②バートンの農場にて:納屋でフューリーに会う前の話
「…疲れたな…」
小さなベッドに横たわったトニーは、薄暗い部屋の天井を見つめた。
「…ペッパー…」
彼女は今、どうしているだろう。ヨハネスブルグでの騒動はニュースを介して彼女の耳には入っているだろうから、不安に思っているだろう。だが、状況が状況であるし、加えて一切の連絡が取れないのだ。
自分の社会保障番号は覚えていないが、彼女の携帯の番号だけは覚えている。
バートンの妻に言えば電話くらい貸してくれるだろう。だが、今連絡を取れば、この場所をウルトロンに追跡される危険性がある。そうなると、この場を提供してくれたバートン一家に多大なる迷惑を掛けることになるのだ。
孤高の男だと思っていたクリント・バートンに家族がいたことには驚いたが、トニーは同時に少しばかり彼が羨ましくもあった。
彼は『家庭』を築いていた。農場で妻と子供たちに囲まれた『ありきたりな日常』という平穏な世界を…。つまり、この農場には、トニーが心のどこかでずっと憧れている世界があったのだ。
自分にもペッパーという大切な存在がいる。彼女は家族同然だが、正式には家族ではない。それは単に自分が最後の一歩を踏み出せていないからなのだが…。それでも彼女はトニーにとっての『家』だった。『家』に帰るために、そして愛する者を守るために闘っているという意味では、トニーもバートンも同じなのだろう。
ペシャンコの枕を抱きしめたが、所詮は枕。温もりなどあるはずもなく、トニーは虚無感に襲われた。
「ペッパー……私はどうすればいいんだ…」
枕に顔を埋めると、あの最悪の幻影が脳裏を掠った。『全力を尽くさなかった』ばかりに死んだ仲間。自分1人が残され、地球に襲いかかる脅威を防げなかったこと…。
だからこそ全力を尽くそうとした。だが、その結果がこれだ。いや、全力を尽くしたと思いたかっただけなのかもしれない。まだやるべき事はあるのだから…。ペッパーの言う通り、どこかでボタンを掛け間違えたのだろうが、こうなった以上、被害が広がる前に自分の手で事態を収束させるしかない。世界を守るため…いや、愛する者を守るために…。
無性に彼女に会いたくなった。ただ抱きしめて欲しかった。あの優しく愛に溢れた声で『大丈夫よ、トニー。あなたなら出来るわ』と囁いてもらいたかった。だが、その闘いが終焉を迎えるまで、彼女をこの腕に抱きしめるなど、遠い夢物語だ。
「ペッパー……会いたい…」
今この瞬間、現実世界で無理ならば、せめて夢で会えるようにと、トニーは最愛の女性の姿を思い浮かべながら眠りについた。
→戦闘後