていた。そして大きなお腹ははちきれそうになっている。
「予定日は?」
ブルースがトニーを見ると、彼は肩をすくめた。
「それが、5日前が予定日だったんだ」
「そうなんです。それなのに、この子、全然生まれてくる気配がなくて…」
お腹を撫でたペッパーは、困ったように口を尖らせた。
「初産だから遅れるのは珍しいことではないらしいが、明日になっても陣痛が来なければ、入院することになってる」
首を振ったトニーはペッパーの頭にキスをするとブルースに笑みを向けた。
「とにかく今日は久しぶりの再会だ。積もる話もあるし、楽しもう」

翌日、トニーを見送ったペッパーはブルースのために朝食の準備をし始めた。
が、しばらくすると、彼女は自分の足元が濡れ始めたことに気付いた。
「私、何かこぼしちゃったかしら…」
と、足元に視線を向けたペッパーだが、それは自分の下半身から流れている。それはつまり…。
「ど、どうしよう…は、破水しち………痛っ!」
ズキンと猛烈な痛みに襲われたペッパーはその場に座り込んだ。
と、そこへタイミングよく起きてきたのはブルース・バナー。キッチンへ入った彼は、ペッパーが床に蹲っているのに気づくと慌てて駆け寄ってきた。
「ど、どうしたんだ?!ポッ……え?!も、もしかして……」
さすがはブルース・バナー。瞬時に状況を把握した彼は、ペッパーが産気づいたと理解したが、何しろ初めての経験なので、どうすればいいのか分からなくなってしまった。
「と、と、と、トニーに!トニーに、れ、れ、れ、れ…」
パニックになっているブルースに、見るに見かねたジャーヴィスは努めて冷静に伝えた。
『バナー様、トニー様には連絡致しました。それからホーガン様にも連絡致しましたので、後2分でお迎えに来られます。トニー様は直接病院へ向かわれるそうです』
自分一人ではないと思うとブルースはようやく落ち着くことができたのだろう。ほどなくして迎えに来たハッピーと共に彼女を車に乗せると、病院へと向かった。

***
それから数時間後…。
ペッパーは腕に美しい女の子を抱いていた。
ベッドに腰掛けたトニーはペッパーの肩を抱き寄せ、生まれたばかりの娘の頬をつついた。
「よく頑張ったな…。ありがとう、ペッパー」
目を潤ませたトニーは見たことがないほど幸せそうな顔をしている。
「アビー、お前のことは皆が待ってたんだぞ?」
ここまで色々なことがあった…。特にペッパーが妊娠してからの10ヵ月は…。ふと両親のことを思い出したトニーの目から、涙が一粒こぼれ落ちた。トニーの思いに気づいたペッパーは、彼の気持ちを代弁するかのように言葉を続けた。
「お父様とお母様も…」
「そうだな…。特にお袋は、その辺で小躍りしてるんじゃないか?」
顔を見合せて笑った2人は、うとうととし始めた娘を見つめた。
アビゲイル・マリア・スタークと名付けられた2人の宝物は、父親の指を握りしめると小さなあくびをした。

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