ABC

とある昼休み。
昼食後のカフェテリアで、ティーン向けの雑誌を皆で見ていた時だった。輪の中の一人がおもむろに口を開いた。
「ねぇ、ペッパー。先輩とはどこまでいったの?」
『先輩』とは学校中の女子の憧れのトニー・スタークのこと。その人物の恋人が自分たちの友達であるペッパー・ポッツと分かったのはつい1週間前。そうなると知りたいのは、憧れの先輩の私生活。と言うことで、ここ1週間、ペッパーは事あるごと質問攻めに合っていたのだが…。

友達の質問にペッパーは首を傾げた。昨日は日曜日で、トニーとデートに出掛けたのだが、それを目撃されていたのかしら…と。
昨日は午前中、ショッピングに出掛けた後、ランチを食べ、映画館に行った。そしてトニーの家で愛し合い、帰ろうとしたところ、偶然にもトニーの母親であるマリアがLAへ戻って来たため、夕食を共にし帰宅したのだった。だから『どこまで行ったのか』と聞かれたのだから、映画に行ったと答えればいいのだろうか…。
「え、どこって…。映画館よ。センチュリーシティーモールへ行ったの。トニーがお洋服を買ってくれて…」
と答えたペッパーだが、その場はどっと笑いが起きた。
目を白黒させているペッパーに、友達は失笑している。
「ペッパーったら、ABCよ!」
「そうそう!Aはキス、Bは直前、Cはエッチよ!知らないの?!」
「え…っ…と……」
友達が何を聞きたいのかようやく理解したペッパーは、真っ赤になり俯いた。
“ABC”も何も、自分たちの関係はいきなりCから始まったのだから…。
モジモジして何も答えないペッパーの様子から、友達は悟った。2人はすでに”C”まで経験済だと…。そうなると、ますます知りたくなる。果たしてトニー・スタークは噂通り上手いのかということが…。
「ねぇねぇ…先輩って…その…」
『エッチが上手いの?』と聞こうとしたのだが、残念なことにタイミング悪く昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。ガックリと肩を落とす友達とは対称的に、これ幸いにとペッパーはその場から逃げ出した。

その日の放課後。
「お袋がペッパーを連れて帰ってこいってうるさくて…」
車に乗り込んできたペッパーにそう告げたトニーは、いつもならそのままどこかに出掛けるのだが、途中ドライブスルーでコーヒーを買うと真っ直ぐ家へと車を走らせた。
今日の出来事を話し始めたペッパーだが、ふと思い出したのは昼休みの会話。
「先輩、あのね…」
と、運転するトニーをチラリと見たペッパーは、話してもいいかしらと上目遣いでトニーを見上げた。
「今日ね、友達に聞かれたの。先輩と私…”ABC”のどこまで進んだのかって…」

キキーっ!!

突然の急ブレーキにペッパーは持っていたカフェラテをぶちまけてしまった。
「トニー!危ないじゃないの!」
鞄の中からタオルを取り出したペッパーは慌ててスカートと車内を拭いたが、昨日トニーに買ってもらったばかりの真っ白なスカートは、無残にも琥珀色に染まってしまった。
「折角買ってもらったのに…トニー、ごめんなさい」
と、トニーの方に顔を向けたペッパーだが、珍しく真っ赤な顔をしたトニーは固まったままだ。
「先輩?」
目の前で手を振られ、トニーはようやく我に返った。何度か首を振ったトニーは咳払いをすると車を発進させた。
何とも言えない空気が車内を支配し、こんな話を振るなんて間違ってたわ…と、ペッパーが気まずくなった時だった。
「…Cって答えたのか?」
ボソッと呟いたトニーは気恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。
「こ、答えてないわよ!だって…先輩とのことは…その…私と先輩だけの…秘密にしたいから…」
頬を赤らめたペッパーはもじもじとスカートの裾を弄んでいる。そんなペッパーの様子にほっとしたように息を吐いたトニーは、車内に漂うコーヒーの香りに、ペッパーのカフェラテの惨劇にようやく気付いた。
「それより、スカート。お前、それじゃあ外も歩けないだろ?」
車の方向を変えるとトニーは、悪戯めいた笑みを浮かべた。
「スカートがその状態なら、下着も濡れてるだろ?替えを買ってくるからどこかで着替えないとな。あぁ、そうだ。着替える前に、お前の言う”C”を…」
「せ、先輩!!お母様がお待ちなんでしょ?!」
慌てふためくペッパーを他所に、トニーは涼しい顔で近場のショップの前に車を停車させた。
「俺たちが『仲良く』していて遅くなる分には、おふくろは怒らないさ。むしろ大喜びさ」
ニヤっと笑ったトニーはペッパーにキスをすると、口笛を吹きながら一人店へと向かった。
そして残されたペッパーは、やっぱり”ABC”の話はトニーにするんじゃなかったわと、一人頭を抱えたのだった。

***
リクエスト頂いた「高校生トニペパのお話」です。
タイトルは『えっちぃお題:106.ABC』より。

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