「ペッパーさんのご主人ってどんな方なんですか?」
この破壊力満点の一言に、会議室どころか建物中の空気が凍りついた。
一体この子は誰に向かってものを言っているのだろう。彼女の伴侶があの超有名な人物であることを知らないのだろうか。
ちなみに発言主は先週海外から研修にやって来た20になるかならないかの女性。彼女の国ではこの二人のニュースは流れないのだろうか、それとも彼女が所謂ゴシップ情報に疎いだけなのだろうか…。
冷や汗をかく周囲を他所に、話を振られたペッパーはこの状況を楽しんでいるのだろうか、頬杖を付くと笑みを浮かべた。
「そうねぇ。我が儘だし、好き嫌いが多いし…。とにかく彼は子供みたいなところがあるの。そうそう、昔は靴紐も自分で結べない…つまりね、私がいないと何も一人で出来ないような人だったの。でも彼はいつも私のことを見てくれていたわ。ありのままの私をいつも受け止めてくれるの。彼の前ではね、私は何も着飾る必要がないわ。彼は最高の男性よ。夫としても父親としても。もっとも世界を救うことに夢中になりすぎて、この会議に遅刻してるけど…」
時計を見上げたペッパーは、手元の携帯電話に視線を送ったが、何も連絡がないのだろう、小さくため息を付いた。
「ごめんなさい。もう少し待ってくれるかしら?」
今の話の流れだと、彼女の夫の正体は十二分に見当が付きそうなものだが、先ほどの発言主である研修生はまだ分かっていないようだ。
「ペッパーさんのご主人って素敵な方なんですね!いいえ、素敵なご夫婦なんですね!」
手を叩かんばかりの勢いで感動している研修生に、さすがのペッパーも苦笑いするしかなかった。
そろそろネタばらしをした方がいいのかもしれないと誰もが思ったまさにその時だった。
「遅くなってすまない」
という声と共に、アイアンマンが現れた。
と、ここでようやく件の研修生は気付いたようだ。ペッパー…つまりはペッパー・スタークの夫がトニー・スタークであるという事実に…。
急にあたふたし始めた研修生に向かって『そういうことよ。分かったかしら?』と意味深な笑みを送ったペッパーは立ち上がると、アーマーを脱いだトニーの元へと歩み寄った。
「トニー、遅刻よ」
可愛らしく睨んだペッパーはトニーのネクタイを掴むと整え始めた。
「仕方ないだろ。じいさんの反省会が長引いた。それより、世界を救ってきたんだ。妻からの労いはないのか?」
肩を竦めたトニーはそう言うと、唇を突き出した。
「ご褒美が欲しいの?仕方ないわね…」
わざとらしく首を傾げるペッパーだが、すでにその腕は甘えるようにトニーの首元に巻かれており、ご褒美の準備は万端だ。トニーの熱っぽい視線を感じたペッパーは、彼の頬に唇を滑らせるとそのまま柔らかな唇を重ねた。
大勢の社員の前なのに甘い雰囲気になりだした二人に、いつもの見慣れた光景だと苦笑する社員だが、慣れないどころか初めて遭遇する研修生は目に見えて戸惑っている。
「いいご夫婦でしょ?いつもこんな感じなの。でもね、私たちはああいうお二人を見ていると幸せなのよ」
ご丁寧にウインクをして教えてくれたスターク・インダストリーズの社員に、研修生は同感だと何度も頷いた。