10月16日。
デスクの上に置かれた大きな包みに、今日は誕生日だったかとトニーは首を傾げた。
そこへやって来たのは、彼の秘書のペッパー・ポッツ。秘書となりまだ4か月弱の彼女だが、『ペッパーに聞けば何でも解決する』と言わしめる程、トニーは彼女のことを信頼していた。
「ポッツくん、これは何か知ってるか?」
指差された包みは数時間前に『手渡しした』ものなのに、すでに忘れてしまったらしい。呆れたように目をくるりと回したペッパーだが、その時の彼は先程嫌々出席していた定例会をどうやって欠席しようか考えるのに必死だったので聞いていなかったのだろう。
小さくため息を付いたペッパーだが、そんな光景も今や日常茶飯事なので、気を取り直してさも『あなたが戻る前に置きました』という表情を顔に張り付けた。
「プレゼントです」
ペッパーの言葉にトニーは再び首を傾げた。
「誰から?」
「私からです」
「今日は私の誕生日だったか?」
今日が何の日かまだ気付いていないのだろう。頭を捻らすトニーに、ペッパーは笑みを張り付けたままだ。
「違います。今日は『ボスの日』ですから。ご存じなかったんですか?」
知らなかった。道理で毎年10月16日は女性社員からプレゼント攻撃を受けていたはずだ。だが、トニー・スタークとあろう者が『知らなかった』とは言いたくない。
そこでトニーは頷くと如何にも知っていたというように鼻を鳴らした。
「そうだった。ボスの日だった。忙しくて忘れていた」
と、威張ってみたものの、今日は比較的暇だったのは秘書であるペッパーが一番よく知っているだろう。相変わらず笑みを張り付けたままのペッパーの視線にどうしてだか気恥ずかしくなったトニーはデスクの上の包みに手を掛けた。
「『ボスの日』があるなら、『秘書の日』もあるのか?」
ふと気になったトニーが尋ねると、さすがはペッパー。
「えぇ。4月の第4水曜日が『秘書の日』です」
と、すぐに答えが返って来た。
「覚えておこう。来年の秘書の日は期待しておいてくれ」
「期待してませんから」
クスッと笑ったペッパーに眉を吊り上げたトニーは何か言い返そうとしたが、彼女がいつになく不安げな顔をしているのに気付くと口を噤んだ。おそらく彼女のことだ、プレゼントの中身を気に入るか不安に思っているのだろう。となると、一刻も早く開封するのが得策だろう。そう思ったトニーは残っていた包装紙を乱暴に破ると中の箱を開けた。
プレゼントの中身は、アンティークな雰囲気漂うブリキ製の飛行機の模型だった。そしてそれは、トニーがずっと欲しいと思っていた物だった。
「ポッツくん!これは私が欲しかった物ではないか!なぜ知ってるんだ?!」
子供のように目を輝かせたトニーは模型を手に取ると、その場で空を飛ばすように動かし始めた。その姿は普段見ているトニーとは違い、純粋な少年時代の彼を垣間見ているようで、ペッパーはまた一つ彼の内面を覗けた気がした。
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10月16日は『ボスの日』。
出会って間もない頃の社長と秘書